訪問支援の是非を問う③
親子の立場の逆転
時折、こういう質問を受けることがあります。
「支援がうまくいかない場合はありますか?」
「どんな場合が結果を出せませんか?」
もちろんうまくいかない場合があります。
初期のころの苦い失敗体験もあります。
うまくいかないというか、時間がかかってしまうケースに多いのは、
家庭の中で親と子の立場関係が完全に逆転してしまっている場合です。
当協会の支援法では、当たり前の話ですが、親御さんに深く関わってもらいます。
当事者本人だけに現状改善を促しません。
当人も自分だけが問題視されては納得がいかないことでしょう。
ですから、親御さんに積極的に意識改革、行動改善に取り組んでもらい、
これまでのわが家の歴史の流れに変化をつけていただきます。
ですが、ここで本来舵取り役であるはずの親と子の立場が逆転してしまっていて、
親が現状改善の主導権を握れていない場合があるのです。
かといって、子どもの方が現状改善の主導権を握っているわけではありません。
子が握っているのは、「現状維持の主導権」です。
動かぬわが子に振り回される家庭
この背景にあるのは、長きに渡って子の意志(動きたくないという)を尊重
し過ぎたために、意に反したことを今さら言い出せなくなっていることと、
多少なりとも、これまで子どもの意志に寄り添えず、負担を与えてしまって
今の不登校やひきこもりがあるのだろうという自己反省から、
これ以上負担をかけることをためらい、
わが子がいやがることを言えなくなってしまっていることです。
子どもからメモで指示された買い物をしてくる親。
部屋に食事を届ける親。
外出時の運転手代わりになっている親。
鍵のないドアを開けられないでいる親。
声をかけることもできなくなっている親。
などなど。
昼夜逆転して寝ている子どもをおこさないようにと、
他の家族が息をひそめている家庭もありました。
仕事から疲れて帰ってきた家族の方が、足音にも気をつかっているのです。
これまでの生活パターンに変化をつけさせるためには、
「めんどくさい」「おっくうだ」という事を
あえてさせていかなければなりません。
負荷のかからないことをやらせても、何の意味もありません。
判断の責任を回避する親
何らのはたらきかけもないまま、
「相談所に行ってみる?」
「家に来てもらう?」
といきなり切り出す親御さんもいます。
あたかも断わってもらうことを期待しているかのようです。
すんなり「うん、行ってみようか」というはずもありません。
これは、無意識の内に親御さん自身が、変化することをためらっているのです。
でも、それは認めがたいことですから、子どもがいやがっているということを
行動に移せない口実にしてしまうのです。
人間心理の悲しさです。
転覆する船には羅針盤も船頭もいない
不登校やひきこもりが長期化すると、いつのころからか
当事者の生活スタイルを中心に家族の生活がはこばれるようになっていきます。
こちら(支援者)から本人へのはたらきかけを指示しても、
実行に移すまでに非常に時間がかかります。
ようやく実行できたかなと思うと、「本人がいやがっています」と頓挫します。
最後には、「本人のやる気が出るのを待ってみます」となります。
そしてまたここへ来て再び見守り(長期化)が始まるのです。
家庭運営の舵取り役は、あくまでも親です。
どうしたらいいか、どこへ行けばいいのかをわが子に尋ねる親御さんもいます。
子ども自身は、右も左もどうしていいのかも分からずもがいているのにです。
現状改善、問題解決の主導権を握るためには、学ぶしかありません。
何が必要で、何を優先させるべきかを的確に判断できるようにならなければなりません。
学ぶことで理解でき、理解することで、わが子の痛みに寄り添うことができるのです。