経営環境の激変と中小建設業経営
建設会社の経営者から、
「工事では利益が出ているはずなのに、なぜかお金が残らない」
という話を聞くことがあります。
工事台帳を確認しても赤字ではない。
予定していた粗利も確保できそうです。
それでも、預金残高は思ったほど増えていない。場合によっては、工事が進むにつれて預金が減っていくことさえあります。
これは必ずしも、その工事の採算が悪いからではありません。
建設業では、**利益が出るタイミングと現金が動くタイミングが一致しない**からです。
## 粗利200万円でも、途中では資金が減ることがある
例えば、1,000万円で請け負った工事を考えてみます。
最終的な工事原価が800万円であれば、粗利は200万円です。
工事別採算だけを見れば、きちんと利益が出ています。
しかし、実際の工事では完成して1,000万円が入金されるまで、会社からさまざまなお金が出ていきます。
材料代、外注費、現場で働く社員の給与などです。
例えば、
4月 材料・外注費の支払い
5月 材料・外注費の支払い
6月 工事完成
7月 工事代金を請求
8月 工事代金が入金
という流れであれば、会社は入金までの間、工事に必要な資金を先に負担することになります。
最終的に200万円の粗利が出ることと、その途中で資金が足りることは別問題なのです。
## 工事別粗利が分かっても、経営管理はまだ完成ではない
建設会社では、工事ごとの粗利を把握することが重要です。
どの工事で利益が出ているのか。
どの工事で採算が悪化しているのか。
これが分からなければ、会社全体の利益を管理することも難しくなります。
しかし、工事別粗利が把握できれば、それですべて解決するわけではありません。
粗利から分かるのは、
**「その工事が最終的にいくらの利益を生むのか」**
です。
一方、会社経営では、
**「その利益が現金になるまでに、会社がどれだけ資金を負担するのか」**
も重要になります。
この二つを分けて考える必要があります。
## 建設業の財務管理には「時間軸」が必要
一般的な試算表では、一定期間の売上、原価、経費、利益を確認します。
もちろん、これは大切な情報です。
しかし建設業の経営実態を把握するには、それだけでは見えにくい部分があります。
工事には、
着工
↓
材料・外注費等の発生
↓
工事進捗
↓
完成
↓
請求
↓
入金
という時間の流れがあるからです。
この間、支払いと入金が同じタイミングで発生するとは限りません。
そのため、同じ200万円の粗利が見込まれる工事でも、支払い条件や入金条件が違えば、会社の資金に与える影響は違います。
建設会社の数字を見る際には、
**「いくら利益が出るのか」だけでなく、「いつ現金が出て、いつ入ってくるのか」という時間軸を加えて考える必要があります。**
## 「利益が出ているから資金も大丈夫」とは限らない
会社が黒字であることは、もちろん重要です。
利益が出なければ、長期的に会社を維持することはできません。
しかし、
「黒字だから資金繰りも問題ない」
とは限りません。
建設業では、工事が動いている途中で材料費や外注費などを先に負担することがあります。
つまり、利益の問題と資金の問題は関連していますが、同じものではありません。
この違いを理解することが、建設会社の財務管理を考える第一歩になります。
そして、ここは金融機関に会社の状況を説明するうえでも重要な視点です。
単に「今期は利益が出る予定です」と説明するだけでは、会社がこれからどのように資金を必要とするのかまでは伝わりません。
まず会社自身が、利益と現金を分けて把握できる状態を作る必要があります。
## 建設会社の数字は「利益の先」まで見る
これまで工事別採算を管理してきた会社であれば、次に考えたいのは、
「その利益がいつ現金になるのか」
という視点です。
工事の利益を見る。
そのうえで、現金の動きも見る。
この二つがつながることで、建設会社の経営実態はより立体的に見えるようになります。
これは単なる資金繰り表の作成という話ではありません。
**工事の採算と会社の財務をつなげて考えるということです。**
建設業の経営管理では、この視点が非常に重要だと考えています。
## 最後に
「利益が出ているのにお金が残らない」という問題は、建設業に限ったものではありません。
製造業では材料を仕入れてから製品代金を回収するまで、卸売業では仕入代金を支払ってから売掛金を回収するまで、それぞれ時間差があります。
会社経営では、
**利益を生み出すことと、その利益が現金になるまでの資金を確保することの両方が必要です。**
特に建設業は、工事期間や支払い・入金条件によって、この時間差が大きくなりやすい業種です。
だからこそ、工事別の利益を把握したその先に、現金の動きを見る経営管理が必要になります。
### 次回予告
次回は、
**「受注が増えた会社ほど、なぜ資金が苦しくなることがあるのか」**
について取り上げます。
受注が増えることは会社にとって良いことのはずです。
それでも、仕事が増えたことによって資金負担が大きくなる会社があります。
なぜそのようなことが起きるのか、建設業の受注と資金の関係から考えていきます。


