中小企業が備えるべき労働移動の規程整備
はじめに
第1部では、日本と世界主要国のGDPや失業率データを比較し、日本が直面する構造的な人手不足の現状を整理しました。日本の失業率は2.5%と世界的にも極めて低い水準にあり、「働きたい人はすでに働いている」という売り手市場が続いています。
第2部は、こうした人手不足時代を乗り越えるため、「雇用対策の世界の動向」と「日本の労務実務」に焦点を当てます。
シニア人材の活躍推進、若年層の定着、そして育児や介護と仕事の両立を図る柔軟な働き方について、各国の施策と日本の法改正を対比しながら、企業が取り組むべき実践的な労務対策を解説します。
人手不足時代における人材活用の課題
採用活動を行っても若手からの応募が来ない、せっかく採用した社員が数年で離職してしまう、あるいはベテラン社員の定年退職に伴い現場の技術承継がされないといった悩みを抱える経営者様は多くいらっしゃいます。
従来の「若手・フルタイム・男性中心」の雇用モデルでは、人手不足を乗り切ることは難しいです。求められているのは、シニア層や育児・介護期にある社員、多様なバックグラウンドを持つ人材が最大限に力を発揮できる職場環境の整備です。
雇用対策:柔軟な働き方の世界との比較
厚生労働省が公表した報告書等のデータに基づき、世界各国におけるシニア対策、若年対策、および柔軟な働き方(両立支援)の取り組み動向を整理しました。
| 国・地域 | シニア対策や対応例(定年・雇用継続) | 若年対策(採用・育成) | 柔軟な働き方・両立支援 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 65歳定年引き上げ・義務化、70歳までの就業機会確保努力義務 | 新卒一括採用から通年採用・ジョブ型採用への移行模索 | 2025年改定育児・介護休業法(残業免除拡大、テレワーク努力義務等) |
| アメリカ | 最低賃金を受けながらのパートタイムの就業体験やジョブセンターを通じた就労支援 | 低所得などの青少年等に対し、技能・知識を習得させる教育・職業訓練 | 12か月以上雇用労働者を対象に、出産・育児・介護等を理由として、最大 12 週間の無給休暇の取得 |
| フランス | 57 歳以上で老齢年金満額受給に必要な加入期間を満たしておらず、求職活動中又は整理解雇により職業安定化契約した者について、最長18 か月の契約締結可能 | 職業訓練と雇用を組み合わせた交互訓練契約、社会的孤立状態にある若者を対象とした若年者雇用契約 | 母親休暇(16 週)、父親休暇(28 日)に加え1か月または2か月の休暇取得可能な追加出生休暇の創設 |
| ドイツ | 年金受給開始年齢の67歳引き上げと段階的定年延長、長期就労インセンティブとして所得税控除が受けられる「アクティブ年金」導入 | 職業学校における教育と企業における実践的な職業訓練を並行して行う「デュアルシステム」導入 | 希望する者は誰でもフルタイムから時短勤務に移行可能、フルタイムから一時的に時短勤務へ移行した労働者が再び元のフルタイムに復帰する権利を保障 |
| 中国 | 定年年齢の段階的引き上げ(男性60歳→63歳、女性50~55歳→55~58歳) | 補助金、減税等の企業支援策を活用した若年者雇用奨励 | 労災保険対象外のギグワーカー(オンラインドライバーなど)向けの新しい労災制度を試行 |
上記のように、世界各国でシニア層への定年延長や労働力不足に対応するための雇用継続制度の導入が進んでいます。
また、欧州諸国を中心に、仕事と生活の調和を図るための両立支援制度なども法制化されています。
日本においても、この世界の潮流と歩調を合わせるように制度改正が進められています。
多様な人材を引きつける労務環境の整備
労務の観点から、企業が取り組むべき労務実務のポイントを整理します。
1.「育児・介護休業法」への対応と就業規則の見直し
2025年に全面施行された改定育児・介護休業法では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対する柔軟な働き方を確保するための措置(テレワーク、短時間勤務、時短勤務、新たな休暇の付与等から2つ以上を選択して設置)が義務付けられました。
また、残業(所定外労働)免除の対象が「3歳未満」から「小学校就学前」まで拡大され、介護離職防止のための個別の周知・意向確認も義務化されています。
企業は、単に法律を遵守するだけでなく、自社の就業規則や育児・介護休業規定を速やかに改定する必要があります。また、制度を導入するだけでなく、現場で実際に利用しやすいよう「業務の標準化」や「多能工化」を進め、特定の社員に負担が偏らない職場体制を構築することが重要です。
2.シニア層のモチベーションを維持する再雇用・役割設定
高齢者雇用安定法により、企業には70歳までの就業機会確保に向けた努力義務が課されています。しかし、実態は「60歳定年後に再雇用された途端、給与が大幅に下がり、仕事内容も雑務中心になってモチベーションが低下する」という課題が生じています。
シニア人材の活躍を促進するためには、年齢に応じた一律の待遇見直しではなく、担う役割や成果に応じた評価・賃金制度を設計することが欠かせません。
現役世代の指導役としての役割を明確にしたり、短時間・週3~4日勤務などの多様な勤務形態を用意したりすることで、貴重な技術やノウハウを社内に継承しながら、シニア社員の意欲を引き出すことが可能となります。
まとめ
今回の主なポイントは以下の通りです。
【主なポイント】
- 世界各国では、定年延長や年金支給開始年齢の引き上げ、柔軟な働き方の法制化が進められている
- 育児介護休業法への対応として、就業規則の整備と柔軟な勤務制度の導入が必須
- シニア層の活用には、単なる雇用継続にとどまらず、役割や成果に応じた評価制度とモチベーションを維持する職場環境づくりが不可欠
第3部では、「最低賃金・労働時間・解雇制度の世界比較と日本の労務実務」をテーマに、賃金引上げと労働時間管理が企業経営に与える影響を解説します。
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