学業不振のとらえと支援③
精神発達を促す力(ポテンシャリティ)は、非常に多数の遺伝子(DNA)がその因子をなしているとのことです。このように発達の遅速や到達レベルの高低は、極めて多数の諸因子の複合によって、はじめて決まると考えられています。つまり、多数の因子の複合によって決まるため、発達の度合いは切れ目のない連続性をもったものとしてあらわれます。
ペンローズは知能検査の数値の分布、すなわち認識の発達レベルの社会的な分布の研究に取り組みました。ペンローズは、知的な発達レベルが果たして正規分布(大多数は平均値の周辺に集まるけれども、平均値から高い方にも低い方にも連続した広い幅をもちます。ただし、平均値から離れるほどその数がぐっと減っていくという左右対称の弧を描く分布図となる。)をなすかどうか、知能検査の結果から確かめてみた。その結果はほぼ正規分布となり、とりわけ平均値(IQ100)より高い方はぴったり確率論どおりの分布曲線を描いた。ところが、低い方は平均より裾が若干持ち上がっていることを発見しました。
この結果から、ペンローズは知的な発達のおくれには大きく二つのグループに分かれると考えた。第一のグループは、「生理群」と名付け、自然現象(生理現象)としておくれが生じるグループで、平均より大きくおくれる者が必ず一定の確率で自然に生じることによります。これは異常現象でも病理現象でもなく、確率論的に生じざるを得ない自然の個体差(個人差)です。
第二のグループは、「病理群」と名付け、なんらかの病理的な障害の結果として発達がおくれるグループで、それがなければ発達がおくれなかったはずの子どもがなんらかの病理現象を強いられたため、それに足を引っ張られて発達がおくれてしまったものを指します。脳なり環境なりのどこかに明らかな病理性が見出せ、それが負荷条件となって生じたおくれのグループです。自然の個人差として生じる生理群にこの病理群が加わるため、そのぶん分布曲線の左側(低い方)が持ち上がるのです。
精神発達とは、極めて多数の因子に支えられて進むという性質上、個体差としての「おくれ」を必ずはらむことを本質としています。これが「発達障害」という現象の「根本因」といえるかもしれません。
※参考文献 子どものための精神医学 滝川一廣著