戦うだけが全てじゃない:心の逃げ場を活用する

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:心が辛くなったとき

戦うだけが全てじゃない:心の逃げ場を活用する

~逃げることで得られる心の安定と回復力~

人は悩みや問題が起きると「逃げるか、戦うか」の2つで悩みます。大抵の人は戦う方を選んでいるのではないでしょうか。
そんなことない、という方も、その場で耐え続けていると思います。それも戦い方の一つです。
でもそれだけでは長期間を乗り越えることは難しいです。もう一つの「逃げる」を選ぶことも必要です。
今回は心の逃げ場の作り方と効果、メンタルヘルスを向上させる流れをご紹介します。


1.心の逃げ場、持っていますか?


①心の逃げ場とは


正式な定義があるわけではありません。
西岡が考える「心の逃げ場」とは、不安な時・焦った時・恐怖を感じた時・孤独になった時に、そのネガティブ感情を和らげてくれる環境・条件・モノ・考え方のことです。

暑い時は涼しい室内へ、雨が降ったら屋根がある場所へ逃げますよね。体はそのように「逃げる」ことが出来ます。
しかし心は分かりやすく明確な逃げ場を持ちません。むしろ心が逃げることは悪いことだと思われている風潮もあります。それが回り回って今の余裕の無い社会を作っている一因になっていると思います。

心が辛くなった時に思い出すことで「自分はまだ大丈夫」と思い出せるための要素を「心の逃げ場」として定義させていただきます。

②どうして心の逃げ場が必要なのか


まず、気持ちの上で逃げることは悪いことではない、と、自分に対して認めることが出来ます。
先ほどお話しましたが「逃げることは悪いことだ」という思い込みがまだまだ強いです。特にメンタルに不調を来たす方の中には根強いと感じます。

どうしても逃げてはいけない瞬間はあります。ただ、それを「いつも」にしてしまうことが問題です。

自分の心を楽にして守り調整する場や機会を持つことで、常に挑戦し続けなければいけない、という思い込みから自分を解放し、本当に立ち向かわなければならない場面で、自分の本当の力を発揮することが出来るようになるのです。

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2.心の逃げ場の事例


①趣味


代表的な心の逃げ場は趣味です。
趣味、と一言で言っても幅広いです。音楽、といってもBGMとして楽しむ人もいれば定期的にライブを聴きに行く人、自分で楽器を演奏する人やカラオケが好きな人、曲を作るような人もいるでしょう。

どのような取組み方でもいいのです。大事なのは「あれ(趣味)をやる時間だけはイヤなことを忘れられる」と無条件で信じられることです。

趣味の時間を無条件に時間すら忘れて没頭出来ると、とても大きな充実感と満足感を感じることが出来ます。
充実感を感じると、脳内ではセロトニンやオキシトシン、ドーパミンなどのホルモンが分泌され、メンタルの安定度が高まります。

辛い状況の中で耐えて疲れた心を趣味の時間によって労り補修することで、自ずと「また頑張ろう」という気持ちがわいてきます。
その繰り返しが「自分にはあれ(趣味)がある、だから大丈夫」という、自分を信じる心(自己効力感)を高めてくれます。

②瞑想、ヨガ


趣味の一つとして楽しんでいる方もいると思います。特に女性に多いのではないでしょうか。

人がネガティブ感情を喚起するとき、そのほとんどは過去か未来に思考が囚われている時です。

「あの時もっとああすればよかった」(過去への後悔)
「もしこうなったらどうすればいいんだろう」(未来への不安)

しかし過去の事実を変えることは出来ないし、未来も確定していないのだから今の時点で操作することは出来ません。
実際に手を下すことが出来ないものに対して心を砕くことほど、人を疲れさせる体験はありません。

瞑想は、そうした疲れる体験をストップさせ、今この瞬間の自分の体験だけに集中させてくれます。

今の自分がどんな状態にあるのか
今の自分が置かれている環境、状況は?
今この瞬間すぐにできることは何か

過去や未来に意識が囚われている時はこれらについてほぼ考えていません。しかし人が出来ることは「今この場にいる自分」が出来ることだけなのです。
本当に実行出来ることに気づくことで、心は安定と余裕を得ることが出来ます。

③ソーシャルサポート、ペットの存在


3つ目は他者の存在です。家族、友人、会社の同僚や上司、またはペットや推し、という方もいるでしょう。
心が辛い状況にあるときに思い浮かぶ人とは、自分にとっての安全基地であることが多いです。
その人は、自分が辛い時には必ず力になってくれる、と無意識レベルで信じられる相手だからです。

学校で嫌なことがあった子どもが、真っすぐ家に帰ってお母さんに飛びつく、という姿は容易に想像出来ます。その子供は嫌な体験を話すまでもなく、お母さんの顔を見ただけで安心します。また明日学校へ行けば嫌なことがあるかもしれない。でもお母さんのことを思い出して、お母さんの顔を見れば安心出来ます。

家族に限らず、恋人だったり、直接会ったことがない推し、更には二次元のキャラクターでもいいと思います。

心が辛い時にそのダメージを深めるのは『自分は一人だ』という思い込みと実感です。
物理的に一人でいることはそれほど人を追い込みません。心の中に、自分の気持ちに寄り添って無条件に受入れ肯定してくれる存在を持つことで『自分は一人だ』という思い込みから解放されることが出来ます。





3.心の逃げ場を作る3ステップ


①自分が安心出来る条件を見極める


それでは心の逃げ場を作る方法をご説明します。
まず最初に「自分が心から安心出来る条件とはなにか」を考えてみましょう。

場所
周囲の環境(音、光、匂い、他者の存在)
感情(安心、楽しさ、喜び、愛、未来、やる気、自由)

などを想像してみましょう。

②環境を作る


次に、自分が心から安心できる条件をかなえるための環境を考えましょう。
特に「心が安心出来るため」の環境を作ります。
自分の安心を呼び起こしてくれる場所・環境・道具・風景を揃えるのです。

  • 家族やペットの写真
  • 好きな音楽
  • 飲みもの、食べもの
  • 匂い
  • 思い出


色々あるでしょう。形があるものだけとは限りませんが、形が無いものなら、更にそれを思い出させてくれるアイテムを側に置いておくといいでしょう。ぬいぐるみやキャラクターグッズ、お守りなどですね。

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③時間を作る


自分の心が安心する条件をを見出し、それを味わうための環境や道具が揃ったら、実際に心の逃げ場を活用する時間を作りましょう。

心の逃げ場の使い方は2種類あります。
一つは突発的・緊急時です。何かトラブルに見舞われて精神的に追い詰められた時に使います。
この時は自分が十分満足するほど逃げることは難しいでしょう。緊急時には体が瞬時に戦闘・防御態勢に入ります。筋肉に力が入り血圧が上昇し呼吸が浅くなり、体がすぐ安全な場所へ逃げられるよう準備をします。この準備はごく短時間だけ有効です。長く続くことで心は確実にストレスを受けることになります。
身体の安全が確保、または体には危険が迫っていないことを確認出来たら、身体の緊張を解く必要があります。そのために数分だけ心の逃げ場を使います。

もう一つは緊急時以外での活用です。
突発的なトラブル対応がすべて終わって一息ついたあと、今度はその体験から引き出されたネガティブ感情が心を支配します。
不安、恐怖、焦り、恥、悲しみ、怒り、孤独などです。
感情はあっという間に人を飲み込みます。飲み込まれたままにしておくとどんどん深みに引きずり込んでいきます。
かといって「感じない」ようにしようとすると、今度は「何もしないことがいいことだ」という極論に至ってしまいます。
心の逃げ場は、ネガティブ感情に自分が対応しきれないほどの深みまでハマりこむことを避ける浮き輪の役目を果たしてくれます。
緊急時以外なら、30分~1時間など、ある程度まとまって心を逃がしてあげましょう。

4.心の逃げ場がメンタルヘルスに繋がる仕組み


①逃げ場があることが安心感を高める


心の逃げ場は、持っているだけで安心感を高めてくれます。
例えば頭痛持ちの人が頭痛薬を常備しているようなイメージです。
実際に薬を飲むことはなくても、「外出先で頭痛が起きても薬があるから大丈夫」と考えることで気持ちが楽になります。そして外出を忌避することも無くなります。
逃げ場があるから「逃げなくてはいけない」ということではありません。
本当に辛い時に、その辛さから逃れられる方法を自分は知っているんだ、と自覚できることで、必要以上の不安や恐怖を引き起こすことが無くなります。

②逃げ場でのケアが回復力を養う


心の逃げ場を持つことで、自分で自分の心をケアすることが出来るようになります。

好きなことに没頭することで充実感や満足感を感じることが出来ます。
自分が本当は何が得意でどんな強みを持っているのか、を思い出すことが出来ます。
心の逃げ場を活用した後は、それ以前は八方塞がりに感じていた状況に活路を見出すことが出来るようになります。
「別のやり方がある」「自分にはまだ出来ることがある」という気づきは、落ち込んだメンタルを回復させてくれます。

③逃げ場を活用して自己評価を高められる


この経験を繰り返すことで「辛いことがあっても自分はまた復活できる」と信じることが出来るようになります。

心の逃げ場とは、自分の心地よさや安心感を追求した、自分だけの空間です。
そこに他者の力はほとんど関わって来ません。ソーシャルサポートを心の逃げ場にするとしても、その人を選んだのは自分です。自分の選択が効果を発揮しているのです。

自分の意思と選択によって自分自身を回復させることが出来ていることを実感できると、自己評価は高まり、安定します。

5.心の逃げ場 Q&A


Q1:忙しい毎日の中でどうやって逃げ場を作ればいい?


A:心の逃げ場を持つために特別な取り組みをしよう、としなくて大丈夫です。心の逃げ場を作る3ステップのうちの1つ目の「リラックスする条件を見極める」を、隙間時間に考えてみましょう。
1日が終わってベッドに入った瞬間、家に帰って家族に「おかえり」と言ってもらったとき、コンビニで好きなスイーツを買う時など、意識しなくても毎日繰り返している活動の中に逃げ場となる要素が含まれています。
自分が選んで行っている行動の一つ一つを吟味してみては如何でしょうか。

Q2:コストをかけずに逃げ場を作りたい


A:もちろん心の逃げ場にお金をかける必要はありません。お勧めは「思い出」を振り返ることです。
過去を振り返る、と考えるとついイヤな体験に意識がフォーカスしがちです。でもそれは結構最近の出来事を指した印象ではないでしょうか。
もっと昔、自分が小さかった頃のことを思い出しましょう。
特に「懐かしさ」を喚起する要素は重要です。まだ責任も役割も無かった子どもの頃に感じた安心感を思い出してみましょう。

Q3:逃げ場を持つことで、ストレスはどれくらい軽減されますか?


様々な研究が「心の逃げ場」についてメンタルヘルスへの効果を証明しています。

まずは瞑想とマインドフルネスです。マインドフルネスストレス低減法によって、うつ病や不安の症状を優位に減少させられることが示されています。
瞑想とマインドフルネスによって、それを利用していない人よりうつ病リスクが30%低減されました。

ペットとの触れ合いは愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌を促します。
ペットとの触れ合いによってストレスレベル15%低下した、という報告があります。

趣味を楽しむことでも効果があります。特に絵を描いたり音楽や手作業などの創造的な活動を行うことで、ストレスホルモンのコルチゾールのレベルが平均して25%低減した、という報告があります。

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6.まとめ


  1. 心の逃げ場とは何か。何故必要なのか
  2. 心の逃げ場の事例と効果
  3. 心の逃げ場を作るステップは、条件作り→環境→時間
  4. 心の逃げ場で安心感と回復力を高める
  5. 心の逃げ場に関するQ&Q 3選


いつでもどこでも常に耐えて戦い続けることが出来る人はいません。
他人の目にはそのように見える人も、実はどこかで必ず逃げ場を持っています。
心の逃げ場を上手に使うからこそ、必要な場面で戦うことが出来るのです。

勿論無理に戦い続ける必要はありません。
ただ大人は戦わざるを得ない場面がとても多いです。
致し方ない時に自分の役割を果たすためにも、自分だけの心の逃げ場を持ちましょう。


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