一歩進んだインスペクションを。
悲痛な声
築4年の中古住宅を購入し、3年ほど暮らしてらっしゃる長野市の方よりメールをいただきました。
(プライバシーにかかわる部分は修正してあります)
-------------------------------------------------------------------
はじめまして。
突然の問い合わせで、申し訳ありません。
ブログでは、塩原さんの家作りに対するこだわりなど、いつもいつも本当に頭が下がる思いで読ませて頂いています。
我が家は平成24年4月に新築された一戸建てを
平成28年10月に売買により取得し、
現在、家族5人で住んでいます。
引っ越してきた当初から、リビングにみんなでいて勉強は三人一緒の子供部屋。
寝るときだけ寝室でと家族そろっての生活を送って来ましたが、
長女が受験生となった今年の夏から、一人生活リズムが異なってきたため、長女は一人部屋で布団を敷いて寝起きするようになりました。
夏場はエアコンで快適に過ごしていました。
この冬も、エアコンで部屋を温め勉強できるものと、考えていましたが、昨日の朝冷え込んだため、エアコンをつけて朝方寝入っていたのですが、昼前に布団を干したところ、布団の裏が濡れていました。
床を触ったところフローリングもぬれていて。2階の部屋なのに床が結露していました。
引っ越してきてから、この家の冬の異常な寒さには何度も何度も何度もおかしいとは思っていて、玄関ドアを交換したり、内窓をつけたり等対策はしてきたのですが、もう素人の私には限界です。
ただ、主人は『買ったばかりだしお金ないから、我慢して』というばかりで。
お金のことは主人任せなので、私にはどうにも説得もできないのですが。
来春からは、次女・長男が中学生になり男女の違いもあり、いくら小さめの2人も同じ部屋で寝起きさせていくわけにもいかないので、そのタイミングを見計らって、この寒い家を何とかできないものか?
アドバイスやご相談を頂けたらと考えています。
一度、我が家をみていただくことは可能でしょうか?
ぶしつけなお願いで、申し訳ありません。
よろしくお願いします。
--------------------------------------------------------------------------
中古住宅を購入する際は、欠陥住宅でないのか建築士にみてもらったりと、慎重にコトを進めてきたそうですが、
それほど寒い時期でもなく、当然無人の住宅でしたので、この中古住宅の断熱性能がどれほどなのかは分からなかったそうです。
それはそうでしょう。
我々建築業界に身を置くものでさえ、内覧しただけではその家の暮らし心地なんてわかるはずもありません。
築浅物件でしたので、「まあ、最近の家だから大丈夫でしょう」という気持ちで購入して当然かと思います。
床下や小屋裏を調査して確認できた仕様を、断熱性能を計算したものがこちらです。
Ua値は0.86
この地域での省エネ基準は0.75ですから、基準は満たしていませんが、努力目標であって罰則も建築主に告知義務もありません。
また現地調査により、気密もそれほどとれておらず、また間仕切り上部の気流止めも施工されていませんので、
実際にはこの断熱性能よりもずっと悪い状態です。
熱損失の量は窓からが圧倒的で、
「ペアガラスだから大丈夫だろう」
なんてのは真っ赤なウソになります。
使用されていたのはLIXIL社のデュオPGという、アルミ樹脂複合枠+ペアガラス。
WEBサイトを見たのですが、「断熱・防露」という表現もなされています。
ふつうの人は「大丈夫そうだ」でスルーしてしまいます。
この日外気温は2~3℃でしたが、室内側、サッシ枠の最低表面温度は0.1℃でした。
本格的な寒さはまだまだこれからでしょうが、結露した水は凍結し窓が開かなくなることもしばしばなんだそう。
暖房も開放式のガスファンヒーターということで、ビニールクロスでそこそこ気密がある家だと、窓ガラス、サッシ枠に限らず、室内のいたるところで結露が生じます。
2週間ほど温度・湿度を計測記録させていただいたのですが、
室温は外気に常に連動し、暖房をすると瞬間的に温度が上がるのですが、暖房をOFFにすると室温も急降下。
室温17℃、湿度60%の空気の露点温度は9.2℃。
この空気が9.2℃以下のものに触れると結露します。
断熱サッシとはいえ、日中でも表面はヒトケタ台なので、当然結露。
窓に近い床面や壁も冷輻射によって当然低温ですから、床面が結露してもなんら不思議はない環境でした。
ユニットバスの天井には点検口がついていますので、そこから調査を試みますが、天井には結露による水滴がどっさり。
換気しようと窓を開ければ当然凍ってやがては鍾乳洞。
連日、お風呂に入っていている際、頭や背中をしずくが襲って悲鳴をあげているそうです。
「築浅だからあたたかい」
「ペアガラスだからダイジョウブ」
「サッシの外面は、樹脂だと耐候性に難あり。アルミ樹脂複合サッシがベストなチョイスだ」
どれもよく耳にする安心感促進ワードです。
サッシメーカー担当者に聞くと、
「長野県では、まだまだアルミ樹脂複合がスタンダードで、ほとんどのハウスメーカーや工務店にご採用いただいています」
なんだとか。
ちなみにサッシだけを樹脂(または木製)にしただけで、Ua値は0.69に。
(省エネ基準0.75を大きくクリアします)
結露もかなりしにくくなりますが、コストアップは約20万。
これから家を建てる人、サッシ交換を含むリノベーションをする方は、布団の下がカビることがないよう、真っ先に樹脂サッシにすることを考えてください!
そして住宅を供給する側の我々住宅供給業界人たちよ、
住宅にはもはやアルミサッシ、アルミ樹脂複合サッシは採用してはならない。
賃貸住宅であってもしかり。
さらに付け加えさせていただきたい。
開放式のファンヒーターは、いくら「これで暖かくなる」からとはいえ、お客さんにおすすめしてはならない。