現在を生きる(京都新聞掲載)
技術革新は、現状に対する不満から始まります。
現状に対する不満を認識して、これを改善するためにはA分野で技術の進歩が必要であるというときに、その分野で技術開発が加速します。
そしてA分野で技術革新が生じると、関連するB分野の技術との不均衡を生じることがあります。
そこで今度は、B分野の技術が遅れているためA分野の技術革新の結果が最大化できないという現状の不満となって、B分野の技術開発が加速します。
同じように、B分野で技術発展を遂げると今度はC分野がボトルネックになり、C分野で技術が発展すると最初のA分野が足りなくなりというふうに、技術開発が次々に発展していくことになります。
1960年代に、経済史家のローゼンバーグが、技術的不均衡による技術開発の発展過程について論じたことです。
このような理由で生じる技術発展は、どの分野に技術的な不均衡があるのかを探れば達成できるので、天性の才能を必要とすることはありません。
各部門にいるスペシャリストからなる組織よりも、全体を見渡すゼネラリストからなる組織の方が、技術的不均衡をいち早く察知して次の段階へ進むことができると言えます。
しかし、この技術的不均衡による技術発展は、最初にA分野の技術革新がなければ発生しません。
この最初の技術革新は不均衡の認知で生じるのではないので、ゼネラリストよりもスペシャリストが得意とすることでしょうし、技術的にも経済的にも、あまたの失敗を覚悟することが必要でしょう。
20世紀に日本が家電や自動車で世界を席巻したのも、そして21世紀になって失速し始めたのも、こう考えると、なんとなく納得してしまいます。