その一言、だいたい爆発する。夫婦喧嘩の“地雷マップ”
世の中には、理想というものがある。
健康でいること。
元気に働くこと。
そして、最期はピンピンコロリ。
略して、PPK。
……人生の最終目標まで、
三文字で済ませる時代らしい。
その人生設計、本人の同意は?
ピンピンコロリ。
元気に過ごして、最期は長く患わずに。
たしかに、そうなれば理想的なのかもしれない。
ところが、
92歳のおじいちゃんは、
どうも気に入らないらしい。
なーにがPPKだ。
冗談じゃない。
ワシはMMSだ
……おや。
健康法に、異議申し立て。
MMS。
何かの医療用語かと思ったら、
「まだまだ死なん」
だった。
……略語の意味が、ずいぶん力強い。
しかも、このおじいちゃん。
まだ続きがある。
年齢より、稼働率。
「ワシはBBG!」
…また出た。
BBG。
今度は何だ?
「バリバリ元気」
……はい、承知しました。
終了予定を尋ねたら、稼働状況まで報告してきた。
しかも、92歳。
年齢だけ見れば、ベテランどころかレジェンド級。
それなのに、本人は引退の相談をする気配すらない。
人生の定年を決めようとしたら、
本人から「その制度、採用しておりません」と返された。
健康寿命だの、
アンチエイジングだの、
世の中はいろいろ考える。
もちろん、健康を保つことは大切。
ただ、こういう話を聞くと、
年齢という数字には、
ずいぶん余計な仕事をさせている気がする。
年齢を数えるだけなら数字の仕事。
ところが、いつの間にか、
「そろそろ無理はしないほうがいい」
「この年齢なら、もう十分」
と、本人の人生にまで口を出し始める。
……数字のくせに管理職気取り。
老化にも、勝手に決裁させない。
若いころは、年齢を気にする。
何歳に見えるか。
いつまで若々しくいられるか。
どうすれば老けずに済むか。
年齢との追いかけっこ。
しかも、相手は毎年確実に増える。
こちらが必死に対策を練っている間にも、
向こうは何の努力もせず昇進していく。
ずいぶん不公平な競争。
一方で、年齢を重ねても、やりたいことがある。
行きたいところがある。
まだまだ楽しむ気でいる。
そういう状態まで、
年齢を理由に縮小する必要はない。
もちろん、気合いだけで身体の機能が維持できるわけではない。
そこは現実。
ただ、
身体の状態を確認する前に、
年齢だけで自分に利用制限をかけるのも、もったいない。
まだ使える機能まで、
勝手にサービス終了にしなくてもいい。
そのルール、誰が決めた?
世の中には、年齢ごとの目安がある。
何歳なら、こうあるべき。
この年齢なら、そろそろこうするべき。
ずいぶん親切な人生設計。
ただし、設計者が誰なのかは不明。
本人の承認印も見当たらない。
92歳のおじいちゃんは、
そんなルールに従う気がないらしい。
PPKを勧められても、MMS。
さらに、BBG。
略語を二つも持ち出して、
人生の運用方針を自分で決めている。
ここまで来ると、
アンチエイジングというより、
年齢側の管理能力が問われてくる。
年齢は、毎年増える。
それは仕方がない。
でも、
増えた数字に、
これからの人生の決裁権まで渡す必要はない。
まだまだ死なん。
バリバリ元気。
……92歳。
年齢のほうが、
そろそろ本人に合わせてもいいかもしれない。



