暦年贈与がなくなる?
(3)遺産分割に関する見直し(2019年7月1日施行)
①相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの 遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことを特別受益と言い ます。
特別受益があった場合は、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分は算定されます。
改正後の相続法では、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動 産の贈与があった場合、その居住用不動産については特別受益と評価されず遺産分割の計算対象から外れることになります。
② 被相続人の遺産は、亡くなった時点で相続人全員によって共有している状態となります。そのため、原則銀行などの金融機関は、遺産分割協議の前に被相続人の預金口座の払戻や名義 変更に応じない「口座凍結」状態になり、勝手に預金を引き出 すことはできませんでした。
このような状況から生じる相続人の生活上の不利益を一部解消するため、今改正では、預貯金の一部について単独の相続人による仮払制度の創設も行われました。この制度で引き出せる上 限額は、次の(イ)(ロ)のいずれか低い方の金額です。
(イ)当該預貯金の残高の3分の1に請求を行う相続人の法定相続分をかけた金額
(ロ)標準的な当面の必要生活費や平均的な葬儀費用を考慮して法務省令で定める金額(150万円)
③被相続人の遺言等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようにする。
(4)遺言制度に関する見直し(2019年1月13日施行)
①遺言書には、(イ)公正証書遺言(ロ)秘密証書遺言(ハ)自筆証書遺言の3種類があります。
特に、自筆証書遺言は、自分一人でいつでも作成できるため、広く一般に利用されています。しかし、自筆証書遺言は遺言全文、署名、日付のすべてを手書きする必要があり、財産目録
についても手書きの必要がありました。改正案では自筆証書遺 言の内容である本文自体は手書きする必要がありますが、財産 目録の部分は手書きでなくてもよいので、パソコンなどで 作成 した紙面の1枚ずつに署名・押印をすれば有効であるとしています。
②自筆証書遺言は、原本が1通しか存在しないにもかかわらず公正証書遺言とは異なり、保管についての規定が一切ありませ んでした。特に自宅での保管は遺言書の紛失・偽造の可能性があり、トラブルに発展する恐れがありました。この問題に対処するため、今回の新法創設により、封をしていない自筆証書遺言を法務局で保管することができるようになりました。
この制度は、自筆証書遺言の作成後、本人が法務局にその遺言 書を持参し、本人確認を受けた後、法務局がデータ化して保管するというものです。
この制度を利用する主なメリットは、遺言書の紛失や破棄の心配がない、形式不備で無効となる心配がない、検認不要ですぐに相続手続に入れるということです。
(5)遺留分制度に関する見直し(2019年7月1日施行)
遺留分とは、遺言の内容にかかわらず、兄弟姉妹以外の法定相続人が取得できる最低限の相続分のことです。
現状では、相続人に対する生前贈与については、特別受益として期間制限なしで遺留分の算定基礎財産に持ち戻されることになっています。今回の改正案では、持ち戻す期間を相続開始前 の10年間の贈与に限定しており、それより前の贈与については遺留分算定から除外することになっています。
「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる(原則、金銭による請求)ものとする」と改められ、事業承継に 不可欠な自社株式や事業用資産は後継者に承継しやすくなるでしょう。