デイビッド・セイン著「日本人のちょっとヘンな英語」について考える~その2
さて、ホッチキスと言うのは、stapler を最初に発売した米国の社名であったという発見で嬉しくなってしまった私です。が、その次に、機関銃の発明者Benjamin B.Hotchkissがなぜ文房具のホッチキスを考案したのかという謎にとらわれてしまいました。
広辞苑の「ホッチキス」の項には、(アメリカの兵器発明家ホッチキスBenjamin B.Hotchkissの名に因る)とカッコ付きの前書きの後に「①機関銃の一種 ②紙綴器の一種」と書いてあります。これでは、ベンジャミンがどちらを発明したかわかりません。
大辞林には、はっきり「アメリカ人ホチキス(B. B. Hotchkiss)が発明した。」とあります。
日本語版Wikipedia「ホッチキス」のページには、正確な社名はE.H.Hotchkissだと書いてあります。BenjaminとE.H.Hotchkissはともに米国コネチカット州の出身であることから、Benjaminの弟である、或いは甥である、という説もあるようです。「19世紀の半ばには今のホッチキスと同様の構造を持つステープラーも既に造られている。これは,E.H.Hotchkiss社の創立(1895)より前である。」確かに、その創立年が正しければ、1885年に死亡しているB.B.Hotchkissがホッチキスを発明したということは考えにくいです。
Wikipedia英語版ではBenjamin B. Hotchkiss はホッチキス機関銃を発明した米国のエンジニアであるとなっています。冒頭には、"Not to be confused with George Hotchkiss, namesake of the word for 'stapler' in Japan." 「日本でステープラーの語源となったジョージ・ホッチキスと混同しないように」とあります。ここで新たに登場したジョージ・ホッチキスなる人物は?と思い、調べました。しかし、英語版・日本語版ともにGeorge Hotchkissの項は存在しません。では、この注意書きを書いた人物はどこからジョージの名前を持ってきたのでしょうか。
あるウェブページでホッチキス社の歴史を見つけました。そこには、こう書かれています。
December 21, 1895 - Incorporated in Norwalk, Connecticut as The Jones Manufacturing Company. George and Eli Hubbell Hotchkiss were among the incorporators.
November 12, 1897 - Name changed by court order to the E. H. Hotchkiss Company.
「1895年12月21日 - コネチカット州でジョーンズ製造会社が有限会社として発足。ジョージとエリ・ハベル(E.H.)ホッチキスが発起人に名を連ねる」
「1897年11月12日 - 裁判所命令により、E.H.ホッチキス社に社名を変更」
つまり、ジョージとエリ・ハベルの二人のホッチキス氏が会社を興したようです。
更に、社史は続きます。
1910 - First shipment of the Hotchkiss Fastener to Japan (with no word to identify a paper fastener, the Japanese adopt the name “Hotchkiss”. Shortly after, Japan occupies Korea and again, “Hotchkiss” becomes the word to describe the fastener in that country )
「1910年 - 日本にホッチキス紙綴器を初めて輸出。名称がなかったため、日本人はホッチキスの名を使った。その後、日本は朝鮮半島を占領したので、朝鮮でもホッチキスの名を使うことになった」
"The First web page Dedicated to Antique Fasteners"
http://www.oocities.org/typewriterexchange/hotchkiss01.html
韓国でもホッチキスと呼ばれていることは知りませんでした。輸入したイトーキ(の前身)の人たちは、どこにも商品名がなかったので、invoice(送り状)にあった社名を器具の名前としてそのまま使ったのでしょう。また、ホッチキスの歴史というページも見つけましたが、そこにも同様の記述があります。
"That revolution would come in 1895, when the E.H. Hotchkiss Company of Norwalk, Connecticut, began selling their so-called No. 1 Paper Fastener. It used a long strip of wired-together staples, and thanks to its speedy ease-of-use, became so popular that it became simply known as 'the Hotchkiss.' (To this day, in fact, the word for stapler in Japanese is 'hochikisu,' though the company has long been out of business.)" "A Brief History of Staplers" (August 2009)
「革命は(注‐ホッチキスという新製品の発明のことを指します)1895年コネチカットのE.H.ホッチキス社がいわゆる『ナンバー1紙綴器』を販売したときに始まる。それは針金で束ねられた長いU字型の金具を使ったもので、作業が速く使い方も簡単だったので大好評になり、『ホッチキス』として知られるようになった。(事実、ホッチキス社はとうに廃業しているのに今日に至るまで日本語ではホチキスと呼んでいる)」
要約してみます。
- ホッチキス社がstaplerと言う名称を書かずに輸出したため、日本でホッチキスと呼ばれる事になった
- ベンジャミン・ホッチキスは機関銃の発明者で、ホッチキスを作った人ではない
- ホッチキスを製品化し、販売を始めたのはジョージとエリ・ハベル・ホッチキスの二人である
- ベンジャミンとその二人は親戚かも知れないが、詳細は不明
随分と時間がかかりましたが、納得の結果が得られました。私のPCの傍らには今ホッチキスがあります。それを眺めていると明治時代に初めて輸入されたときのことを思って何だか微笑ましく思えてきます。余談ですが、実はこれは商品名なのでテレビでは言わないことになっているんですって。今回、あちこちをネットで調べていたら「テレビ出演の際に『ステープラーと言ってください』と言われた」というブログも見つけました。「ステープラー」で日本国内で通用するでしょうか?そうなると、逆に英語ですぐに通じて便利なのかもしれませんね。
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