2025年4月施行の介護休業法の改正について
はじめに
第2部では、世界のシニア・若手の雇用対策や育児・介護や仕事との両立などの柔軟な働き方のトレンドを比較し、日本の企業が取り組むべき労務環境の整備について解説しました。
第3部は、「最低賃金の引き上げ」「労働時間規制」「解雇制度」といった労使ルールの世界との比較を取り上げます。各国との制度の違いを踏まえ、解雇制限が極めて厳しい日本において、企業を労務トラブルから守るための労務管理について解説します。
賃上げ・労働時間規制・労使トラブルへの懸念
近年、全国平均の最低賃金が引き上げられ、企業の人件費負担は増加の一途をたどっています。また、残業時間の上限規制をはじめとする労働時間管理の徹底が求められる中、従業員との意識のギャップやパフォーマンス不足を原因とした労使トラブルの相談を聞きます。
海外では最低賃金が時給2,000円を超える地域も珍しくなく、解雇ルールや労働時間規制も国ごとに大きく異なります。
労働環境・労使ルールの世界との比較
厚生労働省などが公表しているデータや労働法制に基づき、世界各国の労働環境と労使ルールを整理しました。
| 国・地域 | 最低賃金・人件費 | 労働時間規制 | 解雇制度・ルール | 労災・セーフティネット |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 全国加重平均1,121円(2025年度)、引上げ基調が継続 | 原則1日8時間・週40時間、36協定による残業上限規制を適用 | 解雇権濫用法理により厳格に制限、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要 | 労災保険・雇用保険が整備、業務上の負傷・病気に対する手厚い給付 |
| アメリカ | 州・都市により異なる、時給16ドル(約2,500円)の地域も | FLSA(公平労働基準法)に基づき週40時間超は50%の割増賃金 | 随意雇用(At-will Employment)が原則、差別や報復でない限り自由解雇が可能 | 州ごとの労災補償保険制度、公的雇用保険は州と連邦の二重構造 |
| フランス | 全国最低賃金12.02ユーロ(約2,166円) | 週35時間労働制、時間外は25%(44時間以上は50%)割増し、もしくは代償休息 | 個人的理由による解雇は雇用契約の終了することが正当とされる「真実かつ重大な理由」が必要 | 国民保健サービスと一体となった労災・社会保障体系 |
| ドイツ | 法定最低賃金13.9ユーロ(約2,505円) | 労働時間法により1日8時間(最大10時間)、日曜日・祝日勤務の原則禁止 | 同一事業所で6か月超勤務の従業員の解雇には、「社会的に正当性のある理由」が必要、使用者側からの解雇の場合は勤務年数に応じた予告期間が必要(最長7か月) | 職種別業界組合のほか、各州の災害金庫が運営 |
| 中国 | 基準は自治体が制定、上海市等で月給2,740元=約64,170円程度 | 労働時間は1日8時間・週40時間、残業時間は月36時間以内に制限かつ割増しは50%を下回らない | 労働契約法により限定列挙された理由のみ解雇可、経済補償金(退職金)の支払義務あり | 社会保険の一部として労災保険制度を展開 |
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欧米では最低賃金が時給2,000円に達している国が多く、日本に比べて人件費水準が高いです。
一方、解雇ルールに関しては、アメリカのように「随意雇用」を原則とし解雇の自由度が高い国や、表には記載していませんが欧州の中には不当解雇時の「金銭解決制度」が法制化されている国が存在します。
日本の労働法制は「解雇権濫用法理」によって労働者が保護されており、企業が一方的に従業員を解雇することは極めて困難です。
解雇が難しい日本で企業を守る労務管理
日本の解雇制限と最低賃金引き上げに対応するため、企業が取るべき対策をまとめます。
1.不当解雇トラブルを防ぐ「適切な人事評価制度」と「指導・改善プロセスの記録」
日本では、単に「能力が不足している」「協調性がない」といった理由だけで解雇を行うと、後に不当解雇として裁判や労働審判で敗訴し、多額の未払い賃金や解決金の支払いを命じられるリスクがあります。
企業を防衛するためには、感覚的な判断を排除し、職務内容や求められる成果を明確にした「人事評価制度」を導入することが必要です。
また、問題行動やパフォーマンス不足が見られる従業員に対しては、具体的な改善指示を出し、研修や面談を実施した上で、そのやり取りや指導内容を記録(面談記録、指導書、メール履歴等)として残すプロセスが極めて重要となります。
十分な改善機会を与えた客観的な証拠があって初めて、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が認められます。
2.最低賃金引き上げに対応する雇用契約・就業規則の見直し
毎年秋に実施される最低賃金の改定により、基本給だけでなく各種手当を含めた基本給水準のチェックが欠かせません。最低賃金の対象外となる手当(精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外手当等)を除外した上で、時給換算額が地域の最低賃金を下回っていないかを定期的に点検する必要があります。
さらに、固定残業代(みなし残業手当)を採用している企業では、最低賃金が上がることで設定された時間単価が法律を下回る事態が発生しやすくなります。雇用契約書や就業規則を定期的に見直し、基本給と固定手当のバランスを正しく再設計することが、後発的な労使トラブルや不払い残業問題を防ぐ鍵となります。
まとめ
今回の主なポイントは以下の通りです。
【主なポイント】
- 欧米の最低賃金は時給2,000円前後の水準に達しており、日本でも最低賃金の引き上げ基調が継続している
- アメリカの随意雇用や欧州の金銭解決制度に対し、日本は解雇権濫用法理により解雇が困難である
- 不当解雇リスクを避けるため、明確な評価制度の導入と「指導・改善プロセスの記録」を徹底することが不可欠
- 最低賃金の改定に合わせて、固定残業代を含む雇用契約書や就業規則の定期的な見直しを行う必要がある
第4部では、「日本への影響と、経営者が取るべき労務・財務対策」をテーマに、人件費高騰と人材確保を両立させる対策について考察します。
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