コンパッションで心の回復力を育む:思いやりが支えるレジリエンス

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:自己啓発

コンパッションで心の回復力を育む:思いやりが支えるレジリエンス

コンパッションとは「慈悲」「思いやり」という意味です。
自分以外の誰かに対して思いやりの気持ちを持って接することは、接してもらった人だけでなく自分自身にも良い影響を与えてくれます。
そしてそれは心の回復力(レジリエンス)を高めることにも繋がります。

今回は他者へのコンパッションを実践する方法と、それによりどのようにレジリエンスが高まるか、について解説いたします。


1.コンパッションとは何か?


①コンパッションの定義


コンパッションとは、先ほどもお話しましたが「慈悲・思いやり」の心のことです。単なる共感とは異なり、コンパッションには他者の苦しみを軽減しようとする積極的な行動や意志が含まれます。

他者の苦しみを軽減しよう、という意図は、次のような行動・傾向を生みます。

・相手との感情的な繋がり、反応を返す
・相手の苦痛を軽減する具体的行動の発生

そして他者を癒そうとする姿勢を自分自身へ向けた時、「セルフコンパッション」として、自分自身との向き合い方が変化します。

②コンパッションと共感の違い


他者の感情に寄り添う、という姿勢にはコンパッション以外に「共感」があります。
共感は、「あたかも自分が相手になったつもりで」思考や感情を体験することです。主体は相手です。
コンパッションは共感的寄り添いをしつつ、「では何をしてあげればいいか」という、より積極的な考え方や行動を派生させます。主体は自分です。

どちらもコミュニケーションにおいて非常に重要で価値があるスタンスです。
順番としては、相手の状況を理解した上で共感→コンパッション、となることが多いでしょう。

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③コンパッションが持つ効果


コンパッションがもたらす効果は主に以下の3つです。

1つはストレス軽減です。
他者を思いやる行動は、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌を促します。オキシトシンはストレスホルモンのコルチゾールを低減してくれます。
精神的に安定することが出来るため、自分自身のポジティブな感情を増幅させます。

2つ目はこのコラムの主眼でもある「レジリエンス」の向上です。
他者に対してコンパッションを持って接することで、自分の自己効力感が高まり、メンタルの安定性が向上します。自分が誰かのために何かをしようと考えること自体が自分に自信を与えてくれますし、それによって相手が少しでも苦痛から解放されたことを実感出来れば「自分にも出来る」という確信が高まります。
その行動・反応は、相手との信頼関係を以前より向上させます。誰かとしっかりと繋がれている、という確信は孤立・孤独感を解消し、自分の心の回復力(レジリエンス)の糧となります。

3つ目は免疫機能の向上です。
他者に対するコンパッション(思いやり・慈悲)は、オキシトシンの分泌を通じて、免疫システムを活性化し、感染症や病気に対する抵抗力を高める効果があります。
これにより、ストレスの軽減、炎症反応の調整、免疫細胞の活性化など、複数の生理的メカニズムが働き、全体的な健康が向上します。
また、コンパッションを通じて得られるポジティブな精神状態は、免疫機能のバランスを保ち、健康な生活を支える基盤となります。



2.コンパッションとレジリエンスの関係性


①共感と理解がレジリエンスを強化する理由


先ほどもお話したように、コンパッションを実践するより先に相手への理解と共感が起こっています。そして「相手の為になにかしたい」という欲求=コンパッションが湧き上がります。

この心的な変化は、コンパッションを実践する側の自己理解を深めます。
どんな状況に対してより共感しやすく、どんな手助けならできるのか、に気づくことが出来ます。これは間違いなく自分の強み、ストレングスです。
そして先ほどもお話したように共感した相手との関係性が強化されます。
自己理解が深まりしっかりした関係を構築した他者を得ることで、実践側の個人的成長が促進され、レジリエンスが向上するのです。

②サポートネットワークの構築によるレジリエンスの向上


コンパッションとは共感と同じくコミュニケーションの一形態です。
コミュニケーションとは双方向です。一見自分が誰かの手助けをした、何かを与えた立場のように見えても、相手から感謝などのポジティブな反応が返ってくれば自分も何かを得た立場になります。
この繰り返しが信頼関係です。

困ったときに誰かをサポート出来た、自分が困ったときに頼ることが出来るだろう相手がいると思える、という「支え合う関係」を構築することが出来、レジリエンスを高めることに繋がります。

③セルフコンパッションとレジリエンスの関連性


更にコンパッションを自分自身へ向けた「セルフコンパッション」もレジリエンスに大きく寄与します。
他者に対して実践してきた思いやりや共感、手助けを自分に向けることです。

セルフコンパッションは、様々な精神的・自己成長へのメリットをもたらします。

・自己受容の土台を作る
・ストレスを軽減し、冷静な判断を生む
・自分に対して批判ではなく肯定的な言葉をかけられる
・失敗や挫折に対し共感することで、経験を学びに変えられる

コンパッションは他者へ向けた姿勢で実践ですが、円環的に自分自身にもプラスの効果を与えます。更に他者を経由することで信頼関係も構築されます。他者と自分が繋がっている、と信じられる力は、自分が落ち込んだりダメージを受けている時の支えになってくれます。
自分がサポートした人から直接何かが返ってくるということに限定せず、「直接間接に関わらず、自分も誰かに支えてもらっている」と信じることが出来るからです。

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3.日常生活でのコンパッション実践方法


①日常生活での具体的なコンパッション実践行動


コンパッションは何か特別なことをする必要はありません。
日常生活の中で普段からやっていることを少し意識することで、自分のレジリエンスへの影響が変わってきます。

1つ目は「感謝」です。
誰かに何かをしてもらったとき、つい「すみません」とか「ごめんなさい」と言っていることは無いでしょうか。
日本人同士なら、その場の状況で「すみません」が感謝の意味であることは先方にも伝わるでしょう。しかし「ありがとう」と比べると、どちらかというと「手間をかけさせて申し訳ない」という謝罪の意味が入り込んできます。

誰かに対し感謝を伝えるときは意識して「ありがとう」を使ってみましょう。

2つ目は「他者へのサポート」です。
それこそピンからキリまであるのがサポートです。落としたものを拾ってあげるのも、甚大な被害を受けた被災地でボランティアをするのもどちらも「サポート」です。
大事なのは「自分が出来る範囲で対応する」ことです。それを超えて何かをすれば、場合によっては自分にダメージが残ってしまいます。

日常生活を振り返って、今の自分のままできる他者へのサポート行動は何か、を考えてみましょう。

・エレベーターの開閉ボタンを押す
・混んだ電車で座らない、席を譲る
・レジ横の募金箱に10円募金する
・疎遠気味の友人にLINEする
・家族の代わりに一つ家事をやる

「出来た」という実感が何よりの報酬です。その度にオキシトシンがバンバン分泌されているところを想像してみてください(笑)

②共感的コミュニケーションの技術


コミュニケーションスキルとしては、「傾聴」と「共感」が効果的です。

傾聴は、ただ聞くだけよりさらに一歩踏み込んだ「アクティブリスニング」を試してみましょう。
アクティブリスニングとは、相手の話をしっかり聴いて理解しようとする姿勢です。これにより相手との信頼関係が強まります。
具体的な手順は以下の通りです。

注意を向ける:身体の向きや目線を相手に焦点を当てます。
相手の話に集中する:気が散る環境や条件を排除します(テレビを消す、静かな場所を選ぶ、スマホを遠ざけるなど)
非言語情報に注意を配る:言葉以外の、仕草・目線・声のトーンや大きさ・沈黙の長さやタイミングから相手の意図を汲み取るよう注意を向けます。
フィードバックを返す:意見を言おうとする必要はありません。「あなたの話をしっかり聞いています」という気持ちが伝わるよう、相づちをうったり、「つまりこういうこと?」と確認したり、分からないことはスルーせず質問したりします。
共感を伝える:特に相手の感情に対して、その人になったつもりで感情を再体験して、それによって感じた気持ちを言葉で伝えます。

こうした手順をふむことで、お互いの信頼関係が高まり相互理解が促進されます。

もう一つは「共感」です。「あたかも自分が相手になったつもりで」その状況と感情を自分の中に再現する作業です。
「もし自分だったら」という視点は必要ありません。自分の視点を排除して相手の立場になるのは意外と難しいですが、自分の視点を持ち込むと相手の思考や感情に対して反感や矛盾を感じてしまいます。そうすると「あたかもその人になって」が実現出来ません。

共感を実践するときのポイントは以下の2つです。

・相手の感情を反映する:手が表現した感情に対して、その感情を言葉で反映することです。たとえば、相手が悲しんでいる場合、「それは本当に辛いですね」という言葉を使って、その感情を理解し共感していることを示します。
・感情を共有していることを態度で示す:感情共有の一環として、相手が困難な感情に直面している時に、感情的なサポートを提供することが重要です。これは、励ましの言葉や、相手の気持ちを支えるための行動(例:肩に手を置く)を含みます。



4.セルフコンパッションの育成


①セルフコンパッションの重要性


セルフコンパッションとは、一言で言うと『自分自身に対して慈悲的に向き合う』ことです。
「慈悲」、コンパッションとは、他者に対する深い思いやりや同情心を持つことです。
「セルフ」ですから、この「深い思いやりや同情心」を自分に対して向けることが、セルフコンパッションです。

自分で自分を慈悲的に扱うことで、

・安心、落ち着き
・開放性、楽観性
・他者との繋がり
・自己効力感
・好奇心
・自分の人生に対する満足感
・健康、ウェル・ビーイング(幸せ)
・視点の拡大
・感謝

を実感することが出来、それによって自己批判と自己攻撃の嵐から自分を救うことが出来ます。

②セルフコンパッションを高めるための具体的な方法


セルフコンパッションを実践する方法を3つご紹介します。

1つ目は「批判的な独り言を変える」です。
普段自分に対して厳しめな言葉をかけていることが多いのではないでしょうか。

「こんなことも出来ないのか」
「つまらないミスばかり何度も繰り返して情けない」
「どうして他の人みたいにちゃんと出来ないんだろう」

こうした自分への声かけ・独り言を変えることで、セルフコンパッションを実現出来ます。最終的には、これからのあなたの自分に対する向き合い方を長期的に変える設計図となります。

まずは自分が自己批判的になっている時にそれを自覚することです。
役に立つのは日記・ブログ・SNSなど、文字として残るツールの活用です。出来る限り正確に、内なる声を逐語的に記録するとよいです。

そして記録を振り返り、批判的で厳しい表現になっていたら、それを変えてみましょう。自分に対して、と思うと難しいなら、家族や友人、パートナーへ向けて言う場面を想像してみると思いつくかもしれません。

2つ目は「自分へのコンパッションのある手紙を書く」です。
コンパッションのある手紙を自分に書くことで、その声に耳をずっと傾けることが出来ます。これは苦しかったり、自分に不十分さを感じたりしたら、いつでも構いません。あるいは変わろうとする動機付けを高めたい時にも出来ます。
手紙の書き方は主に3つあります。

・いつも賢くて、慈悲深く、コンパッションのある想像上の友達を思い浮かべ、その友達の視点から自分へ手紙を書く
・自分と同じような苦しみに直面している心から愛する友達に話しかけているつもりで書く
・コンパッションのある自分から、苦しんでいる自分に向けて手紙を書く

手紙を書いたらしばらく置いておき、後になってから必要なときに読んで、自分をなだめたり、安心させたりするのに使ってください。

3つ目は「日常生活の中でマインドフルネスを実践する」です。
1日に1つ、マインドフルになりたい活動を選びましょう。
それは歯を磨くとき、駐車場から職場の建物へと歩くとき、朝食を食べるとき、あるいは携帯電話が鳴るときでもよいでしょう。
日々の人生の務めによって打ちのめされないように、1日の早い時間に怒る活動を選んだ方が良いでしょう。
たとえば駐車場から職場の事務所まで歩く時を選び、その活動中にマインドフルになりたい時、現在の時間の実際の経験に意識を集中させるとよいでしょう。



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5.困難な状況でのコンパッションの活用


①ストレスフルな状況でのコンパッションの実践例


まず、ストレス度が高い状況で自分自身にコンパッションを向けるためにはどうすればいいか、を考えましょう。

まずコンパッションとは「誰かを辛い状況の中でサポートする」ことですよね。
辛い状況とは、何が辛いのでしょう。
物理的な刺激(音、光、温度、人の声、混雑、空間の広さや狭さ)が辛いなら、それが無い場所へ行きましょう。
そして自分が心地よいと感じられる環境に移動しましょう。
そこで体のリラックスを取り戻します。ゆっくり深呼吸を5回やって、コップ1杯の水をゆっくり飲みます。
更に可能なら労わりの言葉をかけてくれる人に連絡を取って、慰めてもらいましょう。

そして「こんなことで辛くなるなんて」と自分を叱咤し始めたら、それを止めて「辛かったよね、よく我慢したね、落ち着くまでここにいようね」と、辛い自分の気持ちに寄り添います。

自分以外の他者に対するコンパッションもこれと同様です。
セルフコンパッションと違うのは、自分が「頼られる側」ということです。つまり具体的なサポートを実施できる状況ですので、自分自身に出来るサポートを提供しましょう。
傾聴と共感をベースにすると「相手の根本解決になるサポートをしよう」と思ってしまうかもしれませんが、それが自分のキャパを超えたものなら逆効果になる恐れがあります。
自分が対応出来る範囲で相手の手助けになるサポートを実践しましょう。

②コンフリクトマネジメント(紛争解決)におけるコンパッションの役割


コンフリクトとは対立が起きている状況です。葛藤や矛盾も含まれるでしょう。相容れない性質のものが同時に存在している、という状況です。

コンフリクトはまず「なぜこの状況になったのか」を理解する必要があります。
「なぜ」を「原因追及」と捉えると犯人捜しになってしまいます。
コンパッションを活用した状況理解は、プロセスへの共感を生みます。
事実関係だけでなく、そこに関わった人への感情的な理解が発生します。

それにより、スムーズで混乱の少ない原因理解に繋がります。

コンフリクトの解決にコンパッションを実践するためのスキルは、以下の3つです。

・傾聴と理解:まず相手の話をしっかりと聞く
・共感的なフィードバック:相手の意見や感情に対して、共感を示す
・問題解決へのサポート的態度:お互いのニーズや懸念を理解した上で、双方にとって最良の解決策を見つける



6.まとめ


①コンパッションとは、慈悲・思いやりの態度と実践のことである
②コンパッションは提供する側のレジリエンスも強化する。そのポイントは相互のサポート関係の構築にある。
③日常生活の中でのコンパッション実践は、「感謝」「傾聴」「共感」を、自分のキャパシティ内で行う
④セルフコンパッションの重要性と具体的な実践方法
⑤対立構造の中でコンパッションを活用する意義と効果とは


レジリエンスとは、基本的には個人の内的なスキルです。
しかしそれを高めることは、自分一人だけでは限界があります。他者との関わり、ソーシャルサポートから得られる効果はとても大きいです。
自分には誰かの手助けが出来るスキルと力と余裕がある、そして自分も誰かに助けを求めていいのだ、と信じられることが、心が危機状態から脱するときに大きな力を発揮します。

レジリエンスは危機状態にだけ関わるものではありません。普段の生活と人との関わりの中で構築・メンテナンスされ続けるスキルです。
今まで出来ていたことを改めて振り返り、意識して実践することで、ご自身のレジリエンスを高めていきましょう。


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西岡惠美子(カウンセラー)

惠然庵(けいぜんあん)

私自身がケアラー(病人のケア、療養サポートをする人)です。自身の経験と専門知識による「メンタルケアラーカウンセリング」でケアラーのサポートと成長、家族支援を行います。

西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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