できないことが、増えてきても。
「この汚れ、落ちますか?」
ハウスクリーニングのご依頼をいただいた現場で、床の黒ずみについてそう聞かれました。
正直なところ、答えは、
「やってみないと、わかりません」
でした。
長い間ついていた汚れです。
素材を傷めるわけにもいきません。
最終日、時間のない中で試してみると、少し落ちました。
少し落ちると、思ってしまうんです。
「これ、もう少しいけるんじゃない?」
たぶん、性格なんでしょうね(笑)。
その日は時間切れで、いったん作業を終えました。
でも、気になる。
ほかにも、もう少し試してみたいところがありました。
浴室の鏡。
シンクの水アカ。
そして、この床の黒ずみ。
後日、もう一度現場へ行きました。
鏡やシンクは再度挑戦して、「ここまでできれば十分」と思えるところで終了。
そして床の黒ずみは——
落ちました。
自分でも満足できるところまで。
今回の現場では、ほかにも床に粘着テープの跡のような汚れがありました。
一緒に作業していたスタッフが、
「ここ、落ちません」
と言ったところです。
私がやってみると、落ちました。
「どうやって落としたんですか?」
と聞かれて、
「教えなーい(笑)」
なんて答えました。
もちろん、意地悪をしたいわけではありません。
掃除の仕事に携わって10年以上。
いろいろな汚れを見て、いろいろな方法を試してきました。
うまくいったこともあれば、思うようにいかなかったこともあります。
その積み重ねの中で、
「これは、もう少しいけそう」
「これは、ここでやめた方がいい」
そんな見極めも、少しずつできるようになりました。
どんな洗剤を使うのか。
どんな道具を使うのか。
もちろん、知識は必要です。
でも、知識だけではわからないこともあります。
実際にやってみて、失敗したり、工夫したり、また試したり。
知っていることと、やってきたこと。
その両方が重なって、仕事の精度は上がっていくのだと思います。
これは、掃除だけの話ではありません。
私はこれまで、整理収納、実家の片付け、終活、FPなど、仕事に必要だと思うことを学び、資格も取得してきました。
でも、資格を取ったからできることと、実際の暮らしの中に入って初めてわかることは、少し違います。
高齢の親のお金のこと。
これからの暮らしのこと。
実家の片付けのこと。
正解がひとつではないことばかりです。
知識があるから、考えられる選択肢が増える。
経験があるから、その中から目の前の方に合う方法を考えられる。
先日、仕事の話をしていた方から、
「現場を経験している人は違う。話にリアリティがある」
と言っていただきました。
その言葉が、とても印象に残っています。
知識だけでもなく、経験だけでもなく。
『知っていること』と『やってきたこと』。
その両方を使って、目の前の人と一緒に考える。
それが、今の私の仕事なのだと思います。
そして、そこにもうひとつ。
少し落ちたら、
「まだいけるんじゃない?」
と、つい試したくなる性格(笑)。
知識と経験。
そして、ちょっとしつこい私というスパイス。
それも含めて、「くらとと」なのかもしれません。


