事業承継を契機とした企業成長に向けた後継経営者の準備
経済産業省・特許庁が2018年に公表した「『デザイン経営』宣言」によると、デザイン経営とはデザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営です。ここでいうデザインには、ブランド構築に資するデザインとイノベーションに資するデザインの二つがあります。
中小企業庁編「中小企業白書2022年版」では、中小企業・小規模事業者に対して実施したアンケート調査の結果に基づき、中小企業におけるデザイン経営に向けた取り組みの実施状況及びその効果について整理しています。
上記アンケート調査の結果からまずデザイン経営の認知状況及びデザイン経営の取組状況についてみると、認知状況によらず、既に取り組んでいる企業の割合は12.2%にとどまっています。また、デザイン経営について「元々知っている」と回答した企業の割合も13.7%となっており、デザイン経営の認知度が一部にとどまっている様子がうかがえます。
デザイン経営に「既に取り組み、定着している」と回答した企業に対して、デザイン経営の体制について聞いたところ、「経営者がデザイン責任者」と回答した企業の割合が63.4%と最も高くなっており、デザイン経営の取り組みにおいては、経営者による関与が重要であることがわかります。
デザイン経営に取り組むことよる効果について回答割合の高い順にみると、「企業のブランド構築やブランド力向上(69.0%)」、「魅力ある商品・サービス・事業の創出(53.1%)」、「従業員の意欲や自社への愛着心の向上(51.8%)」となっており、デザイン経営に取り組むことにより、ブランド力の向上だけでなく幅広い効果があることがわかります。
では、中小企業におけるデザイン経営の推進に向けて具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。そこで、中小企業庁編「中小企業白書2022年版」において、社外のアートディレクターと共にデザイン経営に取り組み自社のブランド力を向上させた企業事例として紹介された環境大善株式会社(北海道北見市)の取り組みについてみていきましょう。
環境大善株式会社は、牛のし尿を再利用した、消臭液、土壌改良材の製造・販売を行う企業です。同社では現社長への事業承継を契機に自社の存在意義を改めて見直し、リブランディングを行うことにしました。そこでアートディレクターと共に、2018年よりデザイン経営に取り組み始めました。
まず、ブランドコンセプトの見直しに際して徹底的な自社の分析を行い新たな経営理念を掲げました。そして、従業員向けの冊子を作成し社内に経営理念や存在意義、行動指針を共有していきました。
また、社名変更や新たなシンボルマークも作成しました。従業員の制服や請求書など様々な箇所でシンボルマークを使用し、インターナル・ブランディングを進めていきました。社外に対しても、地元紙への広告掲載やオンライン番組の配信を実施し、自社ブランドの浸透を進めました。
2021年には、商品パッケージのリニューアルを行いました。ブランドコンセプトを基に、同社が新たな顧客ターゲットとして見据える若年層への親しみやすさにも配慮しながら、対象となる百貨店や雑貨店、ホームセンターなど顧客層別にパッケージをそれぞれデザインしました。
このように中小企業におけるデザイン経営の推進には、経営者がリーダーシップを発揮することがカギになるのです。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)