ニューロダイバシティ
日常の中で感じる無力感。特に、うつ病患者をケアする家族にとって、目に見えた変化がない療養生活は、忍耐を試されるものです。
家族として精一杯支えていても、目に見えない病気であるうつ病は、回復が実感しにくいもの。
毎日の変わらない生活の中で「何をしても状況が変わらないのでは」と感じる無力感が押し寄せてきます。
この無力感が蓄積すると、ケアへのモチベーションが下がり、家庭内の些細な問題が深刻に感じられるようになるのです。
この無力感への対抗策として「自己効力感」の強化をご提案します。
1.変わらない日常から感じる無力感
うつ病患者とのケア生活は、ビックリするほど変化がありません。
うつ病になるまでのどんどん不安定化していく経過と比較すると、療養に入った後は時間が止まったかと思うほどです。
実際に何もしていないわけではなくても、変化が目に見えない・表に出てきません。
そのせいで『何をどう頑張っても状況は変わらないのでは』と言う無力感が、家族を襲います。
目に見えない病気である精神疾患の難しいところです。
毎週病院に行っても何がどう変化しているのか分からない。そういう病気なのだ、と受け容れる為には時間がかかります。
受け容れるより先に、無力感が支えるモチベーションを奪っていきます。
病気の家族を「支えよう」と言うモチベーションが弱まれば、些細な出来事がそれ以前より影響力を強めます。
- 朝起きてこない
- 通院を嫌がる
- 作った食事を食べてもらえない
- こちらの話を聞いていない
うつ病なら朝起きられないのも、外出が億劫なのも、食欲がわかないのも、人の話に耳を傾ける余裕も思考力もないのは症状のうちなのですが、それが耐えがたいストレスに成長してしまいます。
これでは「支える、ケアする、回復の手助けをする」どころではないですよね。
家族(ケアラー)は自分の疲労やストレスで手いっぱいになってしまいます。
でも「いっぱいいっぱいだから」と、ケアを手放すことは出来ません。本来のキャパシティを超えてもやり続けなければいけない。
毎日を120、150、200%の出力で乗り越えなければいけなくなります。
なぜここまでのキャパ超えになってしまうのでしょう。
それはケア生活に対する『自己効力感』が低下してしまったからです。
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2.自己効力感とは何か?
自己効力感、という用語を聞いたことがあるでしょうか。
「この課題・タスクは、自分で完遂させる・乗り越える・解決することが出来る」と強く信じることが出来る感覚のことです。
自己効力感(じここうりょくかん)またはセルフ・エフィカシー(self-efficacy)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること。カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した。自己効力や自己可能感などと訳されることもある。
バンデューラの社会的認知理論の中核となる概念の1つであり、自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあるという。自己効力感を通して、人は自分の考えや、感情、行為をコントロールしている。(wikipedia)
提唱者のバンデューラは「モデリング理論」でも有名な学者です。
上記引用にもあるように、「ある状況において」という限定された条件に対する可能性、自信を指します。
私自身の例で恐縮ですが、恥ずかしながら結婚して20年、未だに料理には自信が持てません。夫が細かく口を出さないことに感謝しつつ、自分に出来る範囲でこなしていますが、料理の得意な方のように自宅にお客様が来た時に手料理を振舞う、などは夢のまた夢のまたさらに夢の世界です。
料理、という点においては赤点すれすれの私ですが、「うつ病の夫との共同生活を切り盛りする」という点においては逆です。がっつり自信があります。
これが私の「自己効力感」です。
ピンポイントに「これなら任せて!」と思えるものが自己効力感です。
ケア生活に対して自己効力感を保持出来ている家族(ケアラー)には、次のような特徴がみられます。
- 困難な状況にも柔軟に対応できる
- ポジティブなフィードバックを効果的に活用する
- 自分自身の限界を理解し、サポートを受けることに前向き
ケア生活自体がすでに「困難な状況」です。そしていつどんなときにどうなるか、が不透明です。絶対のルールや対処方法はありません。柔軟性が必要です。
いつどんなときにどうなるか分からない状況に柔軟に対応するためには「私なら対応できる」という自己効力感は大きな支えになります。
前向き(ポジティブ)な周囲の意見やうつ本人の反応は、「私はちゃんと出来たんだ」という行動への評価に繋がり、自己効力感を強化します。
自分自身の限界・キャパシティを理解していることも重要です。全方位パーフェクトにこなせる超人はこの世に存在しません。自分が何をどの程度までならこなせるか、許容できるか、を把握して取り組むからこそ「私ならやり通せる」という自己効力感が育ちます。
自己効力感を高いレベルで保持した上でケア生活に取り組むことで、不必要に自分に批判的にならず、自分の働きや役割に対して肯定的になれるため、無力感でストレスに潰されることが減っていきます。
3.自己効力感を高めるための3つのステップ
①小さな成功体験を積み重ねる
自己効力感を高めるための最初のステップは、小さな成功体験を積み重ねることです。
特に精神疾患のケアにおいては、すぐに大きな成果が現れにくいため、小さな進歩や変化を「成功」として認識することが大切です。
【例】
うつ病の妻が数日ぶりにシャワーを浴びた
→その行動を「息子が前進した」「自分のサポートが役立った」と捉えます。このような小さな進展でも、ケアラーとしての努力が効果を生んだと感じることができます。
双極性障害の夫が一緒に夕食を楽しめた
→それを「今日は安定した時間を過ごせた」という成功体験として捉えることができます。
【ポイント】
小さな成功を意識的に見つけ、それを自分の努力と結びつけることで、自己効力感は少しずつ高まります。
大きな結果を期待せず、日常の中で得られる些細な成功に目を向けることが重要です。
②ポジティブなフィードバックを活用する
自己効力感を高めるもう一つの方法は、ポジティブなフィードバック(振り返り、他者からの意見、反応)を効果的に活用することです。
自分自身に対しても、他人からもらうポジティブな言葉や反応を積極的に受け入れ、それを自信の源にしましょう。
【例】
夫が「ありがとう」と感謝の言葉をくれた
→その言葉を「自分が夫のために良いケアを提供できている証」として受け取ります。 また、自分自身に「今日はよく支えた」と褒めてあげることも有効です。
妻の状態が落ち着いている
→「私の支えが彼を安心させている」と自己評価し、妻からもらった「助かった」という言葉を自己肯定感に繋げます。
【ポイント】
他人からのポジティブな評価だけでなく、自分自身を認める習慣をつけることが、自己効力感の向上に繋がります。
「できたこと」に焦点を当て、些細な成功や良い結果をポジティブに評価することが重要です。
③挑戦的な目標を設定し、達成感を感じる
自己効力感を高める最後のステップは、少し挑戦的な目標を設定し、それを達成することで自信を深めることです。
ただし、過度に高い目標ではなく、自分にとって少し頑張れば達成できるレベルの目標を設定することが大切です。
【例】
妻が「今週、夫が毎日10分でも外に出るのを手伝う」という目標を立て、それが達成できた
→自分が果たした役割を誇りに思い、次の目標に向けた自信を得ることができます。
夫が「妻の気分が安定している日に、一緒に映画を見てリラックスする」という目標を設定し、それを達成できた
→ケアラーとしての自分の努力が妻の安定に寄与したと感じることができます。
【ポイント】
無理をせず、徐々にステップアップできる目標を設定することが鍵です。
目標が達成できると、その成功体験が自己効力感を強化し、さらに新しい挑戦に前向きに取り組むモチベーションが生まれます。
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精神疾患を持つ家族をケアしていると、成果がすぐに見えず、無力感に陥ることが多いですが、自己効力感を高めることで、そのような困難にも前向きに対応できる力を養うことができます。
①小さな成功体験を積み重ねることで、日々のケアにおける自信を育む。
②ポジティブなフィードバックを活用することで、自己肯定感を高め、モチベーションを維持する。
③挑戦的な目標を設定し、達成感を感じることで、自己効力感をさらに強化し、新たな困難に立ち向かう力を得る。
これらのステップを意識的に取り入れることで、ケアラー自身が心のバランスを保ち、家族をよりよい形で支える力が養われていきます。
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4.メンタルケアラーの自己効力感がうつ病患者にもたらす影響
①家族全体に与えるポジティブな影響
精神的な余裕が生まれる
メンタルケアラーが自己効力感を持つと、ケアする中でのストレスや不安が軽減されます。
ケアに自信を持っていると、「これでいいのだろうか」と悩むことが減り、落ち着いて行動できます。
その結果、家族全体に穏やかで安定した雰囲気が広がります。
ポジティブなフィードバックループ
ケアラーが自信を持つと、患者との接し方にも変化が現れます。
例えば、うつ病の家族が少しでも前向きな行動を見せた時、それをケアラーが気づき、称賛や感謝の言葉をかけることで、患者自身も前進を実感しやすくなります。
このポジティブなフィードバックループが、家族の絆を強化します。
家族の結束が強まる
ケアラーが自己効力感を持つと、自分の役割を明確に意識し、家族全体のケアにおいて積極的な役割を果たすことができます。
その結果、他の家族メンバーとの協力関係も強まり、全員がサポートし合う環境ができるのです。
②うつ病患者への間接的な効果
うつ病患者にとって、周囲の支えや環境は非常に重要です。メンタルケアラーが自己効力感を持つことで、患者にもポジティブな影響が生じます。
安定したサポートが患者に安心感を与える
ケアラーが自信を持ち、落ち着いた対応を続けることで、患者も「自分は見捨てられない」「周りが自分を信じてくれている」という安心感を得ます。
これは、患者の不安や孤独感を軽減し、回復の支えとなります。
コミュニケーションが円滑になる
ケアラーが自己効力感を持つと、患者とのコミュニケーションも柔軟で前向きになります。
ケアラーが自信を持って接すれば、患者も自分の感情や悩みを話しやすくなるため、信頼関係が深まり、患者の精神的な負担が軽減されます。
5.まとめ
自己効力感は、自信や自己肯定感、高い自己評価と違いピンポイントで今必要な状況への対応力として育てることが可能です。
ケアラーに必要なのは「いつか叶うもの」より「今すぐ手に入るスキル・サポート」です。それがあることで安心感と余裕が生まれて、巡り巡って自信や自己評価の向上につながります。
いつまで続くか分からないケア生活を支え続けるためには、一番大事なのは支える人(ケアラー)の心身の健康です。
毎日の行動や実績に対してポジティブな評価を与えることは、セルフケアの一環と捉えることも出来ます。
今までずっと出来ていたことはずっとずっと価値があり高く評価されるべき実績です。
自己効力感が高まることで、ケアラー自身の精神的な安定が得られるだけでなく、うつ病患者や家族全体にもポジティブな影響を与えることができるのです。
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