週末コラム | 第1回 再び風を感じた日 ― 30年ぶりのツーリング体験

阿蘇の青い空。
どこまでも続く緑。
そして、憧れだったCB1300スーパーボルドールSP。
65歳で大型二輪免許を取得し、念願だった阿蘇ツーリングを楽しんでいた私に、この日最大の事件が起きました。
今だからこうしてコラムに書くことができますが、その瞬間の私は、とても笑えるような状況ではありませんでした。
それは本当に、一瞬の出来事でした。
「ああっ、倒れる!」
バイクを停めようとした、そのときです。
車体が傾きました。
「あっ!」
そう思った瞬間には、CB1300の重量が身体にのしかかってきます。
「ああっ、倒れる!」
必死に支えようとしました。
しかし、CB1300は車両重量270kgを超える大型バイク。
ある程度まで傾いてしまった車体を、腕や脚の力だけで支えられるものではありません。
次の瞬間――。
バイクは、そのまま横になってしまいました。
やってしまった……。
阿蘇の青空の下、つい先ほどまで気持ちよく走っていたCB1300が、目の前で倒れています。
頭の中が一瞬、真っ白になりました。
「バイク、起こさなきゃ!」
しかし、いつまでも眺めているわけにはいきません。
「バイク起こさなきゃ!」
すぐに起こそうとしました。
教習所でも大型バイクの引き起こしは経験しています。
やり方は分かっている。
……はずでした。
ところが、実際の道路で、自分がたった今倒してしまったCB1300を目の前にすると話は別です。
ハンドルを持ち、身体を使って起こそうとします。
ところが――。
「おっ、重い!」
分かっていたことですが、本当に重い。
走っているときには、あれほど軽快で安定していたCB1300。
アクセルを開ければ気持ちよく加速し、カーブでも安心して身体を預けられたCB1300。
しかし、ひとたび止まって横になれば、270kgを超える鉄の塊です。
大型バイクの「重さ」というものを、このとき初めて本当の意味で理解した気がします。
そして目に入ったクラッチレバー
なんとか車体を起こしました。
まずは、ひと安心。
「大丈夫かな……」
恐る恐る車体を確認します。
そして左側のハンドルを見たときでした。
クラッチレバーが折れていました。
「ああっ……やっちまったぁ」
レンタルバイクです。
しかも憧れていたCB1300。
楽しかった気持ちから、一気に現実へ引き戻されました。
「このあと走れるのか?」
「修理はどうなるんだろう?」
「レンタル店には何と説明しよう?」
いろいろなことが頭を駆け巡ります。
でも、起きてしまったことは元には戻せません。
まずは落ち着くこと。
そして、安全を確保すること。
それしかありませんでした。
教習所で習った「立ちごけ」が現実になった
大型二輪の教習中、「大型バイクは走っているときより、止まっているときのほうが難しい」と感じることがありました。
今回、それを身をもって経験しました。
ほんの少しバランスを崩す。
ほんの少し車体が傾く。
大型バイクでは、その「ほんの少し」が大きな違いになります。
ある角度を超えてしまえば、
「力で何とかしよう」
と思っても間に合いません。
そしてもう一つ感じたのは、倒れそうになった大型バイクを無理に支えようとすることの危険性です。
バイクを守ろうとして自分がケガをしてしまえば、もっと大変なことになります。
バイクより、まず自分の身体。
これも今回の経験から学んだことでした。
折れてしまったクラッチレバー
立ちごけの際に折れてしまったCB1300のクラッチレバーです。
後日、折れたレバーを手にすると、あの瞬間の「ああっ、やっちまったぁ……」という気持ちがよみがえりました。
でも今では、このクラッチレバーも65歳で大型バイクに挑戦した私にとって、失敗と学びを忘れないための大切な思い出の一つになっています。
そして見るたびに思います。
「次は絶対、倒さないぞ!」(笑)
失敗したから分かったこと
正直に言えば、恥ずかしい失敗です。
「大型二輪免許を取ったばかりなのに……」
そんな気持ちもありました。
でも、今振り返ると、この立ちごけも今回の阿蘇ツーリングで得た大切な経験の一つだったと思っています。
免許を取ったから、大型バイクを完璧に扱えるわけではありません。
むしろ、免許を取得してからが本当のスタートなのだと思います。
停車する場所。
足を着く位置。
路面の傾斜。
ハンドルの向き。
そして、自分自身の疲労。
走行中だけではなく、バイクを停めるその瞬間まで気を抜かない。
教習所で習った一つひとつの基本には、ちゃんと理由があったのです。
4枚の写真に残っていた私の失敗
今回掲載した写真を後から見返して、思わず苦笑いしました。
そこには、私の心の動きまで写っているようでした。
「ああっ、倒れる!」
「バイク起こさなきゃ!」
「おっ、重い!」
そして、
「ああっ、やっちまったぁ……」
最高の青空と阿蘇の美しい緑を背景に、そこだけは何とも格好のつかない私がいます。
でも、それでいいのかもしれません。
成功したことだけを書くのではなく、失敗したことも書く。
65歳から大型バイクに挑戦した私の記録なのですから、格好いいところだけ切り取っても本当の挑戦記にはなりません。
転んだことも、うまくできなかったことも含めて、全部が私の「35年越しの夢」の続きです。
そして何より、立ちごけだけで済んだこと、自分自身に大きなケガがなかったこと。
それが一番でした。
今ではこの4枚を見ると、
「いやぁ、本当にやっちゃったなぁ」
と笑うことができます。
ただし――もう一度経験したいとは、まったく思いませんが(笑)。
レンタル819熊本空港店の皆さんへ、感謝を込めて

楽しかった阿蘇ツーリングを終え、レンタル819熊本空港店へ戻ってきました。
しかし、私の心の中には一つ大きなものが引っかかっていました。
立ちごけさせてしまったことです。
お借りした大切なCB1300。しかもクラッチレバーまで折ってしまいました。
返却してすぐ、スタッフの方に申し訳ない気持ちで伝えました。
「すみません。立ちごけさせてしまいました。」
怒られるかもしれない。
修理代もかなりかかるかもしれない。
そんなことを考えていた私に、スタッフの方から返ってきた最初の言葉は、予想していたものとはまったく違いました。
「お怪我はありませんでしたか?」
バイクの傷や修理のことより、まず私の身体を心配してくださいました。
その一言を聞いた瞬間、それまで張りつめていた気持ちが、ふっと軽くなったのを覚えています。
「ああ、このお店で借りて良かった。」
そう思いました。
そして気になっていた立ちごけによる損害についても、私が想像していたような大きな金額ではなく、今回は1万円で済みました。
もちろん、お借りしたバイクを傷つけてしまったことに変わりはありません。
申し訳ないことをしてしまいました。
それでも、トラブルが起きたときにどのように接していただけるのか。
今回の経験で、レンタルバイクを選ぶ際にはバイクの種類や料金だけではなく、そこで働く「人」も大切なのだということを教えていただきました。
今回、私はレンタル819熊本空港店のスタッフの皆さんに本当にお世話になりました。
そして、私が7月9日に阿蘇を走った後、熊本を大きな地震が襲いました。
私が走った場所や、そこで暮らしている方々、そしてレンタル819熊本空港店の皆さんのことも気になりました。
あの日、私に素晴らしい時間を与えてくれた熊本と阿蘇。
だからこそ、復旧・復興が進み、また多くのライダーや観光客が安心して熊本・阿蘇を訪れる日が来ることを願っています。
そして私自身も、また近いうちに熊本へ行きたいと思っています。
そのときも、できればレンタル819熊本空港店でバイクを借りて、もう一度阿蘇を走りたい。
立ちごけしてクラッチレバーを折ってしまった私に、
「お怪我はありませんでしたか?」
と声をかけてくださった、その優しさ。
たった一言でしたが、私にとっては忘れられない一言になりました。
今回の阿蘇ツーリングで、私はCB1300の魅力だけではなく、熊本・阿蘇の素晴らしい景色、そして人の優しさにも出会うことができました。
レンタル819熊本空港店のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
そして次にお借りするときは――
今度こそ、倒さずにちゃんとお返しします(笑)。
次回・最終回予告
【第6回】65歳、CB1300で阿蘇を走って分かったこと
35年ぶりにバイクへ戻り、65歳で大型二輪免許を取得。
憧れだったCB1300に乗り、阿蘇の大自然を走りました。
感動がありました。
疲れもありました。
そして最後には、まさかの立ちごけまで経験しました。
では、すべてを終えて私が思ったことは、
「大型バイクを買いたい」だったのか。それとも「もう十分」だったのか。
最終回では、CB1300を返却したときの気持ちと、今回の阿蘇ツーリングを通して考えた「65歳からのバイクとの付き合い方」について書いて、この旅を締めくくりたいと思います。
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