訪問支援の是非を問う①

中光雅紀

中光雅紀

テーマ:解決のための視点

体制もノウハウもないままの訪問支援の始まり

2010年に「子ども・若者育成支援推進法」に基づき、

内閣府がアウトリーチ(訪問支援)研修を開始しました。

2023年からは、実施主体が内閣府からこども家庭庁に移管されています。



2010年からの実施に先立って、当時「社会的ひきこもり」の著者斎藤環氏が、

支援法がまだ確立されていない中で実施されることを懸念し、

「くれぐれも慎重であってほしい」と述べられていました。



これまでにあった一部の民間支援団体の拉致監禁まがいの手法による死亡事件や

傷害事件を例にあげ、有効性以上に倫理性に配慮してほしいと述べられています。

倫理性とは、訪問対象者の人権や主体性、プライドを徹底して尊重するという姿勢であると。

解決どころか、説教や罵倒で生じる新たな問題

随分昔に放映されたテレビ番組のひきこもり特番の内容から私の見解を述べてみましょう。

10代のひきこもりの息子の頭に、「いいかげん目を覚ませ!」と

シャワーの水をかけている父親や、無理やりひきずり足蹴にしている父親の姿が

映し出されていました。

その光景を腕組みしてじっと見ている女性の支援者。

時折、激しい(女性とはとても思えない)口調(罵声)で、親を挑発し、子どもへ説教させ、

自身も子どもをののしっていました。

この女性は、その後逮捕されましたが。



説教が親にとっても、支援者にとっても一番簡単な方法。

しかし一番徒労に終る方法です。

甘えだけでひきこもっている子どもの場合はいいでしょう。



大切な事は、「何が問題解決した状態か?」という事です。

部屋から出すことが解決であれば、まさに“引きずり出す”ことで解決になります。

でも、本質である親との問題や、対人関係の問題は解消されないどころか、

さらに深まり、親子の絆はより切れかかるでしょう。



番組の家族も、母親と妹は別居しており、父親と息子だけが生活していました。

別居の理由は、息子の暴力ということでしたが、母親が逃げたのは暴力からではなく、

我が子からあびせられる、苦悩からの絶叫を聞くことが出来ない。

つまり、現実からの逃避です。



恐らく息子は、母親に見捨てられたと、恨んでいるでしょう。

また、いきなり他人(女性支援者)を連れて来て、いきなり慣れない説教を始め、

部屋から引きずり出し、強制的に親元から引き離す。

これで父親にも恨みが増したことでしょう。

「とうとう親父まで見捨てやがった」と。



特に私が憤りを禁じえなかったのは、カメラの前に子供をさらしたことです。

あの場には、カメラマン、音声、照明、ADと複数のスタッフの方がいたでしょうが、

その前で一方的に蹴られたり、水をかけられたり、罵声をあびせられる子供の気持ちを

どう考えたのでしょうか。

家族と支援者に必要な資質とは?

「人権」の観念のないまま“ひきこもり問題”に対処すれば、

子供たちにさらに傷を与えることになります。

子供に向き合えない親のもとでひきこもりは長期化し、

恐れず説教することを向き合う事と勘違いしている親のもとで、

子供の傷はさらに深まり絆は断たれます。

向き合うということは、子供たちの「傷み」に向き合い、「ぬくもり」で癒すことだと、

日頃の支援活動の中で私は感じています。



斎藤氏は、訪問支援者の資質について次のように言及しておられました。

『経験者が向いているとも限らない。
「人は自分が抜け出したばかりのあやまちに最も厳しい」(ゲーテ)からだ。
他者への畏れと自らの行為に対する懐疑を常に忘れないこと。
これこそが、いかなる知識や資格にも増して重要な資質であろう』




私自身は、当事者が自己理解を深め、自己責任のもとで

より良い意思決定ができるように援助し、

社会の中で自分らしく主体的に人生を歩んでいけるように

忍耐強く後押しできる資質が必要だと思っています。

自己の無力さを自覚した、慎み敬いの態度が重要だと思います。

「私が助けてあげよう」など決して思わないことです。



この訪問支援については、安易な目的、手法もまま見られるようですので、

次回も取り上げたいと思います。

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中光雅紀
専門家

中光雅紀(不登校・ひきこもり支援者(家族心理教育コンサルタント))

NPO法人地球家族エコロジー協会

トラウマの視点からひきこもりの原因を見える化していくアプローチを行い、そのもがきのプロセスから人間としての成長を果たし、ひきこもりから脱却。新しい自分に生まれ変わるような変化をサポートしていきます。

中光雅紀プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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