必要な「家族会」がいつしか誤った方向へⅠ
ーーはじめにーー
子どもが部屋に閉じこもり、
何を話しかけても無反応。
その沈黙は、
反抗でも拒絶でもないかもしれない。
ひきこもりの根っこには、
「自尊心」という見えにくい傷がある。
親自身の痛みが、実はその答えを知っている。
沈黙は、拒絶ではなかった
「うちの子、何を言っても聞かないんです」
そう打ち明ける親御さんの声に、
疲労と諦めが滲んでいます。
でも少し立ち止まって考えてほしいのだが、
子どもは本当に「聞いていない」のだろうか。
背中を向けたまま、一言も返さない。
それでも子どもは、
親の言葉をちゃんと耳に入れているのです。
返事がないのと、聞いていないのは、
まったく別のことなのです。
言葉が出てこない理由がある
では、なぜ返事をしないのか。
親への反抗——そう解釈するのは早い。
多くの場合、
子どもの内側では別のことが起きています。
•自分の気持ちをうまく言葉にできない
•頭の中が整理できず、答えが出てこない
•意見を言って否定されることが、
怖くてたまらない
特に3つ目は見落とされやすい。
ひきこもりの子どもにとって、
意見を否定されることは
「自分という存在を拒絶された」
と感じることに直結しています。
だから黙る。
黙ることで、傷つくことを避けているのです。
自尊心という、折れた背骨
ひきこもりの子どもたちに
共通して見えてくるのが、自尊心の欠落です。
自尊心とは、自分を支える背骨のようなものです。
それが健全に育っていなければ、
ちょっとしたストレスにも耐えられない。
不登校やひきこもりの脆弱さは、
多くの場合ここから来ているのです。
「自尊心くらいで、引きこもることなんて
あるんですか?」
そう問う親御さんもいます。
でも考えてみてください。
自尊心を傷つけられた痛みを、
一番よく知っているのは、
実は親御さん自身のはずです。
親もまた、殻に閉じこもっている
わが子が心を閉ざし、呼びかけに答えなくなる。
暴力で親をコントロールしようとする
子どもさえいる。
そういう状況に置かれた親の自尊心は、
静かに、しかし確実に傷ついていく。
傷ついた自尊心は、
「これ以上恥をかきたくない」
という心理を生みます。
誰かに相談することすら、
できなくなるのです。
相談機関に初めて足を運ぶのが、
問題が始まってから数年後
というケースが圧倒的に多いのは、
このためです。
親自身が、
自分の殻に閉じこもってしまっているのです。
それがひきこもりをさらに長引かせる、
見えにくい要因になっています。
返事を期待するより、語りかけ続ける
では、どうすればいいのか。
まず、返事を期待して待つのをやめることです。
返事がなくても、語りかけ続ける。
それが、場合によっては
最も必要なことになるのです。
以前、親(支援者)の心がまえを尋ねられた時、
とっさに出たのが「面壁九年」でした。
達磨大師が、壁に向かって9年間座禅を組み
悟りを開いた伝説を由来にした言葉ですが、
私が訪問支援をする際は、まさに沈黙のドアに
向かって語り続けます(笑)。
また、合わせてお伝えしているのが、
「涓滴岩を穿つ」です。
小さな雫が、長い間に固い岩をも溶かす。
「何度言っても、動いてくれません」
と、嘆かれる声をよく聞きますが、
あたかも回数を決めてかかっているようです。
いつまでかは、
わが子に届き、心がほどけていくまでです。
親子間のコミュニケーションは、もともと、
十分に積み上げられてはいなかったケースが
少なくありません。
そこへ突然「話し合おう」と踏み込んでも、
子どもは扉を開けません。
それは子どもの問題ではなく、
関係性の問題です。
親の痛みが、子どもへの橋になる
自尊心を傷つけられる痛みを、
自分ごととして自覚できている親御さんほど
事態に適切に向きあえるチャンスを得られます。
なぜか?
その痛みをわが子に重ねることができたとき、
はじめて「寄り添う」ことが言葉以上の意味を
持つからです。
親が子どもの痛みを理解し、
そばにいようとする——その姿勢が、
子どもに安心感を与え、
やがて新しい一歩を踏み出す勇気の土台に
なるのです。
解決策は、外にあるのではありません。
親自身の痛みの中に、すでにあるのです。
まとめ
•子どもの沈黙は「聞いていない」ではなく
「返せない」状態であることが多い
•返事がない理由は、言語化できない・
整理できない・否定を恐れているの3つが主な背景
•ひきこもりの根本には自尊心の欠落があり、
ストレスへの耐性が著しく低下している
•親自身も傷ついた自尊心から
「相談できない」状態に陥り、
それが長期化の一因になる
•返事を期待せず語りかけ続けることが、
関係の糸口になる
•親が自分の痛みを理解することが、
子どもへの共感と寄り添いの出発点になる
まず、今日一つだけ試してみてください。
返事を期待せずに、一言だけ話しかける。
「おはよう」でも「ご飯あるよ」でも構いません。
それだけでいい。
関係は、そういう小さな積み重ねの上にしか、
築けないのですから。
もし「どこから手をつければいいかわからない」
と感じているなら、一人で抱えず、
専門の支援機関に声をかけてみてください。
相談することは、恥ずかしいことではありません。
親自身の自尊心を、守ることです。


