新商品開発、売れる仕組み作り、業務改革によって、ビジネスモデルの転換を図った小規模企業の事例を紹介します。
2025年、世界の自動車産業に激震が走りました。トランプ米政権が、国家安全保障
を名目に「通商拡大法232条」を発動し、輸入される自動車および同部品に対して
最大25%という高い追加関税を課すことを決定したのです 。
この措置は、自動車が4月3日から、部品が5月3日から適用され、米国市場を生命線
とする日本の自動車メーカーに深刻な影響を及ぼしています 。
まるで1980年代の日米自動車摩擦の再来を思わせるこの状況 。しかし、今回は電動化
という100年に一度の大変革期と重なり、その様相はより複雑です。本シリーズでは
2回にわたり、この「トランプ関税」が日本の自動車産業に与える影響と、各社の戦略
を深掘りします。第1回は、まず「現状と課題」を整理します。
●日本経済を揺るがす衝撃の大きさ
今回の関税は、一企業の経営問題をはるかに超え、日本経済全体を揺るがすマグニチュ
ードを持っています。
あるシンクタンクの試算によれば、この関税によって日本の実質GDPは0.36%減少
する可能性があるとされています 。別の試算では、輸出減少による直接的な影響だけ
でもGDPを0.20%押し下げ、関連産業への波及効果を含めるとその影響は0.52%に
まで拡大するとも指摘されています 。
自動車産業は、鉄鋼、部品、化学、電子など裾野が非常に広く、その影響は計り知れ
ません。もし国内の自動車生産が10%減少する事態になれば、年間の実質GDPは5兆
円も押し下げられ、約5.4万人の雇用が失われるという衝撃的な予測もあります 。
●全メーカー共通の「3つの課題」
この未曾有の危機に際し、日本の自動車メーカーは共通して3つの大きな課題に直面
しています。
1. コスト増と価格転嫁のジレンマ
25%の追加関税は、そのまま企業のコスト増に直結します。例えば、日本で400万円
の車を米国で売る場合、関税だけで100万円以上が上乗せされ、販売価格は510万円
にもなりかねません 。しかし、これを単純に価格に転嫁すれば、競争力を失い販売
台数が激減するのは目に見えています 。かといって、メーカーがコストをすべて吸収
し続ければ、収益は大幅に悪化します。米国の調査機関は、この関税による車両コスト
の増加総額が1,077億ドル(約17兆円)に達すると試算しており、その影響の大きさ
がうかがえます 。
2. 生産拠点の見直しという難問
関税を回避する最も直接的な方法は、米国内での生産を増やす「現地化」です 。しか
し、これは簡単な決断ではありません。新しい工場を建設するには、数千億円規模の
巨額の投資と、計画から稼働まで3~4年という長い時間が必要です 。さらに、インフ
レが進む米国では、人件費や建設コストも高騰しています 。
そして最大の障壁は、政策の不確実性です。4年後に政権が交代し、この関税政策が
覆される可能性もゼロではありません。その時、多額の投資で建設した工場が過剰
設備になってしまうリスクを考えると、多くの企業が「様子見」をせざるを得ないの
が実情です 。
3. サプライチェーンの混乱
完成車メーカーの決断は、無数の部品サプライヤーの運命を左右します。メーカーが
生産を海外に移せば、日本のサプライヤーは仕事を失います。メーカーがコストを吸
収しようとすれば、サプライヤーに対して厳しい値下げ要求が突きつけられるでしょう 。
この不確実性から、部品メーカーの間では先行きへの不安が広がり、設備投資を一時的
に見送る動きも出ています 。特に、グローバルに拠点が分散している大手サプライヤ
ーと違い、国内生産に依存する中小のサプライヤーは、より深刻な打撃を受ける可能性
があります 。
●政府も緊急支援に乗り出す
この事態を重く見た日本政府(経済産業省)は、影響を受ける企業、特に中小の部品
サプライヤーを対象とした緊急支援策を打ち出しています 。全国約1,000カ所に特別
相談窓口を設置したり 、政府系金融機関による緊急融資(セーフティネット貸付)の
要件を緩和したり 、「ものづくり補助金」などで影響を受ける企業を優先的に採択す
る といった内容で、短期的な資金繰りや事業の立て直しを後押しする構えです。
以上が、トランプ関税がもたらした衝撃の現状と、日本の自動車産業が直面する課題
です。まさに五里霧中の状況ですが、各メーカーはこの難局をどう乗り越えようとして
いるのでしょうか。
次回(第2回)は、トヨタ、日産、ホンダ、SUBARUといった主要メーカーが、それ
ぞれどのような戦略を描いているのか、その具体的な動きと狙いを詳しく解説します。



