【第11回】店長になったら最初にやるべきこと ~改革より先に、現場を知り、人を知り、信頼を築く~

佐々木康仁

佐々木康仁

テーマ:マネジメント


「今日から、あなたがこの店の店長です。」

もし、突然そう言われたら、あなたは最初に何をするでしょうか。

売上を確認する。
スタッフに指示を出す。
店内の問題点を探す。
新しい目標を掲げる。


もちろん、どれも店長として必要な仕事です。

しかし、16年間店長を経験してきた私は、今なら最初にこう考えます。

「まず、この店を知ること。そして、そこで働く人を知ること。」

店長になったからといって、すぐにお店を変えようとする必要はありません。

むしろ、何も知らないまま改革を始めることには、大きな危険があります。

今回は、第2章「店長の心得」の第1回として、新しく店長になった時に、まず何をするべきなのかを考えてみたいと思います。

店長になった途端、人は変わってしまうことがある

店長という役職には、責任と権限が伴います。

売上を管理する。
スタッフを指導する。
店舗の方針を決める。
問題が起きれば責任を負う。


それまで一人のスタッフだった人が、ある日から店舗の責任者になるのです。

当然、仕事に対する意識も変わります。

しかし、ここで気をつけたいことがあります。

それは、役職が上がったことで、自分自身まで偉くなったと勘違いしてしまうことです。

店長になった途端、言葉遣いが変わる。
スタッフに命令するようになる。
自分の意見を押し通そうとする。


「店長の言うことだから従って当然だ。」

そんな考え方になってしまえば、スタッフとの距離は少しずつ広がっていきます。

私自身、若い頃には、店長としての責任感が強すぎるあまり、自分の考えを優先してしまったこともありました。

しかし、経験を重ねる中で気づいたのです。

店長という役職は、人を偉くするものではなく、人に責任を持たせるものなのだと。

最初の仕事は「現場を観察すること」

新しく店長になった時、私はまず現場をよく見ることが大切だと考えています。

例えば、次のようなことです。

・お客様は、どの時間帯に多く来店されるのか。
・どの商品が売れているのか。
・スタッフは、どのような動きをしているのか。
・忙しい時間帯に、どこで仕事が滞っているのか。
・お客様が困っている場面はないか。
・店内の清掃や商品陳列は適切か。


こうしたことは、事務所で数字を眺めているだけでは分かりません。

実際に売場に立つ。
お客様の動きを見る。
スタッフの仕事を見る。
必要であれば、自分も一緒に作業する。


すると、書類には表れない現場の実態が見えてきます。

例えば、売上が伸びない原因が、商品そのものではなく、売場の分かりにくさにあるかもしれません。

スタッフの作業が遅いのではなく、作業手順に無理があるのかもしれません。

現場を知らずして、正しいマネジメントはできません。

これは、業種が変わっても共通することだと思います。

スタッフの名前と仕事を覚える

私が新任店長に勧めたいことの一つが、スタッフ一人ひとりを知ることです。

名前を覚える。
担当業務を知る。
得意な仕事を知る。
苦手な仕事を知る。
そして、どのような思いで働いているのかを知る。


例えば、同じアルバイトスタッフでも、働く目的はさまざまです。

生活費を稼ぎたい人。
学費のために働く人。
将来の仕事に役立つ経験を積みたい人。
家庭と両立しながら働く人。


一人ひとり事情が違います。

それを理解せずに、全員に同じ接し方をしても、うまくいくとは限りません。

店長の仕事は、スタッフを単なる労働力として管理することではありません。

一人ひとりの力を引き出し、チームとして成果を生み出すことです。

そのためには、まず相手を知る必要があります。

「前の店ではこうだった」は禁句に近い

異動によって新しい店舗の店長になると、つい以前の店舗と比較してしまうことがあります。

「前の店では、こんなやり方はしていなかった。」
「前の店のスタッフは、もっと動いていた。」
「どうしてこの店ではできないんだ。」


こうした言葉は、できるだけ避けたいものです。

なぜなら、その店舗には、その店舗なりの歴史や事情があるからです。

長年働いてきたスタッフもいます。
地域のお客様との関係もあります。
これまで積み重ねてきた仕事のやり方もあります。


もちろん、改善すべきことはあるでしょう。

しかし、それまでの取り組みを否定するような言葉から始めてしまえば、スタッフは心を閉ざしてしまいます。

私は、新しい店舗に入った時こそ、

「これまで、どのように仕事をしてきたのですか。」
「この店の良いところは何ですか。」
「困っていることはありませんか。」


と聞くことが大切だと思っています。

改革は、現場を理解してからでも遅くありません。

ただし、安全上の問題や法令違反など、すぐに対応すべきことは例外です。

数字は必ず確認する

ここまで「人」と「現場」を重視してきましたが、もう一つ忘れてはいけないことがあります。

それが数字です。

第1回でもお話ししたように、店長は利益をつくる仕事です。

そのためには、自分が担当する店舗の経営状態を把握する必要があります。

売上。
客数。
客単価。
粗利益。
人件費。
商品別の販売実績。
前年との比較。


こうした基本的な数字を確認します。

ただし、数字を見てすぐに、

「売上が悪いから、もっと頑張れ。」

と言うだけでは意味がありません。

大切なのは、

「なぜ、この数字になっているのか。」

を考えることです。

数字は結果です。

その結果を生み出している原因は、現場にあります。

だからこそ、数字と現場の両方を見る必要があるのです。

最初から100点の店長を目指さない

新しく店長になった方の中には、

「早く結果を出さなければ。」
「スタッフから認められなければ。」
「失敗してはいけない。」


と、自分自身に大きなプレッシャーをかけてしまう人もいるでしょう。

その気持ちはよく分かります。

しかし、最初から完璧な店長などいません。

私自身も、店長として多くの失敗を経験してきました。

分からないことがあれば、スタッフに聞いてもいいのです。

「この仕事について教えてもらえますか。」
「あなたはどう思いますか。」


そう聞くことは、店長として恥ずかしいことではありません。

むしろ、知らないことを知っているふりをする方が危険です。

店長だからといって、すべての仕事に精通している必要はありません。

分からないことを認め、周囲の力を借りられることも、リーダーの大切な能力です。

小さな約束を守ることから信頼が生まれる

店長になったばかりの頃は、スタッフから信頼されているとは限りません。

信頼は、役職によって自動的に与えられるものではないからです。

では、どうすれば信頼されるのでしょうか。

私は、特別なことをする必要はないと思っています。

約束を守る。
時間を守る。
言ったことを実行する。
間違えた時には謝る。
スタッフの話を聞く。
良い仕事には感謝を伝える。


こうした小さな行動の積み重ねです。

例えば、スタッフから相談を受けた時、

「後で話を聞くね。」

と言ったのであれば、必ず時間をつくる。

「確認しておく。」

と言ったのであれば、結果を伝える。

こうしたことを繰り返していくうちに、

「あの店長は、ちゃんと話を聞いてくれる。」
「言ったことを守ってくれる。」


と思ってもらえるようになります。

信頼とは、大きな言葉で得るものではなく、小さな行動で積み重ねるものなのです。

最初の30日間をどう過ごすか

私が新任店長に一つ提案するとすれば、最初の30日間を意識して過ごすことです。

もちろん、店舗の状況によって優先順位は変わります。

しかし、例えば次のような進め方が考えられます。

最初の1週間:知る

まずは現場を観察します。
スタッフの名前を覚え、仕事の流れを理解する。
売上や客数などの基本的な数字も確認する。
この段階では、必要以上に大きな変更を加えず、店舗の現状を把握することを優先します。

2週間目:聞く

スタッフ一人ひとりと話す機会をつくります。
困っていること。
改善したいこと。
店舗の良いところ。
お客様からよく聞かれること。
現場の声を集めます。

3週間目:考える

現場で見たこと、スタッフから聞いたこと、数字から分かったことを整理します。
そして、優先して改善すべき課題を考えます。
すべてを一度に変える必要はありません。

4週間目:小さく実行する

改善できそうなことから、一つずつ取り組みます。
例えば、朝礼の方法を変える。
売場の表示を分かりやすくする。
作業手順を見直す。
スタッフとの情報共有を改善する。
そして、実行した結果を確認します。

このように、小さな改善を積み重ねることで、スタッフと一緒に店舗を変えていくことができます。

今日からできる実践ポイント

・店長になったら、まず現場をよく観察する。
・スタッフ全員の名前と担当業務を覚える。
・以前の店舗と比較する前に、現在の店舗の良さを知る。
・売上や利益など、基本的な経営数字を確認する。
・スタッフの意見を聞き、最初から自分の考えを押しつけない。
・小さな約束を守り、信頼関係を築く。
・最初から大改革を目指さず、小さな改善から始める。


店長の仕事は「人を動かすこと」から始まるのではない

店長になると、スタッフをどう動かすかを考えがちです。

しかし、私は少し違うと思っています。

まず、スタッフを知る。
スタッフの話を聞く。
スタッフの仕事を理解する。
そして、自分自身が行動で示す。


その積み重ねによって、少しずつ信頼が生まれます。

信頼が生まれれば、スタッフは店長の言葉に耳を傾けてくれるようになります。

店長が一人で頑張るのではなく、スタッフと一緒にお店をつくっていく。

私は、それが店長という仕事の本来の姿ではないかと考えています。

店長になったら、最初にお店を変えようとするのではなく、まず自分自身がそのお店を理解すること。

そして、

「この人と一緒に働きたい。」

と思ってもらえる店長を目指すこと。

それが、新任店長としての第一歩だと思います。

次回予告

次回、第12回は、

「店長の責任とは何か」

をテーマにお話しします。

店長は、売上が悪ければ責任を問われます。

スタッフが問題を起こした時にも、対応を求められます。

お客様からクレームがあれば、責任者として対応しなければなりません。

では、店長の責任とは、単に問題が起きた時に頭を下げることなのでしょうか。

私はそうではないと思っています。

責任を負うことと、責任を果たすこと。

その違いについて、現場経験を踏まえながら考えていきます。

本連載について

本連載は、私の著書『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』をベースに、現場で新たに得た経験や生成AI時代のマネジメント・マーケティングの視点を加えながら再構成しています。20年以上にわたる店舗運営の経験が、店長やリーダー、経営者の皆さまの実践に少しでもお役に立てれば幸いです。

著書紹介
『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』では、20年以上の店舗運営と16年間の店長経験をもとに、現場で培ったマネジメントやマーケティングの考え方を実例とともに紹介しています。理論だけではなく、実際の失敗や成功から得た「現場で使える知恵」をまとめた一冊です。
新米店長の道しるべ16年の失敗と成功から学ぶ


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佐々木康仁
専門家

佐々木康仁(ITコンサルタント)

株式会社CNCコンサルティング

対面と非対面を組み合わせた独自のマーケティング手法、ChatGPTを活用するための基礎的な講習、小学校などでのICT教育支援を事業の柱とする。数々の職業を経験し“現場感覚”でサポートできるのが強み。

佐々木康仁プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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