【第1部】労働供給制約社会を生き抜く~令和8年度厚労省予算案から読み解く中小企業の変革の羅針盤
はじめに
2025年12月に公表された「令和8年度(2026年度)税制改正大綱」において、これまで企業の賃上げを後押ししてきた「賃上げ促進税制」が大幅に見直されることになりました。
この制度は、従業員への給与を引き上げた企業に対して法人税の税額控除を認める仕組みで、物価上昇への対応や人材確保の観点から多くの企業が活用してきました。
しかし今回の改正では、大企業向け措置の前倒し廃止、中堅企業向け措置の段階的廃止、そして中小企業向けでも控除率の縮小という大きな方向転換が打ち出されています。
特に注目すべきは、会計検査院の指摘を受けた「教育訓練費に係る上乗せ措置」が全企業を対象に廃止されることです。
第1部では、今回の税制改正を時系列で整理し、企業規模ごとにどのような変更が行われるのかを整理します。
賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制とは、企業が前年度と比較して従業員への給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から税額控除できる制度です。
従来、この制度には以下の3つの柱がありました。
- 基本の税額控除: 給与総額が一定率以上増加した場合に適用
- 上乗せ措置(教育訓練費増加): 従業員のスキルアップ投資を行った企業への追加控除
- 上乗せ措置(子育て両立、女性活躍支援):くるみんやえるぼし認定企業への追加控除
中小企業では最大で給与増加額の45%が税額控除されるなど、企業の賃上げ意欲を高める制度として機能してきました。
会計検査院の指摘~教育訓練費上乗せ措置の問題点
今回の改正の大きな契機となったのが、会計検査院による令和7年(2025年)1月の報告書です。この報告書では、「教育訓練費に係る上乗せ税額控除」の適用を受けた法人の76%以上で、税額控除額が教育訓練費の実際の増加額を上回っているという実態が明らかにされました。
具体的には、教育訓練費を少額増やすだけで、その増加額を大きく超える税負担の軽減を受けられる構造となっており、制度設計として不適切との指摘を受けたのです。
企業規模の判定基準と見直しスケジュール
まず、自社がどの区分に該当するかを再確認する必要があります。
| 区分 | 判定基準(資本金・従業員数) |
|---|---|
| 中小企業 | 資本金1億円以下(かつ大規模法人に支配されていない等) |
| 中堅企業 | 資本金10億円未満かつ従業員数2,000人以下(中小企業を除く) |
| 大企業 | 上記以外の法人 |
今回の改正は、企業の規模によって以下のスケジュールで改正されます。
| 対象 | 2026年3月末まで | 2026年4月以降 | 2027年4月以降 |
|---|---|---|---|
| 大企業 | 制度存続(教育上乗せ廃止) | 制度廃止(前倒し) | 廃止継続 |
| 中堅企業 | 制度存続(要件3%以上) | 要件厳格化(4%以上) | 制度廃止 |
| 中小企業 | 最大控除率 45% | 最大控除率 35% | 最大控除率35%継続 |
まとめ
第1部では、改正の背景と判定基準、そして「優遇措置の縮小・廃止」という時系列の整理を行いました。特に教育訓練費の上乗せ廃止は、中小企業にとって実質的な増税要因となります。
次の第2部では、この制度改正が財務面、労務面にどのような影響を与えるのかを整理します。



