心のすれ違いを超えて:家族間の対立を乗り越える

テーマ:ケアラー支援



家族間で「こうしたい」がぶつかることは少なくありません。
特にその問題に病気や障害が関わってくると、問題は複雑化します。
更にうつ病など精神疾患の場合、目に見えないために行き違いも起こりやすくなります。
ただ、一緒に生活していれば、複雑でも見えなくても向き合わざるを得ないのが辛いところです。
うつ病の家族との間で求めるものが違ったとき、どう対処したらいいか、を考えます。


1.病気本人と家族(ケアラー)の立場の違い


①目的がずれる


病気の症状で辛い体験をしているのは本人です。そして辛い状態を見ている家族も心配するし、早く良くなって欲しい、と考えます。
病気が治る、症状が改善することが目的であるところは一致します。
しかしその先が異なります。
回復するための取り組みが、家族側からすれば「普通のこと」に見え、本人にとっては「今は無理」と感じるものだったりします。

②対立が生じる


同じ目的を目指しているはずなのに、家族側からすれば「分かっているのになぜやらないんだろう」という疑問が生まれます。
家族もうつ病・精神疾患について勉強していますから、自分達と同じようにモチベーションを喚起したり行動することが難しいことは理解しています。
ただ、勉強から得た「理解」だけでは不十分なほど、目の前の家族は何も出来ません。
本人にしてみれば「なぜわかってくれないのか」という気持ちも湧いてきます。
同じ目的を目指しているからこそ、状況と立場の違いが対立に発展します。

③関係性が変わる


同じ目的を持っていて、双方理解できている、と認識しているからこそ、この対立は簡単には改善できません。
家族間の対立は、そのまま日常生活におけるストレスです。
例えば職場で上司と対立しても、家に帰れば気持ちを切り替えてリラックスすることが出来ます。しかしリラックスする場である自宅に対立関係が存在するとストレスを緩和する場がありません。
ストレスが長引くことで、お互いに相手に対する「理解しよう」という気持ちが弱まってしまい、更には信頼の程度も下がってしまいます。

④生活とメンタルへのストレスが増大


結果としてお互いの心身への負荷が高まり、病気本人は症状が悪化したり、家族側にも睡眠障害等の問題が起こることが考えられます。



2.家族間の利害衝突の種類


①治療・療養方針について


本来病気の治療方針は、主治医が立てて患者が了承することで進みます。しかし家族の意見を丸ごと無視する主治医も患者もいないでしょう。
最初から衝突することは稀かもしれませんが、例えば治療が始まってある程度期間が経過しているのに想定(期待)したような変化が見られないと、治療方針に対して疑問を感じるでしょう。

この時に患者と家族の意見がぶつかることがあります。
患者は今の主治医が良い、家族は別の病院へ行ったほうがいいのでは、と考える。またはその逆などです。

②ケアや生活上の役割分担


病気や障害を持つとそうでない人には出来ることが出来なくなることが多いです。
一時的だとしても家庭内の役割分担を見直す必要が出てきます。
理想は病気本人には療養に専念してもらうことですが、そうなると家族(ケアラー)が全てを担わなければいけなくなります。
家族の人数が多ければ分担も可能かもしれませんが、夫婦二人、または子供がまだ小さければ非現実的です。

やらなければいけないことと、現実的な人手不足問題で「誰がやる」「なぜやらない」のような衝突が起こりえます。

③お金問題


生活する中で避けて通れないのがお金の問題です。
生活費をどう賄うか、という問題も大きいです。次に多いのはお金の使い方です。
例えば病気で休職している人が、数カ月後の復職を意識してスーツを新調したりします。本人にとっては決意表明だったりモチベーションアップの対策かもしれませんが、家族から見たら「今すぐ必要なものじゃないのに」と見えるでしょう。



3.家庭内の利害の対立が引き起こす問題とは


こうした利害の対立自体もすでに問題ですし、ストレスです。
そしてこれらが更に二次的、三次的な問題が発生してきます。

例えば以下のような問題が考えられるでしょう。

  • 不満が貯まる
  • 相手への持続的な反発心
  • 心身両方の疲労感
  • 役割・責任の抱え込み
  • 自己評価の低下
  • コミュニケーション不全
  • 相手の「今」が分からなくなる


ただ、こうした問題を認識しても、そもそも対立したのが自分の「こうしたい」が叶えられない状態から始まっているので、そう簡単に撤回が出来ません。

相手が自分に対して不満を感じているのは分かっている、しかし自分にも言い分や主張、根拠があったからこその対立です。だからこそ複雑化してしまうのです。

大元の問題に手を付ける前に、とりあえず目の前で不機嫌になってしまった相手の機嫌を取ろうとしてしまうのも「ケアラーあるある」です。
表面上は解決したかに見えますが、自分の中で「こうしたい」が叶わなかった、という不満や葛藤は消えません。
それはそのまま心身へのストレスに育ってしまいます。

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4.家族間の利害衝突への対処方法


①コミュニケーションの復活


まずはコミュニケーションを取ることが必要です。この場合のコミュニケーションとは「情報収集」と考えましょう。

  • 自分がどうしたいと思っているのか、を知ってもらう
  • 相手がなぜそうしたいと思ったのか、を知る


為の手段です。

②第三者を巻き込む


家族間で1対1で対立してしまうと、本来のテーマからずれたものまで絡まって更に解決が遠のいてしまうことがあります。
可能であれば別の人、同居していない、中立的な立場になってくれる人を巻き込みましょう。

③ルールを作る


コミュニケーションを取る中で、お互いが何をどんなふうに解釈したのか、目的は同じだとしても他の価値観や目的・求めるものなどとの優先順位はどうなっているのか、などが明確になっていきます。

今回対立が起きたのはなぜでしょうか。

  • 言い方
  • タイミング
  • それぞれの得手不得手
  • 価値観


などがズレたせいだったかもしれません。

衝突が起きたきっかけ・理由が分かれば、今後大事な相談をするときにはどんな点に注意すればいいのか、何が相手にとっての「地雷」なのか、が分かってきます。または自分にとってどんな方法だと抵抗少なく話が聞けるのか、も明確になります。

そうしたらそれを家族間のルールにすると、衝突、そこから生まれるストレスが減っていくでしょう。

④心理的安全性を構築する


心理的安全性とは、自分が意見を言っても批判されない・拒絶されない・必要以上の責任を追及されることはないと信じることが出来て、安心して発言できる場のことです。

「心理的安全性(psychological safety)」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。
組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。メンバー同士の関係性で「このチーム内では、メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている」ことが重要なポイントです。
(リクルート)


組織や職場で必要な要素として提唱されましたが、私は家庭にも必要だと考えます。家庭なら好きに発言出来て当然、という思い込みが、家庭内の心理的安全性を損ないます。
家族だからこそ、思っていることを不安を感じずに言葉に出来る環境を守る必要があります。

心理的安全性を守るためのポイントは以下の9つです。

  1. お互いを尊重する
  2. 批判的な態度を取らない
  3. 相手の立場や感情に共感する
  4. 積極的に褒めたり、感謝を伝えたりする
  5. 家族内でのルールや期待について一貫性を持つ
  6. 感情を抑えるのではなく、適切に表現する
  7. 家族メンバーのプライバシーを尊重する
  8. 協力的な環境を作る
  9. 問題が発生したとき、感情的にならず、冷静に対処する




5.今起きている利害衝突に、すぐできること


①アイメッセージ


まず、自分の意見は「自分の意見である」と伝えることが大事です。
意外とやってしまうのが「普通は…」とか「あなたは…だから」という表現です。
自分の意見を社会通念のように表明すると、言われた側は数に負けてしまいます。
また、本当は「自分は~したい」と思っているのに、それに相反する相手の意見を変えさせようとして「あなたは~だから(いけない)」のような言い方になると、意見というより感情が衝突します。

アイメッセージとは「私は(I)」から始まる語法です。
私は~だと思っている、~がいい、~したい、のように伝えることで、相手との対等性が守られ、こちらの意思を理解してもらいやすくなります。

②コンプリメント


コンプリメント(Compliment)とは、褒める、承認することです。
先ほどの心理的安全性のポイントにもあったように、相手を批判しない姿勢です。相手の考えや行動に「いいな」と思う部分があれば積極的に拾って褒めましょう。

褒めるという行為は、褒められた側のメンタルに良い作用を及ぼすことは勿論ですが、褒めた側にも良い効果が得られます。他者を承認・賞賛することでドーパミンやオキシトシンと言った抗ストレスホルモンが分泌され、自分も充実感を得ることが出来ます。

③DESK法(提案時)


アサーションというコミュニケーション理論で提唱されている技法のひとつです。

D=Descrive:状況説明
感情や意見入れず、事実のみを伝える

E=Express:感情表現
自分がその時どう感じたか、を伝える

S=Specify:要望を明確にする
相手に何を求めているのかを、具体的な行動案として提案する

K=Know the consequences:結果を示す
Sが実行された/されなかった場合の結果を伝える

特に対立や意見の違いがある場面で効果的です。

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6.まとめ


①精神疾患になった家族との間では、立場の違いが起こる
②利害衝突の種類 3つ
③家族間の利害衝突は、二次的・三次的な問題を引き起こす
④家族間の利害衝突への対処法 4選
⑤今すぐできる利害衝突解消法 3つ


病気になった家族を支えようと思っても、全てが順調に進むことは少ないです。
それは家族(ケアラー)側にも意思があり、欲求があり、目的があり、状況・環境があるからです。
それを全て後回しにして衝突を避けようとするから、問題を抱え込んでしまい、いずれは共倒れや燃え尽き状態を引きこしてしまうのです。

お互いの利害が衝突するのはあって当然、それをむやみに忌避するのではなく、どうやって解消するか、を、相手と一緒に考えよう、とする態度こそが一番の解決策です。

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