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株価は経済の体温計ではなくなった

伊藤惠悦

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テーマ:その他

日経平均株価は25年6月30日現在では4万円を超え、割と好調に推移しています。しかし、物価上昇が激しいせいか、その割には経済の高揚感は感じられません。「株価は経済の体温計」といわれていた時期もありましたが、最近、株価と経済実態に乖離があるように感じます。1989年のバブル時と比較して、株価と経済の関係を考えてみましょう。

1989年のバブル時は株価の上昇とともに、国民全体の熱狂感があったのですが、今はそうした雰囲気ではありません。証券界や株式を保有している人には過熱感があるのかもしれませんが、大多数の国民を巻き込むような熱狂は感じられません。株価上昇の直接の恩恵を受けない多くの国民は「上がるときもあれば、下がるときもある」といった冷めた感じで傍観しているように見受けられます。

バブルの生成に不可欠な要素として借入金も忘れてはなりません。前回のバブルでは、証券会社が一定の利回りを保証した営業特金(現在は禁止されています)に力を入れていたこともあり、多くの企業で「財テク」と称した借入金を活用した株式の購入が盛んに行われていました。借入金をテコにすることで、バブルは素早く大きく膨らみますが、バブルがはじけるときはその影響は広範に拡散します。というのは、自己資本の範囲内で株式や土地の投資を行っている分には、投資で損失が出ても、自己資本内で処理可能で、他人に迷惑をかけずに済みます。ところが、借入金を利用していれば、損失が発生すると、借入金が返済不能となり、カネを貸している銀行等に損失が連鎖的に波及します。そうすると売りが売りを呼び暴落を引き起こし、ついには金融危機に発展し、経済社会全体を大きな混乱に巻き込むのです。ところが、今回は借入で大きく投資を行っているという話は余り耳にしません。

このように、今回は「熱狂」と「借入金」を欠いているので、多少の調整はあるにしても、前回のような暴落は起こらないような気がします。だからといって、この株価上昇を機に日本が再び上昇気流に乗るというのも、それもまた違うのではないかと思います。人口減少や少子高齢化、肥大化した財政・金融など、この国の成長を妨げる根本的諸課題について解決の糸口さえ見いだせていないどころか、悪化しているように見えるからです。ここで明らかになったのは、株価と庶民生活の乖離だと思います。

かつて、「株価は経済の体温計」だといわれていました。経済の体温計であれば、株価が上昇していれば、経済は温まり、国民生活は豊かになっているはずです。しかし、国民生活に密着する経済統計を見ると、GDP成長率の低迷、実質賃金の低下というように、株価上昇に相反する発表が相次いでいます。これでは株価が上昇しても、国内消費が盛り上がらないのも無理はありません。

今の状況は、株価は一般の庶民生活とは懸け離れたところで動いているように感じます。「株価は富裕層の体温計」ではあるでしょうが、「国民の体温計」にはなっていないのです。「経済の体温計」だからこそ、時の政権は株価上昇策に腐心したのですが、株価が単に「富裕層の体温計」に過ぎないとしたら、株価対策ではなく、国民生活が豊かになる経済対策が求められると思います。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

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