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●最近、オープン・イノベーションという言葉を頻繁に目にするようになってきました。これは、企業の新事業展開のために、従来のような自前主義ではなく、社外の研究開発リソースを積極的に有効活用しようとする動きです。半導体製造企業のインテル等、欧米の企業から始まった経営戦略で、最近では、日本でも取り上げられるようになってきました。
●オープン・イノベーションの概念は、米国ハーバードビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ准教授が著書「OPEN INNOVATION」(2003年)で提唱したものです。この本の発表当時、私はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授から読む事を勧められたのですが、その斬新な内容にいたく感動し、今後は、このような動きが世界的に広まるであろうと、確信したことを思い出します。そしてそれ以来、世の中はまさにその方向に向かっていきました。これはまた私にとっても常に気になるトレンドであり、このコラムでも、オープン・イノベーションに関するトピックスを過去2回取り上げてきました(2008年、2012年)。
●さて、オープン・イノベーションの動きは、海外を中心に発展してきたのですが、ここ2、3年、日本での動きも活発になってきたように思います。先鞭をつけているのが、製薬企業です。新しい薬の研究開発には、事業化まで10年単位の年月と莫大な研究資金がかかりますので、このグローバル競争時代には、とても一社の経営資源だけでは対応できず、積極的に大学やベンチャー企業等の社外の研究リソースを活用する事が不可欠になってきたためです。従って、日本においても、製薬会社が、自らの必要とする技術課題を解決し、それを解決する提案を公募するようになりました。
●これは、従来の企業経営戦略としては画期的な出来事です。なぜなら、企業にとって、次期事業に関する情報は極秘事項であり、従来は決して社外には漏らさないものだったからです。しかし、現在の大競争社会では、研究開発を一社で抱え込んで時間がかかる独自開発戦略をとるよりは、社外の優れた知識を利用し、迅速に開発を進める方が結局競争の優位性を確保できるとの判断が働きつつあるのでしょう。
●ただ、日本におけるオープン・イノベーションの動きはまだ限定的です。製造業では、その概念の有用性は認められるものの、一部の大企業を除いては、まだ積極的な動きが見られません。その理由として、大企業は、人材、資金共に経営リソースが豊富であり、かつ、新事業への参入よりは既存製品の改良研究が主業務であるからだと思われます。
●このような状況は、日本のオープン・イノベーションの展開においては、いささか悲観的と見られます。しかし、私は、製造業においても、オープン・イノベーションの恩恵を最大限受けるべきなのは、大企業よりは中堅企業や中小企業であるのではないかと考えています。なぜなら、このような会社では経営資源が乏しいため、技術革新について行こうとすれば、常に外部からの人材や技術を導入していかねばならないからです。それを可能とする環境が、オープン・イノベーションの環境であると思います。
●オープン・イノベーションの環境が成り立つのは、広く社外に、技術や人材が分散していることが不可欠とされます。この条件は、近年の大企業人材の転職や退職に基づく流動性の高まりや、大学の産学連携機能の強化等で、段々と改善されているように見えます。高い技術を持った技術者、研究者、そしてベンチャー企業や大学等に、アクセスできる環境が整いつつあるのではないでしょうか。
●アクセス方法においても、従来は、人的なネットワークのみに頼っていたため、世の中にどのような有望技術があるかを知る術は非常に限定的でした。しかし、最近では、大学が、ホームページで、技術成果集を公開するなど、インターネットで必要な技術を検索できるようになりました。また、最近では、行政も、その環境つくりに力を注ぎ出し、企業のニーズ、シーズのマッチングサイトを立ち上げる動きが始まっています。さらに、ビジネスベースでのインターネットサービスも、始まりつつあります。
●このように、我が国においても、徐々にではありますが、オープン・イノベーションの環境整備が進みつつありますが、まだまだ問題は山積みです。残されている大きな問題は、例えばある企業が、社外に自社事業に資する有望な技術を導入したいと考えた場合、上記のように各種技術情報はインターネット上にありますが、その技術的に高度で膨大な情報の中から、自社にとって有益な情報をどのようにして探し出すか、という問題です。これを可能にするためには、自社にその事業戦略を深く理解し、かつ社外の技術を正当に評価できる人材がいなければなりません。つまり、社外の技術探索、評価、そして自社への導入戦略を担える
人材や組織が無ければ、有効に機能しないのです。これは、大企業でさえ問題ですが、人的資源の乏しい中堅・中小企業ではさらに致命的な問題となります。
●この問題を解決する方法の一つは、技術ニーズ・シーズのマッチング作業を担う、いわゆるコーディネータを育成して活用する事だと思います。現在、行政関係機関には、企業OB等の経験豊富なコーディネータがいますが、それに加えて、博士号やMBAを持つ若いコーディネータ層も必要ではないかと考えています。このコーディネータ層の強化こそが、ニーズとシーズの結びつき確率を高め、オープン・イノベーションの活性化を促進するものではないでしょうか。そして、そのためには、このような職種がビジネス的に成り立つ環境も必要になってくるように思います。オープン・イノベーションの環境整備の次の段階は、この部分の強化であると確信しますが、紙面も尽きてきたので、この話題はまたの機会に述べたいと思います。
(参考)日本のオープン・イノベーション・ITサービス
・ナイン・シグマ・ジャパン
http://www.ninesigma.co.jp/
・オープン・イノベーション・ソリューションサイト
http://open-inv.kitec.or.jp/open-inv/
・オープン・イノベーション・マッチングプラザ
http://www.matching-plaza.com/flow.php
・SNeedS
https://sneeeds.com/
・KNOW-MA
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馬塲孝夫(ばんばたかお) (MBA)
ティーベイション株式会社 代表取締役社長
株式会社遠藤照明 監査役
URL: http://www.t-vation.com
http://www.t-vation.com
◆技術経営(MOT)、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報
システムが専門です。◆