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著作物とは
著作権法による保護を受けるのは、著作物に限ります。
著作権法には著作物が例示されていて、美術に関しては、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」とされています。
絵画、版画、彫刻などは美術鑑賞を目的に制作されるもので、純粋美術と呼ばれています。
そしてこの「美術の著作物」には、「美術工芸品を含むものとする」とされていますが、これは一品制作の物であり、量産品は含まれないと考えられています。
応用美術の保護
しかし、実用品として量産され鑑賞を目的に制作されたものでなくても、美術の一種として鑑賞の対象になり得る応用美術と呼ばれるものがあります。
そして、著作物の保護に関する国際条約では、応用美術も保護すべき著作物とされています。
ただ、これをどのように保護するかは、各国がそれぞれに定めることができます。
意匠法との関係
工業製品のデザインを保護する法律としては、意匠法があります。
特許庁における審査を経て登録されれれば、物品と結びついた意匠権が発生します。
そして、産業の発達を目的として付与される意匠権は、産業活動を妨げることがないように、さまざまに制限が設けられています。
これに対し、著作権法での保護に登録は必要とされず、その保護期間は意匠権よりも圧倒的に長く、また物品との結びつきもありません。
そのため、応用美術に対し安易に著作物性を認めると、産業活動を制約することになりかねません。
そこで、どのような応用美術であれば著作物性を認めることができるかが問題となってきます。
「タコの滑り台」判決
この点について、「タコの滑り台」の著作物性が争われた判決(知財高裁令和3・12・6)は、実用品であって純粋美術と言えないものでも、美的鑑賞の対象となり得るものであれば美術の範囲に属するとし、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る創作的表現を備えた部分を把握できるのであれば、全体を美術の著作物として保護される、と判断していました。
簡単に言うと、実用目的から分離した美的な表現を備えているかどうかで著作物性を判断すべきということであり、このような考え方を分離可能性説と言う向きもあり、現在、このような考え方が主流と言えるでしょう。
本判決
布団生地の絵柄の著作物性が争われた本判決(大阪高裁令和5・4・27)では、実用品のデザインについては、「その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性をを備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく」、美術の著作物に当たらないと分離可能性説の立場に立ち、「実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならない」としました。
そして、問題となった絵柄について、これを「基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品に用いる大きな絵柄模様とするための工夫である」から創作的表現が実用目的によって制約されている、衣料製品の絵柄に用いるという実用目的によって創作的表現が制約されていることが明らかであるから、産業上の利用を離れて独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは言えず、美術の著作物にあたらない、と結論しました。
分離可能性説に立ったうえで、実用目的で制約されていることが明らかかどうかという判断基準を立てている点が特徴的かと思います。
ただ、「明らか」かどうかという点に関しては、なかなか判断が微妙であるようにも思え、予測が難しいとも言えるのではないでしょうか。