早期退職者を技術顧問として活用する ~発明の完成と特許を受ける権利~
原告商品形態は、平成16年頃の時点において、客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当であり、また、原告の出所を示すものとして需要者に認識され、不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されたものとなったものと認めることが相当である。
事案の概要
X(株式会社良品計画)は、平成9年1月ころから、X字状に交差するクロスバーを背面の支柱の間に掛け渡した組み立て式の棚(ユニットシェル)を販売していました。
Y(株式会社カインズ)は、平成25年7月ころから、同じようにX字状に交差するクロスバーを背面の支柱の間に掛け渡したユニットシェルフを販売していました。
Yの販売がXの最初の販売から3年以上経過していますので、仮にYのユニットシェルフがXのユニットシェルフの模倣であったとしても、同条1項3号の形態模倣を主張することはできません。
そこでXは、Yの行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張して、Yに対し、ユニットシェルフの販売差止めと廃棄とを求めました。
判決の概要
争点
不正競争防止法2条1項1号の混同惹起行為を主張するためには、
①Xの収納棚がXの商品等表示として需要者の間に広く認識されていること、
②Yの収納棚がXの収納棚と同一又は類似でXの収納棚と混同を生じるおそれがあること、
の立証が必要になり、本件では、Xの商品が①の商品等表示に該当するかが主たる争点になります。
商品等表示とは
ここで「商品等表示」とは、特定の事業者の出所を表示するものを言います。
多くの場合、ロゴマークや商標などが、商品等表示として機能します。
商品の形態は、通常は商品の出所を表示する目的で決められるものではありませんが、商品の出所を表示する二次的な意味を持つに至る場合があり、このような場合には不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当することがあります。
そのための要件として、知財高裁H24・12・26は、
①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していること(特別顕著性)、
②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、またはきわめて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績により、
需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)、
を挙げ、特別顕著性と周知性とから商品等表示に該当するかどうかを判断するものとしています。
本判決の判断
本判決においても、この枠組みで商品等表示に該当するかが判断されています。
特別顕著性
つまり、
①原告商品形態の特別顕著性について、
「原告商品は、このような形態であることにより特にシンプルですっきりしたという印象を与える外観を有するとの特徴を有するもので、」
「原告商品形態を有することによって需要者に強い印象を与えるものといえる。」
「平成20年頃まで原告商品形態を有する同種の製品があったとは認められないことを併せ考えると、平成16年頃の時点において、原告商品形態は客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当である。」
周知性
また、
②周知性について、
「原告商品は、全体の外観に特徴を有する原告商品形態を有する一連の商品として、原告商品形態を一見して認識し得る形で長期間、相当大規模に宣伝等され、販売されてきたといえる。」
「他方、原告商品形態と同じ形態の商品が平成20年頃までの間に販売されたことを認めるに足りない。」
「このように特徴のある原告商品形態を有する原告商品が、5年を超える期間にわたる上記のような態様での原告の独占的かつ相当大規模な宣伝販売活動により、購入者を含む需要者の目に触れてきたことからすると、原告商品形態は、平成16年頃には、原告の出所を示すものとして需要者に認識され、不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されたものとなったものと認めることが相当である。」
ということです。
雑感
これまでに商品の形態が商品等表示として認められた例としては、iMacやリーバイスの弓型ステッチなどがありますが、それほど多くはありません。
意匠登録も商標登録もない商品に独占的権利を安易に認めると、産業活動が委縮する弊害が考えられます。
たとえば、この商品が意匠登録されていたとしたら、平成9年当時、意匠権の存続期間は登録日から15年でしたから、現在では意匠権は消滅していることになります。
不正競争防止法2条1項3号の形態模倣も、3年の期間制限があります。
商標権は10年の存続期間を何度でも更新できますが、商標権は登録されています。
これに対し不正競争防止法2条1項1号で保護される商品等表示は登録がありませんから、どれが保護されるのか明確ではありません。
その認定は慎重にしなければ、産業活動を阻害するおそれがあります。
どこの商品かを知らずにカインズの収納棚を見たとき、これは以前から売られている業者の商品だと間違う程度になっていたのかということですから、①の特別顕著性の程度と、どの程度で②の周知性を獲得するかは無関係ではあり得ず、またこれに明確な基準があるわけでもありません。
商品形態についても立体商標として商標登録が可能であることを考えれば、商品等表示該当性については慎重に判断すべきではないかと思います。
参考条文
不正競争防止法
(定義)
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為