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倒産に備える

伊藤惠悦

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テーマ:その他

人手不足による倒産が懸念されています。最近の失業率は2%台後半と低位にあります。ホテル、飲食業などのサービス業では需要はあっても、従業員不足からサービスが提供できず、需要に応えられないという状況もあるようです。そうした状態を受けて、大手企業を中心に賃上げが相次いでいます。賃上げできる余力があればいいのですが、その力がなければ、従業員を確保できず、営業が立ちゆかなくなるという事態も想定されます。

「倒産」と聞くと、すべからく避けなければならないという印象を持ちがちですが、経済全体を俯瞰して見れば、産業の新陳代謝のために、ある程度は受け入れざるをえないものです。その観点からすれば、倒産を避けることばかりに集中するのではなく、一定程度の倒産は不可避だということを基本認識に、政府や企業も、そして労働者個人も対応する必要があると思います。

経済全体のパイが拡大しているときは、古い産業を温存しながら、新しい産業を取り込むことも可能です。しかし、現在は人口減少等に制約され、経済の拡大は難しい状況にあります。こうした状況下で、経済に新産業を取り入れるためには、新陳代謝が必要になります。

ヒト、モノ、カネ等の資源は有限であり、すべての企業の要望に応じることはできません。これまでは倒産といえば、資源の中で主としてカネを中心に論じていたのですが、これからは、労働力不足の深刻化で、ヒトに焦点が当たるようになるでしょう。生産性の低い企業に希少な労働力を貼り付けることは経済全体として非効率です。したがって、生産性の低い企業は労働力を調達できなくなり、市場からの退出を迫られることになります。

従前より我が国は、個人の雇用を守るためには、今存在する企業をできるだけ存続させるべきだ、という考え方が主流でした。いわば、雇用維持責任が企業に課されていたといえます。ですから、経営者は企業を長期的に維持することを優先し、将来の成長のための投資より、自己資本の蓄積に向かう傾向がありました。それが生産性を引き上げられない一因ともなっていました。
経済成長のためには新陳代謝が必要であり、経済全体のパイが拡大しない以上、生産性の悪い企業の市場からの退出は避けられません。そうした前提の下に、政策当局も労働者も対応しなければなりません。

コロナ禍で創設された実質無利子、無担保のゼロゼロ融資には、本来は市場から退出すべき生産性の悪い企業も守るという側面もあったことは否定できません。しかし、政策当局は生産性の悪化した企業を存続させることにより労働者を守るのではなく、そうした企業の市場からの退出を容認しながら、直接そこで働く労働者を守るという方向に政策の方針を変えるべきだと思います。市場からの退出を迫られる企業の労働者に対して、失業保険を充実することに加え、リスキリングなどの支援を行い、生産性の高い企業への転進を容易にするような雇用の流動化対策が必要になります。また、労働者の側も現在所属する企業でしか使えない特定の人脈の醸成や技能の修得に固執するのではなく、どこの企業でも通用する幅広い人脈と汎用的なスキルを身につける努力が求められます。

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

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伊藤惠悦(税理士)

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