36【不動産投資】家賃アップ交渉について

竹下昌成

竹下昌成

テーマ:不動産投資

不動産投資の重要なポイントである家賃についてご紹介していきます。適正な家賃とは「相場」です。同じマンションの別部屋、近隣家賃の平均と言ってよいでしょう。入居者、オーナー、それぞれが「相場」を意識しておくことが大事です。法律は入居者に有利になっています。普通に生活していた経年劣化や日常損耗に対して損害賠償を要求されませんし、物件の所有者が変わっても住み続けることが可能です。しかし、家賃は部屋や時機によって差があります。例えば、同じマンションでも部屋ごとに家賃が違ったり、新築時から住んでいる人の家賃は高いままというのが代表例です。家賃が相場より高過ぎても、低過ぎても、自動的に補正されるわけではありません。入居者側かオーナー側、どちらかがアクションを起こして初めて交渉開始です。お互いに相場を基準にルールに則って話し合いましょう。
 
1.家賃相場の状況
インフレでモノやサービスの値段がどんどん上がっています。不動産では物件価格やリフォーム費用が跳ね上がり、マンションの管理費修繕積立金の値上げラッシュです。にもかかわらず、家賃にはまだ反映されていないと見ています。理由は大きく2つ。
①家賃設定時機の問題
退去時に合わせて家賃設定を見直すのが一般的なので家賃アップは後追いになりがちです。デフレが続いていたため入居中に家賃を上げるという発想が定着していません。
②不動産賃貸市場の特殊さ
オーナー側の問題です。不動産の所有者は大会社から個人までさまざまです。個人でも1つだけ持ってたり、たくさん持っていたり。ビジネスライクに考えるオーナーもいれば、とりあえず貸しておく、管理会社に任せている、考え方もさまざまです。懐具合と考え方がそれぞれ違うということです。余裕のあるオーナーは低い家賃で募集して空室を回避し、余裕のないオーナーもそれに対抗して家賃を下げる。家賃を下げるのがイヤなら順番待ち。低い家賃の部屋の入居が決まった後にようやく検討対象になれます。そもそも、物件の購入価格もバラバラです。これらが市場全体として家賃アップに向かっていない要因だと思います。
③今後の見通し
「割安な家賃の上昇」と「家賃の2極化」が進むでしょう。
オーナー側からすると、家賃は毎月のCFに加えて売却価格に直結します。実利5%の物件の家賃を1万円アップできれば売却価格は240万円アップできる計算になります。不動産価格が高騰しているので、家賃が割安な物件を購入し、家賃を上昇させてから維持する、売却するという戦略が増えてくるでしょう。入居者としては“家賃を上げられた”、という感覚になるかもしれませんが”今までが割安で住めていた”、ということだと思います。
一方で、家賃が上がらない、上げれない物件も増えます。地方や不便な地域、魅力のない物件です。家賃の2極化、つまりは物件価格の2極化がどんどん進んでいくでしょう。

2.家賃交渉をしない理由
・オーナーが家賃交渉(増額)をしない理由
入居中で家賃交渉して退去されると費用がかさみます。原状回復費用、次の入居者募集の広告料、空室期間の逸失利益。これらを考えると家賃が割安でも現状維持がよいと考えるオーナーは多いです。なにより、「めんどくさい」。これがホンネでしょう。入居管理会社としても家賃値上げ交渉の提案まで手が回りません。膨大な業務を抱えている中で、あえて波風をたてて、仕事を増やしたくない。こちらも「めんどくさい」という話です。オーナーとしては家賃アップを丸投げするのではなく、相場感や進め方を確認し、文書の文言などを入居管理会社と相談しながら進めるべきでしょう。リスクもリターンも最終的にはオーナーに行きつきます。

・入居者が家賃交渉(減額)をしない理由
 一番多いのは「交渉できることを知らない」ということでしょう。「そんなことをしたら退去させられるのでは!?」、という考えもよぎるかもしれません。また、いくら強制的に追い出されることはなくても気持ちよく住めなくなるのはイヤですね。少しネットを調べれば近隣の家賃相場が分かります。相場よりも理由なく割高で、「面倒だけどやってみよう」という場合はチャレンジされることになります。こちらも交渉の窓口は入居管理会社となります。

3.家賃アップに適した条件
・物件価格が値上がりしている
・個人の場合、長期譲渡期間に入っている
・オーナーチェンジより空室で売却したほうが高く売れる
・相場よりも家賃が低い
・退去した次の募集 
退去してからの賃貸再募集は家賃設定を上げれるタイミングです。プチリフォームして家賃アップするなども有効です。“一組に入居してもらえばよい”、だけなのでペット可であればキャットウォーク、室内チャリ置き場、3口ガスコンロ、アクセントクロスなどいろいろ考えられます。

4.事例
オーナー側からの家賃アップについての直近の事例を紹介しておきます。
(1)賃貸中 オーナーチェンジで購入

福岡市中央区 64平米1LDK
家賃72,500円で賃貸中  相場85,000円前後
・空室のほうが高く売れる物件。家賃交渉不調で退去時は売却の計画。  
契約更新時期の1年前から家賃アップを通知開始
72,500円→ 85,000円
1年前、半年前、3カ月前の3回の家賃改定通知を予定
1年前、半年前に通知した際は反応なし。
・結果:退去&売却。
退去3カ月前通知を送る前に退去申し出となった。退去理由「家賃アップを通知されて憤慨している」。その後、空室のまま売却。

(2)賃貸中 オーナーチェンジで購入
福岡市博多区 35平米1ルーム
家賃55,000円で賃貸中  相場70,000円前後
・売却予定なし。家賃交渉不調で退去時は相場家賃で再募集の計画。
電気温水器が故障し交換発生。その際に半年後の契約更新時期から家賃アップを通知。



55,000円→68,000円
・結果:居住継続。家賃アップを了承。

(3)退去済  オーナ―チェンジで購入

兵庫県宝塚市 45平米2DK
家賃60,000円で賃貸していたが退去 相場60,000円前後
・売却もしくは再賃貸。どちらか早いほうを計画。
値上がりしているため売却メイン。売却:6年前に450万円で購入、800万円でネット掲載開始。賃貸:建物管理費3,000円アップ予定があるため家賃63,000円で入居募集。
・結果:賃貸継続。
63,000円で入居申込。退去日の午後に内覧、申し込みという早さ。6年前の購入時は家賃55,000円だったのでかなり改善できている。広めで手頃な家賃の部屋が少ない地域なので競争力のある物件。

(4)賃貸中 オーナーチェンジで購入

福岡市博多区 65平米3LDK
家賃76,000円で賃貸中 相場80,000円前後
・売却メイン。家賃交渉の可否にかかわらず売却を計画。
ローンで購入した物件。あまりCFは出ておらず、値上がりしているため売却検討中。入居者に割安で買取を打診するも反応なし。マンションだが駐車場所有権付きという特長のある物件のため相場にプラスαできる。
・結果:交渉中
①家賃アップ了承の場合
利回りが改善するため売却に有利。実利5%で逆算すると6,000円アップは144万円の物件価格上昇要因となる。6,000円x12ヶ月÷0.05=1,440,000円。もちろん賃貸継続も選択肢にできる。
②退去になる場合
実需で空室のほうが高く売れる物件、9年所有しているため長期譲渡所得になっている。退去のほうが200万程度高く売れそう。

5.まとめ
・入居管理会社頼みにしない
・契約更新時期から逆算して早めに交渉開始
・入居者とオーナー、お互いに丁寧に礼儀と節度をもって交渉

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