家族のうつ病を受け入れる心構えと対処法

テーマ:ケアラー支援



~困難を乗り越える方法~
家族がうつ病になった時、それをすぐに受け入れてサポート体制に入ることは現実的には難しいです。
家族の病気はどんなものでもショックですが、精神疾患特有の問題があるからです。それは家族と言えど同じです。
受け入れることが難しい問題と向き合わなければいけないのは辛いです。簡単ではありません。
それでも向き合わざるを得ないのが家族です。ではどんな向き合い方があるのか、を考えました。


1.うつ病の人に必要なのは、周囲からの理解


①辛さへの無理解からうつ病になる

うつ病になったことが無くても、周囲から自分の思考、感情、行動理由を理解されない辛さは誰もが経験したことがあると思います。
特にネガティブな感情を理解してもらえなかったり、否定されたり、見下されたりすれば、その感情だけでなく自分自身を否定されたように感じて心の拠り所を失います。
そして意地になって今のやり方を貫くか、または周囲の反応が好転するやり方に無理やり変えたりします。
いずれのパターンであっても、長く続くことで心身の疲労がうつ病を招いてしまいます。

②合理的配慮とは

合理的配慮、という言葉は最近あちこちで耳にすると思います。合理的、という言葉の通り、必要に応じた理にかなった配慮です。特に障害者や社会的弱者に対して行われるものです。
理解と配慮は共通する概念です。

『合理的配慮とは、障害者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合、過度な負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な便宜のことである。

障害者権利条約第2条に定義がある「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものである。』(wikipedia)


配慮は、する側・される側双方にとって合理的でなければ長く続きません。
過度に配慮を求めても叶わないし、出来るはずの配慮を拒否されると次から相談も手助けを求めることも出来なくなります。

③家族からの理解は最優先で必要

辛い状況にあるとき、周囲から理解ある言葉をかけてもらえるだけで気持ちが楽になります。それはたまたま入ったお店の店員さんでも、特別仲がいいわけではない会社の同僚でも十分有難いです。
その中でも一番必要とされるのが、家族からの理解です。
何故なら家族から理解されることで生活が安定し、気持ちに余裕が出来て、やるべきことに取り組むことが出来るようになるからです。
逆に家族から辛さを理解されないと、心身を休めるための家が安らぎの場ではなくなります。溜まった疲れやストレスを解消する場が無くなり、気持ちが追い詰められ、孤独感が高まります。

【参考記事】うつ病の辛さを家族に理解してもらうには

2.理解してもらえない患者側の困りごととは


①患者側の困りごとは理解するための手がかり

「家族だから理解しろ」という決めつけや押し付けもまた、家族への無理解と言っていいでしょう。家族だから他人よりは患者本人のことを知っていますが、家族はただ「知っている」だけではありません。一緒に生活していて、何かあれば責任を持ち合う、利害関係がどんな関係よりも強く密接で絡み合っている関係です。一筋縄ではいかないのです。
するっと家族のうつ病を受け容れることが出来れば療養生活の次のステップへ進めますが、ここで躓いてしまう家族も少なくないと思います。

しかし理解できない・したくないから理解しなくていいという問題でもありません。家族のうつ病を受け入れないままだと、支える家族側の生活や心情にも問題を来たします。

なぜ理解できない・受け入れることが出来ないのか、というと、そのための手がかりがないのです。
うつ病の人が家族に訴える症状は、言葉の上では特別なものはほとんどありません。

■起きられない、眠れない
■何もやる気が起きない
■食欲がない
■外へ出たくない

誰でも一度は経験しているものです。もしかしたら家族側も常に感じていることかもしれません。
だから「その程度で?」と思ってしまうかもしれません。辛いのは分かるけどそれはあなただけじゃないからどうにかして乗り越えてよ、と考えてしまう。
しかしうつ病の辛さは、内容は同じでも濃さ・深刻さが病的レベルです。起きられない、というのは、6時にセットした目覚ましの通りには起きられないけど30分後なら起きられる、という「起きられない」ではなく、24時間布団から出られないかも、というレベルの「起きられない」です。
この違いを家族が「そういうことだったのか」と気づくことが必要になります。

②孤独感、疎外感

感情、特にネガティブな感情や辛さを近くにいる人に理解してもらえないのは、疎外感の元です。
自分にとっては非常に辛い・大きな問題なのに、その一面を見ただけの人から「大したことない」と一笑に付されたら、その人との関係が今までどれほど重要なものだったとしても一瞬で崩壊してしまうかもしれません。
一部の人からだけ理解されないなら、まだ逃げ場はあるかもしれません。しかし四方八方から拒絶されたり無理解を見せつけられたら、それは孤独へつながります。
孤独とはそれだけで人の健康を奪います。
人間は他者との繋がりから安心を得ます。何かあったときに一緒にいてくれる人がいる、という実感が心を安定させてくれます。しかし孤独感が高まると、現実には会社の同僚や同居家族、しょっちゅう会う友人や恋人がいたとしても「自分は一人なんだ」と考えて心が安定を失い、うつ病などの心の病を呼び寄せてしまいます。

③自己否定、無力感

近くにいる他者は、自分にとって鏡のようなものです。
例えば自分ではとてもよく似合っていると思っている服を着て出かけたのに、会った相手がそれを褒めてくれなかったり「似合わない」と言って来たら、途端に服に対する価値が下がったような気がします。服だけでなくそれを着て喜んでいた自分のことも否定したくなるでしょう。「似合っている」と思っていた自分の判断などあっという間に消え失せます。
それが辛い感情に対するものならばショックは服の比ではありません。
辛い感情を感じたら、状況が許すならそこから逃げるのが人間です。しかしその選択が出来ないことが多いです。仕事、家事、育児、介護。それ以外の人間関係でも「嫌だから」で放棄出来るほうが少ないです。
だから辛い気持ちを抱えながらも自分なりに必死で踏ん張っている。それなのにその気持ちも努力も事情も否定されれば、自分の全てに意味がないと感じてしまってもおかしくありません。





3.家族の理解を阻む「理想の家族像」


①「家族だから」の言葉の重み

うつ病など精神疾患に限らず、サポートが必要な状態になった人の家族は必ず第三者から「家族なんだから」と言われます。
家族なんだから支えてあげよう、理解してあげよう、あなたが代わりに責任を取ろう、など、続く言葉は様々です。
どれも理屈としては正しいし、家族自身もそうすべきことは頭では分かっています。それが理想的な状態だと知っているからです。
ただし、知っていることと実行出来ることは全く次元が違います。それもまた大人なら誰もが分かっていることなのに、そうした面は吹っ飛ばして投げかけられているように聞こえるから厄介です。
家族が患者本人の一番近くにいることは事実です。しかしすでにお話したように、家族だからこそ一筋縄ではいかない事情や過去がある場合もあります。
理想と現実は違うことを、まずは家族自身が自覚する必要があります。

②うつ病になったときの家族の役割情報が氾濫している

「うつ病 家族」のキーワードでインターネット検索してみると、色んな機関・人が「家族はどうすればいいか」についての情報を発信しています。勿論私もです。
病気になった人のケアに、家族の手助けは欠かせません。特にうつ病など精神疾患の場合は、身体のケアや治療の付き添いをしていればいいだけではありません。絶対に安定することがない本人の心情に寄り添って、それに合わせて家族はかける言葉の内容、タイミングをはかる必要があります。
特に「励ましてはいけない」「決断を迫ってはいけない」というのは、一緒に生活する中では色んな場面で家族の行動を縛ります。やったほうがいいことよりもやってはいけないことのほうが多くて、アドバイスのはずの情報なのに家族側の行動制限の度合いを高める一方になります。
行動や選択肢が限定される中で目の前にいる患者本人は全然回復する様子がない、場合によっては悪化しているようにすら見える。
その息苦しさやジレンマが、家族のうつ病への理解の壁を高くしてしまうことがあります。

③世間の要求>うつ病患者になってしまう

家族がうつ病になったときに真っ先に頭に思い浮かぶのは「私は何をしたらいいのか?」という悩みです。
当然ですよね、身近な家族が精神疾患になった経験がある人など少ないです。そうなる兆候すら見逃してしまいます。何より本人が分かってないのですから無理ありません。
何をしたらいいか分からない場合、先ず調べたり学んだり相談したりしますよね。これも普通の行動です。
色んな人の話を聞いたり情報を集める中で、家族の中に「うつ病患者を支える家族はこうすべきだ」という型が出来上がってしまいます。先ほどお話した「理想の家族像」と近いかもしれません。
同時に患者の主治医や職場の上司などから色んな役割を期待されます。本来なら一番優先しなければいけないうつ病患者本人よりも、世間から求められるものを優先させてしまうようになります。
世間からの要求を充たすために自分一人で何とかしようと頑張り過ぎて、余裕が無くなり疲れ切ってしまうと、病気本人への配慮や理解をする余裕が無くなってしまうのです。

4.受け入れるために家族が出来ること


①理想の家族を目指すことを諦める

未知の困難に対してほぼ一人で立ち向かわなければいけない家族が、同時にうつ病への理解を高めるためには何が出来るでしょうか。
まず1つ目は、「理想の家族を目指さない」ことです。
先ほどお話したように、自分(家族)は何をしたらいいのか、を考えるための行動が、知らないうちに「こうあるべき」という理想の家族(ケアラー)像を作り上げます。更に周囲からも「家族なんだからこうあるべき」という要求や期待を突き付けられます。
それらは確かに「なれたらいい」状態かもしれませんが、一人で、家族だけで目指さなければいけないものでしょうか。絶対に違います。
そして一般論や周囲が求める理想像が、自分達家族にとっての理想かどうか、というのも違うはずです。
「こうあらねばならない」理想像が出来上がってしまっているなら、それを放棄しましょう。

②自分自身の余裕を作る

共感、というキーワードも最近あちこちで見かけます。
コミュニケーションや人間関係を構築するうえで非常に重要な概念で、姿勢です。
しかし共感とは、実は非常に難易度が高い向き合い方です。
自分の事情や考えは一旦横へ置いておいて、あたかも相手その人になったつもりでその人の感情や思考、状況を疑似体験することが共感です。
「私も同じ経験がある」と過去を引っ張り出すのは、同調・同意であって共感とは少し違います。同じ経験をしたからと言って同じ思考や感情を抱くとは限らないからです。
うつ病になった人の家族がしなくてはいけない理解とは、この共感が必須になります。
共感は、する側の心身が安定して余裕がある状態でなければ難しいです。
自分も喉が渇いて辛くてたまらないのに、目の前にいる同じ状態の人のために水を探してこれるでしょうか。1回ならできるかもしれません。しかし家族はそれを永続しなければいけないのです。まず先に自分の渇きを最低レベルでも満たしておく必要があります。
家族のうつ病を理解し受け入れなければいけないけど出来ない、という時、まずは自分自身の心身の安定と余裕がないのではないか、と疑ってみましょう。

③正しく必要な情報を得る

家族がうつ病患者を支えるためにすべきことを学ぶ中で、色んな情報と接します。
特に現代は情報過多社会と言われます。現代人が1日に接する情報量は、平安時代の人の一生分とも言われます。何もしようとしなくても、目の前にはテレビや広告用のモニターがあり、手元にはパソコンかスマホがあります。勝手に情報を発信してきます。

うつ病患者家族は、情報に飢えています。しかし何でもいいわけではありません。うつ病にとって何が良いのか、更には自分達家族が実行出来る・有益な情報が欲しいのです。
しかし溢れかえる情報の中で、それを選別しないまま取り入れてしまうと、家族側の「やることリスト」はあっという間に一杯になってしまいます。
真面目な家族ほどそのリストに従って頑張るでしょう。ただ、内容を吟味しないまま手当たり次第に頑張ったところで効果はありません。頑張っても効果がないと、どこかで頑張ることが出来ない時期がやってきます。

まずは主治医に相談しましょう。余程患者本人と合わない場合を除いて、一番頼りになるのは主治医です。盲目的に従うのではなく、信頼関係を築くことを目指しましょう。
それによって「何が自分達にとって有益な情報なのか」を判別する軸を作ることが出来ます。

【参考ブログ】≪社会保障≫うつ病で知っておきたい社会保障3つ

5.受け入れるまでの葛藤が役に立つ日が来る


①今の家族個人を理解することに繋がる

「今」とは、今現在という意味です。家族だからお互いを知っていて当たり前と思ってしまうこともまた、無理解状態に近づいてしまいます。
人の印象は、出会った当初にほぼ形づくられます。最初の6秒、と言う話もありますが、ほぼ大体最初の印象が大事、ということです。
家族、夫婦であってもそれは同じです。最初に「この人はこういう人だ」という種類分けをすることで、その後の煩雑なコミュニケーションや状況対処の効率が上がります。
そしてうつ病になることで、「この人はこういう人だ」と思っていた人物像は崩壊します。ほぼ別人になったと言ってもいいかもしれません。

ただ、病気にならなかったとしても、人は日々刻々変化しています。家族は近くにい過ぎて気づかないだけです。
病気になり、急速に大きく変化した当人を受け入れることは、ずっと続いていた変化分も含めて受け入れることに繋がります。
前は○○だったのに、今はこういう考え方をするようになったんだ、という発見は、家族だからこそできることです。

②支える自分の強みや弱みを知る機会になる

逆のことが家族側にも起こります。
理解して支えてあげなくちゃいけない、と分かっているけどどうしてもできない、という葛藤は、家族自身が一番辛いです。
こうすべき、という理想像にどうしてもなれない、自分は無力だ、力不足だ、と感じてしまうかもしれません。それでも逃げられないのが家族です。

その狭間で行ったり来たりする中で、家族は無自覚に自己分析を進めていきます。

■自分が出来ること/出来ないこと
■自分が得意なこと/苦手なこと
■自分が好きなこと/嫌いなこと
■過去に出来たこと/失敗したこと

に気づいたり思い出したりします。
この作業が進むことで、少しずつ自分への信頼を取り戻していきます。出来ることを生活の中で役立てて良い結果が生まれたら、それは成功体験です。実は苦手だったことを忘れていたりしますが、思い出せば他者に頼ることも考えるようになるでしょう。

家族もまた「今の自分」を理解するきっかけになります。

③全般的に視野が広がる

家族がうつ病になった、という体験は、それまでの価値観や未来計画をひっくり返すようなパラダイム(特定の時代や文化において広く受け入れられている思考の枠組みや理論)の転換を引き起こします。
今まで通用していた常識ややり方が全然通用しなくなって、新しいやり方や価値観を模索しなければ普通に生活することすら困難になります。
最近アニメや漫画で異世界転生モノが人気ですが、それに近いくらいの転換を経験するでしょう。
嫌でも視野が広がり、価値観が多様化し、固定観念は崩壊します。
その体験は、家族内の問題に限らず、今後の人生の幅を広げてくれます。

6.家族のうつ病を受け入れるために今すぐ出来ること


①セルフケア

他者の変化を受け入れるには、自分自身に余裕が必要であることは先にお話ししました。
では余裕を作るために何をしたらいいか、ですよね。
以下の3つから取り組みましょう。

■睡眠時間を確保(7時間)→眠れるようになったら質も高める
■自律神経ケア→意識してリラックス(副交感神経の促進)を図る
■趣味の時間を持つ→無条件に楽しめる活動はそれだけで心のケアになります

一旦うつ病家族のケアは放棄してもいいと思います。一緒に生活していればそれだけで最低限のケアは出来ているのですから、まずは自分自身のケアを優先させましょう。

②通院同行して主治医の見解を聞く

患者本人の同意が必要ですが、可能な限り通院には同行しましょう。そして一緒に診察室に入って、主治医とのやり取りを聞きましょう。
先ほどお話した「自分達に有益な情報かどうか、を判断するための軸」を立てるためにも、主治医との信頼関係を構築するためにも是非お願いしたい取り組みです。
患者が一人で通院して、帰ってきてから「どうだった?」と聞くのでも情報を得るだけなら役に立つかもしれませんが、どんな話の流れで、主治医がどんな表情や言い方でそれを口にしたのか、は、その場に一緒に聞いているほうがずっと分かりやすいです。
ずっと一緒に通い続けることは難しいかもしれませんが、最初の3ヶ月くらいは同行出来ると、うつ病への理解は大きく前進するでしょう。

③自分がカウンセリングを受けてみる

家族自身もまた支えられるべき存在です。何故なら家族は、患者本人に一番近い存在ではありますが、病気や福祉については素人だからです。
主治医は患者の病気と治療方法については詳しいですが、家族側の辛さの軽減は専門外です。家族は家族の目線に立って、辛さに共感し、一緒に方向性を考えてくれる専門家が必要です。
自分(家族)にも見方になってくれる専門家がいる、という安心感は、心の余裕に繋がり、うつ病理解も促進されます。

7.まとめ


①うつ病の人に必要なのは、周囲からの理解:無理解から病気になり、家族から理解されないことでより悪化する
②理解してもらえない患者側の困りごと:孤独感・疎外感、自己否定・無力感
③家族の理解を阻む「理想の家族像」:周囲からの要請が患者本人への配慮を上回ってしまう
④受け入れるために家族が出来ること:理想像を捨てる、自分自身の余裕を作る、情報を精査する
⑤受け入れるまでの葛藤が役に立つ:本人への理解、自己分析、視野拡大
⑥家族がうつ病を受け入れるために出来ること:セルフケア、通院同行、カウンセリング

家族のうつ病を受け入れたり理解することが難しい最大の理由は、家族側を支援する仕組みがほぼないことです。
受け入れたらそこで終わりではありません。やるべきことは山積していて、その全てが自動的に実行出来るものではありません。
家族にはすぐにできない取組みや役割もあります。しかしそれを出来るようにするためにどうすればいいか、を支援してくれる人や仕組みが必要です。
家族がうつ病になったことを受け入れることが出来ない、理解して配慮することが出来なくて悩んでいるなら、まずは家族自身が心身を安定させ、いざという時支えてくれる相談先・専門家を作りましょう。


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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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