家族の信頼と挑戦:精神疾患と向き合うときの強さと脆さ
1.はじめに:うつ病の家族との関わりで悩んでいませんか?
①家族としてサポートしたい気持ちと難しさ
病気になった家族を支えたい、元気になって欲しい、という気持ちがある反面、ケア生活が長引くとそれによる疲労がストレス化してケア側のメンタルを圧迫します。
ストレスは余裕を食いつぶします。些細なことで昨日は良しとしていたことが「無理」と感じたりします。
家族同士は本来親しく距離が近いため、感情をストレートに表現しやすいです。
それはネガティブな感情であっても同じです。
つい、で発した一言が、普段の主張と食い違っていれば当然相手は混乱するでしょう。
②一貫しないコミュニケーションが及ぼす影響
主張が一貫しないコミュニケーションは、日常生活では「あるある」かもしれません。
ただメンタルが不安定だったり、生活その他に懸念事項や悩みが複数ある状況だと「あるある」と言ってスルーしきれなくなります。
まず信頼関係が揺らいでしまいます。
特にうつ患者側にとって家族はほぼ唯一の頼れる相手です。
その人の主張が一貫していないと「頼っちゃいけないのだろうか」と迷いはじめ、悪化すると心を閉ざしてコミュニケーションが断たれる可能性もあります。
また、一貫しない態度による迷いは不安感を増長させます。元々うつ病は極度の不安状態にあるのでそれを強めてしまいます。
そして一貫しない態度、ある時は良いと言ったものが違う時にダメ、と言われることにより、その原因を「自分(患者側)がダメだから」「価値が無いから」という結論に至る恐れがあります。
家族側にももちろんデメリットはあります。
本来なら言わなかったような「二律背反」な態度を後悔して自分を責めてしまうのです。
2.一貫性のある態度とは?
①一貫性の定義と重要性
では、「一貫性のある態度」とはどういうコミュニケーション姿勢でしょうか。
それは態度や行動が安定していることです。
安定とは、
- 矛盾が無い
- 日常に置いて予測可能
- 基準が同一で、極端な変化が無い
ことです。
ある程度日によって変化や差があることは誰でも承知しています。
その想定を超えるほどの不一致が起こることで、相手は混乱します。
一貫性を保ちながら交流することで、安定感を保つことが出来、うつ病患者も安心して家族とやり取りすることが出来ます。
②うつ病患者が安心感を得られる理由
家族側が一貫性を持って接することで、うつ病患者は安心感を得ることが出来ます。
なぜなら反応を予想しやすくなるからです。
うつ病患者に限らず周囲の反応にセンシティブな人は、「自分がこう言ったら周りはどう反応するだろう」を事細かにシュミレーションしながら会話します。
そしていつしか自分が言いたいことより周囲の反応を優先させてしまい、言うべきことが言えなくなってしまいます。
これが「心理的安全性が無い状態」です。
一貫性のある接し方を保つことで、家庭内の心理的安全性を高めることができます。
「自分がこういうことを言えば、家族はこんな反応するだろう」の予測が立てやすくなることで、患者は言うべきことを家族に伝えることが出来るようになります。
家族側は必要な情報を受け取ることが出来、それに即したサポートが出来ます。
必要なサポートを受けられれば患者側は状態が安定します。
自分に必要な支援を家族がしてくれることを信じられれば、今は無理と思っていることにも挑戦することが出来るようになります。
状況を変えていく好循環が生まれます。
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③「信頼関係の基盤」としての一貫性
また、一貫性のある態度で接することは、うつ病患者とその家族との間での信頼関係を築くときの柱になります。
「家族なのに信頼関係なんて…」と思われるかもしれません。
「うつ病になった家族がいる」という新しい条件を受け入れたうえでの信頼関係です。
今までとは少し内容が異なってくるでしょう。
新しい信頼関係を構築し直す、と考える方がしっくりくるかもしれません。
先ほどもお話したように、一貫性を保つことで会話しやすくなります。
「話しても大丈夫」という安心感は口を開くための第一歩です。
一貫性を保って対応することで、家族側もその都度「こんな時どうすればいいのか」を迷わなくなります。
それによって家族側の負担も減っていきます。
ストレスが少なくなれば突発的に普段と相反するような対応をするリスクも減っていきます。
3.一貫性のある態度を取るための具体的なステップ
では具体的に「一貫性のある態度」で接するためのステップを見ていきましょう。
一貫性のある態度を保つためには、感情や行動を適切に調整する方法を学ぶことが効果的です。
次のステップを通じて、自分の感情や行動を安定的に保つ方法を身につけましょう。
①STEP 1:自分の感情と向き合う
自分の感情と向き合うのは、うつ病患者となった家族との関わりの中で感情に左右されて突発的に普段とはかけ離れた反応をすることを避けるためです。
自分の感情を言葉にする
今自分が感じている感情を、言葉にする練習をしましょう。
日記などで紙に書き出すことから始めるのが効果的です。
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感情のきっかけを突き止める
なぜその感情が湧き上がったのか、そのきっかけを分析しましょう。
リセット方法を身に着ける
感情は拘り過ぎなければ時間とともに沈静化します。
深呼吸、短時間のウォーキング、音楽を聴くなど、感情の波が落ち着くまで待つための方法を身に着けることで、一貫性を失った態度を取ることを回避出来ます。
②STEP 2:行動基準を決める
次に行動の基準、「枠組み」「ルール」を作りましょう。
対応の基準を共有する
家族全員で、うつ病患者への対応ルールを話し合いましょう。
同居しているのが自分一人なら、自分の中だけで決めるのでOKです。
例えば
- 返事を急かさない
- 本人が「やりたい」と言ったことは引き留めない
- 「~すべき」といういい方は禁止
などが考えられるでしょう。
対応範囲を明確にする
家族が何もかもサポートして解決しなければいけない、と思ってしまうと、一貫性を失うことに繋がります。
「何もかも」は幅が広すぎて、一貫性を保つことは難しいからです。
- どこまでは家族がサポートするか
- どこから先は本人の判断にゆだねるか
- 主治医、カウンセラー、ソーシャルワーカーに任せるテーマは何か
などを分けておくことで、家族が判断に迷ったり責任を感じすぎることによって一貫性を失うことを避けられます。
③STEP 3:コミュニケーションの仕方を整える
整える、とは、一貫性を意識することです。
一貫性があることは、うつ病患者側を惑わせることが無いだけでなく、家族側が何か伝えたいことがあるときに、その伝え方に迷うことも減らしてくれます。
シンプルで明確なメッセージを心がける
抽象的過ぎたり、複雑なメッセージは混乱や負担をかけるだけでなく、伝えたいことが伝わりません。
また、あいまいな表現に患者側が過剰に反応する恐れもあります。
ポイントは以下の3点です。
- 短い文章で話す
- 選択肢を与えすぎない
- 具体的な行動や提案に限定する
非言語コミュニケーションを意識する
「非言語コミュニケーション」とは、言葉以外で考えや感情が伝わる手段のことです。
声の大きさやトーン、話す速さ、目線、体の動き、沈黙の時間などです。
この非言語コミュニケーションと言葉で言っている内容が一致しないことを「ダブルバインド(二重拘束)」と言います。非常に混乱を高めるコミュニケーションです。
「気にしてない」と言いながら目を合わせない、「大丈夫だよ」と言いつつため息をつく、などです。
言葉と態度に一貫性を持たせましょう。
④STEP 4:状況に応じた柔軟性を持つ
状況に即して柔軟に対応するのがコミュニケーションのコツですが、柔軟性と一貫性って相反しているようにも見えますよね。
お互いに混乱・誤解しないための一貫性を保ちつつ柔軟に対応するためのポイントをご紹介します。
予想外の反応に備える
うつ病の患者とのコミュニケーションでは、その日の状態や気分が大きく変動することを理解し、柔軟に対応することが重要です。
「今日は元気だったのに、次の日は急に塞ぎ込んでしまう」といったような変化は、うつ病の特徴の一つです。
- その日の状態を観察する
- 予測外の反応を「個人攻撃」と受け取らない
- 予測にとらわれすぎない
- 自分自身の心の安定を保つ
適度な「距離」を保つ
家族は非常に親密な関係です。そばにいて何もかも分かっていることが当たり前となりやすいです。
しかし何かしらの配慮が必要な関係で、密接しすぎると、依存や燃え尽きの原因になりかねません。
距離が空いていることが、柔軟性のある一貫した態度を保つことに役立ちます。
- サポートの範囲を明確にする
- 自分の時間を確保する
- 役割分担をする
- 「見守る」姿勢を持つ
注意点
- 無理をしない:一貫性を維持することが目的で、自分を犠牲にしすぎないように。疲れたら助けを求めることも重要です。
- 柔軟さを忘れない:一貫性は必要ですが、「型にはまった対応」にならないように、患者の状態を見て調整する柔軟性も持ちましょう。
- 失敗を恐れない:一貫性を保とうと努力しても、時には感情的に反応してしまうことがあります。それを責めるのではなく、次に活かせる学びと捉えましょう。
4.一貫性を持ちながら自分を守る工夫
うつになった人のサポートを続けるには、サポートする側の心身の健康が重要です。
一貫性のある態度を保ちながら、自分自身を守るために、以下のような工夫を試してみましょう。
①家族自身がリフレッシュする時間を確保する
長期間のサポートは精神的・身体的に負担がかかります。
適度にリフレッシュすることで、エネルギーを回復し、安定したサポートを続けられます。
ポイントは「自分の休む時間を取ることはわがままではない」という認識を持つことです。
【例】
- 日々の小休止:家事やサポートの合間に短い休憩を取る。好きな音楽を聴いたり、散歩をする。
- 趣味の時間を持つ:映画を観る、読書をする、スポーツを楽しむなど、自分だけのリラックス時間を作る。
- セルフケアの実践:深呼吸や瞑想など、簡単にできるリラクゼーション法を試す。十分な睡眠を取る。
- 定期的な休暇:友人や親戚に頼んで短期間のサポートをお願いし、自分だけの時間を確保する。
②ソーシャルサポートを活用する
ソーシャルサポートとは「社会的支援」、つまり家族以外の人たちからの支援のことです。
公的な支援だけでなく友人知人、離れて暮らしている家族、会社の同僚や上司、うつ本人の主治医やカウンセラーも該当します。
他者の助けを借りることで、精神的・物理的な負担を軽減できます。
最も重要なのは、孤立感を防ぐことが出来る点です。「自分一人で頑張らないといけない」という切羽詰まった責任感から解放されます。
ポイントは「助けを求めることは恥ずかしいことではない」ことを理解しておくことです。
- 家族や友人に相談:「最近、サポートで少し疲れている」と率直に話し、共感やアドバイスを求める。
- 地域の支援団体やカウンセリングサービスを利用:家族を支援するための専門機関を探す。支援グループに参加して、同じ立場の人たちと交流する。
- オンラインのコミュニティ:家族介護や精神疾患サポートに特化したオンラインフォーラムやSNSグループに参加する。
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5.おわりに:信頼関係の積み重ねが回復への一歩に
家族がうつ病に苦しむとき、周囲の支えは非常に重要ですが、支える側もまた多くの葛藤を抱えます。
その中で「一貫性のある態度」を保つことは、患者と家族双方の心の安定に欠かせない要素です。
一貫性を持つことで、患者は心理的安全性を感じ、家族との信頼関係を築きやすくなります。
一方で、家族も「どう対応すれば良いか」に迷いが少なくなり、自身のストレス軽減につながります。
安定した態度や行動を保つためには、感情の管理、行動基準の共有、そしてシンプルで明確なコミュニケーションを意識することが鍵です。
このコラムで紹介した具体的なステップを実践し、患者と家族の間に安心感と信頼を育む一助となれば幸いです。
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