元気になるのは、身体だけではありません。
「元気だよ」の向こうにある、親の暮らしの変化
高齢のお客様からご依頼いただく家事の中で、とても多いものがあります。
絨毯の掃除機がけです。
10年ほど前、この仕事を始めた頃の私は、
「どうして“絨毯の掃除機がけ”なんだろう?」
と、正直少し不思議に思っていました。
ほかの家事はご自分でできる。
でも、
「絨毯の掃除機がけだけはお願いしたい」
とおっしゃる方が何人もいました。
そして、皆さん口をそろえて、
「重いのよ」
とおっしゃいます。
掃除機そのものが重いというだけではありません。
絨毯に吸いつくヘッドを何度も前後に動かす。
その動作が重くて、大変なのです。
当時の私には、まだその大変さがよくわかっていませんでした。
でも、私自身も年齢を重ねてきた今なら、以前より少しわかります。
若い頃には何でもなかったことが、少しずつ大変になっていく。
暮らしの中には、そんなことがたくさんあります。
45リットルのゴミ袋が運べない
「ゴミを出してもらえますか?」
これも、高齢のお客様からよく頼まれることです。
中身にもよりますが、いっぱいになった45リットルのゴミ袋は、かなりの重さになります。
家の中から玄関へ。
玄関から集積所へ。
「もう重くて持っていけないの」
とおっしゃる方がいます。
段ボール箱もそうです。
届いた荷物を玄関から運ぶ。
箱を開ける。
中身を取り出す。
空になった箱を片付ける。
一つ一つは小さな動作でも、年齢を重ねると、それぞれが大変な作業になることがあります。
「元気だよ」だけでは、わからない
離れて暮らす親に電話をする。
「元気?」
「元気だよ」
いつもと変わらない声が返ってくれば、安心しますよね。
会話もしっかりしている。
いつものお父さん、いつものお母さん。
でも、実際に実家へ行って、暮らしを見てみると初めてわかることがあります。
以前はきれいだったところに、ほこりがたまっている。
食事をするテーブルの下に、食べこぼしが増えている。
買ってきた物が、袋に入ったまま床に置かれている。
ゴミが出せずに残っている。
届いた段ボールが玄関に置かれたままになっている。
冷蔵庫を開けてみたら、同じ物がいくつも入っている。
トイレの汚れ方が以前と違う。
ゴミ箱の中を見ると、今までとは違う物の捨て方をしている。
一つだけなら、たまたまかもしれません。
買い物から帰ってきて、疲れてしまっただけかもしれない。
掃除をしようと思いながら、今日はできなかっただけかもしれない。
そして、汚れていること自体が以前ほど見えていないこともあります。
でも、
「前はこうじゃなかったな」
という小さな変化がいくつも重なっていたら。
「だらしなくなった」
「ちゃんと片付けてよ」
と決めつける前に、少し立ち止まってみてほしいと思います。
暮らしの変化には、理由があるかもしれない
年齢を重ねて、体力が落ちてきたのかもしれません。
重い物を持つことが難しくなったのかもしれません。
見え方が変わっているのかもしれません。
体調の変化があるのかもしれません。
同じ物を何度も買う、今までできていたことができなくなるなど、変化の内容によっては、認知機能の変化に家族が気づくきっかけになることもあります。
もちろん、暮らしの様子だけで病気かどうかを判断することはできません。
でも、
「いつもと違う」ことに気づくことはできます。
気になる変化が続くのであれば、ご本人の様子を見ながら、家族で話したり、必要に応じて専門家に相談したりするきっかけにはなると思います。
「何が大変になった?」という目で見てみる
実家へ帰ったとき。
「ちゃんと片付いているかな」
「物が増えていないかな」
だけではなく、
「今、何が大変になっているんだろう?」
そんな目で、親の暮らしを見てみてください。
掃除機。
ゴミ袋。
段ボール。
冷蔵庫。
床。
トイレ。
ゴミ箱。
特別なところを見る必要はありません。
毎日の暮らしそのものが、親の今を教えてくれることがあります。
「これ、重くない?」
「ゴミ出し、大変じゃない?」
「買い物、大変になってない?」
そんな何気ない会話から、初めてわかることもあると思います。
片付ける前に、今の暮らしを知る
実家の片付けというと、どうしても「物」に目が向きます。
でも、その家で暮らしているのは、お父さんやお母さんです。
物が増えたことにも。
掃除が行き届かなくなったことにも。
今までと違う場所が汚れていることにも。
何か理由があるのかもしれません。
10年前の私には、
「どうして絨毯の掃除機がけが、そんなに大変なんだろう?」
と思っていたことが、今は少しわかるようになりました。
これから先、もっとわかることが増えていくのでしょう。
だからこそ、
できていないことを見つけるのではなく、
大変になったこと、変わってきたことに気づく。
実家を片付けることより先に、まずは今の親の暮らしを知ること。
それも、実家のことを考える最初の一歩だと思っています。


