交通事故解決までの道のり~物損編(6)~
1 交通事故の基本~損害額の確定~
交通事故により発生した物的損害についての賠償関係は,
民法でいう不法行為による損害賠償責任の問題になります。
よって,その解決にあたっては,民法の不法行為の損害賠償の考え方の原則により処理されます。
そこで,大きな問題は,「損害額の確定」と「過失相殺の有無及びその割合」です。
まずは,「損害額の確定」から見ていきましょう。
(1)修理費
交通事故の損害で最初に思い浮かぶのは,事故による車体の損傷を
どう修理するかということでしょう。
では,修理費を確定する場合,どのような問題があるのでしょうか。
ア.被害金額は,必要かつ相当な範囲しか認められない。
修理費の金額は,「原状回復」つまり,「原状(事故前の状況)に戻す」
部分までしか認められません。
よって,登録後すぐ事故にあったからとしても,「新車を買って返せ」というのは認められず,
事故前の状態まで「修理して直す」のが原則です。
また,一部の塗装のみが痛んだ場合,その一部のみの塗装費しか出ることはなく,
全塗装の費用は損害と認められません。
ただ,逆にいうと,修理費の場合は,
「修理する,しないに限らず」,「必要かつ相当な範囲」と認定された金額は,
損害と認定されます。
つまり,極端な話,
「一切修理をしなかった」としても,修理費に相当する金額の賠償を相手から
受領することはできます。
イ.修理ができるとしても,「経済的全損」として,修理費が損害と認められないケースがある。
先ほど,損害賠償の原則は,「原状回復」と言いましたが,「原状に戻す」のは,
何も,「該当事故車両を修理して元に戻す」必要はなく,
「原状と同様の別車両を調達して元に戻す」という方法でも構わないということになります。
そして,たとえ被害者であっても,「損害を最小限に抑える義務はある」とされ,
被害者がその義務を果たさない場合は,「最小限」部分以上の損害を相手に
請求することはできません。
とすると,「修理費用」>「同等の別車両調達費用」の場合(このような場合を
「経済的全損」と言います。),「修理費」は損害とは認められず,
「同等の別車両調達費用」が損害となります。
なお,被害者の方のマイカーへの思い入れが強い場合があり,この考え方をするがために,
示談に至らないというケースが過去多数ありました。
ということを考えて,最近の任意保険の中には,「経済的全損価格+50万円程度(超過金額は,
契約内容により異なる)」まで修理費を支払うことで,示談が成立しやすくするという特約
(「対物超過修理費用補償特約」と言います)がついている場合があります。
(2)代車費用
代車費用は,交通事故により,車両が使用できなくなり,結果,他の代替手段として,
代車を利用する必要があり,かつ,「実際に代車を利用して,代車費用を支払った
(又は支払う必要が発生した)」場合に認められます。
代車の代わりに,タクシー等の代替交通機関を利用した場合は,交通費として認められます。
ア.実際に利用する必要はあるが,実際に利用したとしても,すべてが損害と認められるわけではない。
先ほども述べましたが,被害者であっても,「損害を最小限に抑える義務」があり,
被害者がその義務を果たさない場合は,「最小限」部分以上の損害を相手に請求することは
できません。
これを代車費用で見ると,「被害者は,代車の利用も最小限で済むよう努力しなければならない」
ということになります。
つまり,具体的には,
◇修理する場合は,過失等でもめていて示談ができていなくても,
早急に修理をして代車の利用期間をできるだけ短くする。
◇新車に買い替えする場合は,新車購入手続きを迅速に終え,代車の利用期間を最低限にする。
ということです。
そして,裁判などで,認められる代車費用の利用期間は,修理で最大2週間程度
(但し,修理に相当な期間の範囲内,一方,修理に相当な期間がそれ以上になると
客観的に言える場合は,2週間を超える場合もあり),新車購入で最大1ヶ月程度となります。
イ.同じ車種のレンタカー代が認められるわけではない。
よくもめるのが,「自分は,フェラーリに乗っていたから,代車もフェラーリでないとダメ」
という主張です。
ただ,よほどの理由がない限り,「フェラーリ」等の高級外車の代車費用は認められず,
認められるとしても,国産高級車レベル程度までです。
(3)評価損(格落ち)
交通事故にあった車両は,販売する時にいわゆる「事故車」扱いがされることがあり,
そうなると,販売価格が大きく下がることはよくご存じかと思います。
とすると,その部分,つまり,販売価格が低下する分の損害(「評価損」または「格落ち」
と言います)を請求したいということになります。
では,どのような場合に,どのくらいの金額が認められるのでしょうか。
ア.認められる条件
◇登録から長くて3年目以内程度なこと
◇市場で売買できるくらいの人気車であること
◇事故により,車両の本体部分にまで損傷が行っていること
バンパー等は交換さえすれば,問題ないとされます。
また,表面の凹み等だけでは,板金や取り替えで問題ないとされます。
イ.認められる金額
原則的には,修理費をベースに考え,修理費の1~3割程度。
但し,すでに売却することが決まっていたり,事故後売却して,
事故にあったことによる損害額がハッキリとわかるケースは,
その損害額まで認められることがあります。
また,高級外車などでも,上記金額より高額な評価損が認められるケースがあります。
2 まとめ
以上が,物損の主たる損害についての説明です。
これだけでも,かなり大量になりました。
しかし,一般の方が,これをすべて頭に入れる必要はありません。
弁護士に相談すれば,これらのうち,該当しそうなものをピックアップして,
相談された方にできるだけ有利な解決ができるよう,アドバイスをするということになりますので,
ご安心ください。
次回は,過失割合と実際に賠償額の計算方法を説明したいと思います。