【第5回】学校では教えないけれど、本当に大切なこと

前回は、「教えるとは何か」について考えました。
教えるとは、単に知識や答えを伝えることではなく、その人が自分の力でできるようになるまで支えること。
では、その先にある「育てる」とは何なのでしょうか。
子どもを育てる。
部下を育てる。
後輩を育てる。
人材を育てる。
私たちは日常の中で、ごく自然に「育てる」という言葉を使っています。
しかし改めて考えてみると、人を「育てる」というのは、とても難しいことです。
今回は、私自身の経験も振り返りながら考えてみたいと思います。
人は思い通りには育たない
私は長年、店長として多くのスタッフと一緒に働いてきました。
若い頃の私は、
「こういうスタッフになってほしい」
「もっとこう動いてほしい」
「なぜ言った通りにできないのだろう」
と思うことがありました。
自分の経験や成功した方法を教えれば、相手も同じように成長すると思っていたのかもしれません。
しかし、当然ながら人は一人ひとり違います。
性格も違う。
得意なことも違う。
成長するスピードも違う。
目指しているものも違います。
そこで少しずつ気づきました。
「育てる」とは、自分と同じ人間をつくることではない。
ということです。
植物を育てることに似ている
「育てる」という言葉について考えると、私は植物を思い浮かべます。
種をまきます。
水を与えます。
太陽の光が当たる環境をつくります。
必要であれば肥料も与えます。
しかし、
「明日までに10センチ伸びなさい」
と言っても伸びるものではありません。
成長するのは植物自身です。
人も同じではないでしょうか。
周囲の人ができるのは、
教えること。
励ますこと。
環境を整えること。
失敗したときに支えること。
そして、
成長するまで待つこと。
最後に成長するのは、本人なのです。
「任せる」ことも育てること
店長時代の私には、もう一つ大きな失敗がありました。
自分でやった方が早い。
自分でやった方が確実。
そう考えて、つい自分で仕事をしてしまうことです。
確かに、その日の仕事だけを考えれば効率的かもしれません。
しかし、それを続けているとスタッフはいつまでもできるようになりません。
人を育てようと思ったら、どこかで仕事を任せなければならない。
そして任せれば、失敗することもあります。
その失敗まで含めて経験してもらう。
これは、店長として人材育成を経験する中で学んだ大切なことの一つです。
任せることは、信じることでもあります。
子どもにも「自分でやる時間」が必要
これは学校や家庭でも同じだと思います。
子どもが困っていると、大人はつい助けたくなります。
答えを教える。
代わりにやってあげる。
間違えそうになったら先回りして止める。
もちろん、安全に関わる場合など、大人が助けなければならない場面もあります。
しかし、何でも大人が先回りしてしまったら、子どもが自分で考え、失敗し、もう一度挑戦する機会を奪ってしまうことにもなります。
学校現場に関わっていた頃、ICT機器の操作でも同じことを感じました。
操作に迷っている子どもに、すぐ答えを教えず少し待ってみる。
すると、自分で試し始めます。
友達に聞くこともあります。
そして自分でできたときの、
「できた!」
という表情。
その経験こそが、次の「自分でもやってみよう」につながるのだと思います。
AIが何でもやってくれる時代だからこそ
生成AIが急速に進化しています。
文章を作る。
アイデアを出す。
分からないことを説明する。
勉強を手伝う。
非常に便利な道具です。
しかし教育という視点から見ると、一つ考えなければならないことがあります。
AIができることを、すべてAIにやらせてよいのか。
ということです。
分からなければすぐAIに聞く。
文章もAIに作ってもらう。
考える前に答えを出してもらう。
それでは便利になった反面、「自分で考える経験」が少なくなる可能性があります。
私はAIを使わない方がよいと言いたいわけではありません。
むしろ積極的に活用すべきだと思っています。
大切なのは、
AIに任せるところと、自分で考えるところを区別すること。
これから「育てる」側には、この判断を支える役割も必要になるのではないでしょうか。
育てる側も一緒に成長する
そして、人を育てていると、自分自身も変わります。
店長としてスタッフを育てながら、私自身が店長として育てられました。
学校現場では、子どもたちや先生方から多くのことを教えていただきました。
人を育てるということは、一方通行ではないのです。
相手の成長を見ながら、
「自分の伝え方はこれでよかったのか」
「もっと違う方法があったのではないか」
と考える。
その繰り返しによって、育てる側も成長します。
だから私は、
人を育てることは、自分を育てることでもある
と思っています。
「育てる」とは可能性を信じること
人はすぐには変わりません。
何度言ってもできないことがあります。
失敗を繰り返すこともあります。
思ったように成長してくれないこともあります。
それでも、
「この人には可能性がある」
と信じる。
必要なときには教える。
時には任せる。
失敗したら一緒に考える。
そして、成長するまで待つ。
私なりに「育てる」という言葉を表現するなら、
育てるとは、その人の可能性を信じ、自分の力で歩けるようになるまで支えること。
なのだと思います。
学校でも。
家庭でも。
会社でも。
そしてAIが当たり前になるこれからの社会でも。
人を育てる最後の主役は、技術ではなく「人」であってほしい。
私はそう思っています。
次回は、
【第5回】「見守る」とは何か ― 手を出さない教育の難しさ
について考えてみたいと思います。
Today's English Phrase
Growth takes time.
(成長には時間がかかる。)
急がせるのではなく、信じて待つ。
それも「育てる」ということの大切な一部ではないでしょうか。
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