交通事故 解決までの道のり~物損編(2)~

笠中晴司

笠中晴司

テーマ:交通事故 実際の例など

1 交通事故の基本~損害額の確定~

  交通事故により発生した物的損害についての賠償関係は,
  民法でいう不法行為による損害賠償責任の問題になります。
  よって,その解決にあたっては,民法の不法行為の損害賠償の考え方の原則により処理されます。

  そこで,大きな問題は,「損害額の確定」と「過失相殺の有無及びその割合」です。

  まずは,「損害額の確定」から見ていきましょう。

(1)修理費
   交通事故の損害で最初に思い浮かぶのは,事故による車体の損傷を
   どう修理するかということでしょう。

では,修理費を確定する場合,どのような問題があるのでしょうか。

ア.被害金額は,必要かつ相当な範囲しか認められない。
   修理費の金額は,「原状回復」つまり,「原状(事故前の状況)に戻す」
   部分までしか認められません。

   よって,登録後すぐ事故にあったからとしても,「新車を買って返せ」というのは認められず,
   事故前の状態まで「修理して直す」のが原則です。

   また,一部の塗装のみが痛んだ場合,その一部のみの塗装費しか出ることはなく,
   全塗装の費用は損害と認められません。


    ただ,逆にいうと,修理費の場合は,
   「修理する,しないに限らず」,「必要かつ相当な範囲」と認定された金額は,
   損害と認定されます。

   つまり,極端な話,
   「一切修理をしなかった」としても,修理費に相当する金額の賠償を相手から
   受領することはできます。

イ.修理ができるとしても,「経済的全損」として,修理費が損害と認められないケースがある。

   先ほど,損害賠償の原則は,「原状回復」と言いましたが,「原状に戻す」のは,
   何も,「該当事故車両を修理して元に戻す」必要はなく,
   「原状と同様の別車両を調達して元に戻す」という方法でも構わないということになります。

  そして,たとえ被害者であっても,「損害を最小限に抑える義務はある」とされ,
  被害者がその義務を果たさない場合は,「最小限」部分以上の損害を相手に
  請求することはできません。

  とすると,「修理費用」>「同等の別車両調達費用」の場合(このような場合を
  「経済的全損」と言います。),「修理費」は損害とは認められず,
  「同等の別車両調達費用」が損害となります。

  なお,被害者の方のマイカーへの思い入れが強い場合があり,この考え方をするがために,
  示談に至らないというケースが過去多数ありました。

  ということを考えて,最近の任意保険の中には,「経済的全損価格+50万円程度(超過金額は,
  契約内容により異なる)」まで修理費を支払うことで,示談が成立しやすくするという特約
  (「対物超過修理費用補償特約」と言います)がついている場合があります。
  
(2)代車費用
   代車費用は,交通事故により,車両が使用できなくなり,結果,他の代替手段として,
   代車を利用する必要があり,かつ,「実際に代車を利用して,代車費用を支払った
   (又は支払う必要が発生した)」場合に認められます。
   代車の代わりに,タクシー等の代替交通機関を利用した場合は,交通費として認められます。

 ア.実際に利用する必要はあるが,実際に利用したとしても,すべてが損害と認められるわけではない。

   先ほども述べましたが,被害者であっても,「損害を最小限に抑える義務」があり,
   被害者がその義務を果たさない場合は,「最小限」部分以上の損害を相手に請求することは
   できません。
  
   これを代車費用で見ると,「被害者は,代車の利用も最小限で済むよう努力しなければならない」
   ということになります。

   つまり,具体的には,
  ◇修理する場合は,過失等でもめていて示談ができていなくても,
   早急に修理をして代車の利用期間をできるだけ短くする。

  ◇新車に買い替えする場合は,新車購入手続きを迅速に終え,代車の利用期間を最低限にする。
  ということです。
   
   そして,裁判などで,認められる代車費用の利用期間は,修理で最大2週間程度
   (但し,修理に相当な期間の範囲内,一方,修理に相当な期間がそれ以上になると
   客観的に言える場合は,2週間を超える場合もあり),新車購入で最大1ヶ月程度となります。

 イ.同じ車種のレンタカー代が認められるわけではない。
   
   よくもめるのが,「自分は,フェラーリに乗っていたから,代車もフェラーリでないとダメ」
   という主張です。

   ただ,よほどの理由がない限り,「フェラーリ」等の高級外車の代車費用は認められず,
   認められるとしても,国産高級車レベル程度までです。

(3)評価損(格落ち)
   
   交通事故にあった車両は,販売する時にいわゆる「事故車」扱いがされることがあり,
   そうなると,販売価格が大きく下がることはよくご存じかと思います。
  
   とすると,その部分,つまり,販売価格が低下する分の損害(「評価損」または「格落ち」
   と言います)を請求したいということになります。

   では,どのような場合に,どのくらいの金額が認められるのでしょうか。

 ア.認められる条件
   ◇登録から長くて3年目以内程度なこと
   ◇市場で売買できるくらいの人気車であること
   ◇事故により,車両の本体部分にまで損傷が行っていること
     バンパー等は交換さえすれば,問題ないとされます。 
     また,表面の凹み等だけでは,板金や取り替えで問題ないとされます。

 イ.認められる金額
   原則的には,修理費をベースに考え,修理費の1~3割程度。
   但し,すでに売却することが決まっていたり,事故後売却して,
   事故にあったことによる損害額がハッキリとわかるケースは,
   その損害額まで認められることがあります。
   また,高級外車などでも,上記金額より高額な評価損が認められるケースがあります。

2 まとめ

  以上が,物損の主たる損害についての説明です。
  これだけでも,かなり大量になりました。
  しかし,一般の方が,これをすべて頭に入れる必要はありません。
  弁護士に相談すれば,これらのうち,該当しそうなものをピックアップして,
  相談された方にできるだけ有利な解決ができるよう,アドバイスをするということになりますので,
  ご安心ください。

  次回は,過失割合と実際に賠償額の計算方法を説明したいと思います。 

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Mybestpro Members

笠中晴司
専門家

笠中晴司(弁護士)

丹波橋法律事務所

大学卒業後,民間企業(地元銀行)で10年間勤務。その後,志をもって弁護士を目指し,弁護士になってから丸17年の経験を積みました。経験に基づく,バランス感覚は,他の弁護士より優れていると自負しています。

笠中晴司プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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