副業・兼業時代の人材戦略 【第3部】制度対応から“選ばれる企業”への転換
はじめに
第1部では2026年度税制改正による賃上げ促進税制の見直し内容を、第2部では中小企業が直面する財務面・労務面の影響を整理しました。
税制優遇が縮小される中でも、人材確保や定着のために賃上げは避けて通れない課題です。
しかし、「税制に頼らない賃上げ」を実現するには、企業の収益力と生産性向上が不可欠です。
第3部では、税制見直し時代において中小企業が持続的な賃上げを実現するための対策を、「財務×労務」の両面から整理します。
財務面の対策
1.価格転嫁の適正化
中小企業庁の資料によれば、価格への労務費の転嫁率は依然として低い水準です。
原材料費高騰の他、「賃上げを実施」も理由として取引先との価格交渉に臨むことが重要です。
2.補助金・助成金の活用
税額控除は「利益が出ている時」しか恩恵がありませんが、助成金は「取り組んだ事」に対して支払われます。
| 制度 | 目的 | 活用のポイント |
|---|---|---|
| 業務改善助成金 | 賃上げ+設備投資 | PCやPOSレジ、機械導入などの費用を助成 |
| キャリアアップ助成金 | 非正規の正社員化 | 賃上げと併せて正社員化により助成 |
| 人材開発支援助成金 | 従業員の教育 | 研修費用や訓練中の賃金の一部を国がサポート |
労務面の対策
1.生産性向上:「属人化」からの脱却
限られた人材で成果を最大化するには、業務の標準化が不可欠です。「〇〇さんにしか分からない」という属人化は、経営の最大のリスクです。
【取り組み事例】
・業務の可視化とマニュアル化
「誰でも同じ品質でできる」仕組み作り
・クロストレーニング(多能工化)
一人が複数の業務を担当できるよう教育、急な欠員や繁忙期にも柔軟に対応できる体制を構築
・デジタルツールの導入
総務省「情報通信白書(2024年)」によれば、IT投資に積極的な中小企業は、そうでない企業に比べ労働生産性が約1.3倍高い結果に
2.「柔軟な働き方」の推進
賃金だけでなく、働きやすさも従業員の定着や採用力に大きく影響します。
特に、若い世代やワークライフバランスを重視する人材にとって、柔軟な働き方は重要な判断基準となっています。
| 施策 | メリット |
|---|---|
| テレワークの導入 | 通勤負担の軽減、離職率が導入なしの企業に比べ約20%低い(厚労省調査) |
| フレックスタイム制 | 育児や介護など、個々の事情に合わせた柔軟な就業が可能 |
| 時間単位の有給休暇 | 「ちょっとした用事」で休みやすくし、有給取得率を向上 |
| 短時間正社員制度 | 多様な人材(シニア・育児中の方等)の活用と定着 |
これらの施策は巨額の投資を必要とせず、就業規則の見直しにより始められます。
3.継続的な人材育成投資
教育訓練費の税制優遇は廃止されましたが、人材育成そのものは続ける必要があります。
税制メリットがなくても、人材育成を「先行投資」として位置づけ、継続的に取り組む姿勢が求められます。
【取り組み事例】
・リスキリング支援:DXやAI時代に対応したスキル習得
・キャリアパスの明示:従業員が成長イメージを持てる仕組み
まとめ
賃上げ促進税制の縮小という「逆風」は、見方を変えれば、自社の収益構造と労働環境を根本から見直すきっかけとなります。
財務:キャッシュフローの精査と改善、助成金を原資として活用
労務:属人化を排除し生産性を向上、働きやすさと教育をセットで提供
税制優遇が縮小される今こそ、企業は「税制に頼らない持続可能な賃上げ体制」を構築する好機と捉え、財務基盤の強化と労務環境の整備を進めるよい機会となります。むしろ、今変わらなければ、人材確保競争で後れを取り、企業の成長機会を失うリスクがあります。
しかし、この変革を乗り越えた企業は、より強固な経営基盤と優秀な人材を獲得し、持続的な成長を実現できると思います。
マネジスタ湘南社労士事務所は、財務、労務に関する相談を承ります。お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。



