期待に応えようとしすぎる心理
~自責感からの解放と新たな視点の見つけ方~
忘れたいけど忘れられない過去は、いつまでも自分を苦しめます。
当時への後悔だけでなく、いつまでも囚われている自分への自責感も高まります。
過去の事実そのものは変えられません。しかし後から解釈し直すことは可能です。
過去の事実を捉え直し、当時の自分の感情に寄り添い、思考プロセスを認識することで過去の持つ意味を変える方法をご紹介します。
1.過去を引きずってしまう理由
①「忘れたい」が強すぎて、振り返りが出来ていない
振り返る作業は、一から起きたことを辿り直すことです。
それは一度見た映画をもう一度見るようなものです。
しかも自分が二度と見たくないような場面があると分かっていて見返すことになります。
どうしてもやらなければいけない理由がなければ、避け続けてしまっても仕方がありません。
しかし振り返りをしないことで、見落としていた事実に気づかず、事実誤認したまま間違った形で記憶に残ってしまい、そのせいで「忘れられない嫌な記憶」になっている、という可能性もあります。
②事実より感情が優先されて記憶に残っている
忘れたいのに忘れられない記憶とは、強烈なネガティブ感情とセットです。
不安、恐怖、怒り、恥、悔しさ、自己否定感など。
出来るなら感じたくない感情ですし、思い出すたびに再体験してしまいます。
その感情と事実がごちゃまぜになって、冷静に振り返ることが出来なくなってしまっています。
③「良い経験になった」と思い込もうとし過ぎている
失敗や苦い体験は「勉強」「学び」の素だ、ともいわれますが、全ての苦い体験に学びが含まれるわけでもなく、万人に適用される法則でもありません。
乗り越えるためには「辛かったけど体験して良かった、と思わなくてはいけない」と考えてしまうと、辛い気持ちが置き去りになるため、拒否感が拭えません。
やり残した宿題のように、自分の中に「触れたくないもの」として残り続けてしまいます。
2.過去の捉え直しのステップ
①リフレーミングで新たな視点を得る
「リフレーミング」とは、問題や状況を新しい視点や枠組みで捉え直すことです。
新しい視点とは、例えば三角錐を横からしかみていなかった(▲)けど、上から見たら■だった、というイメージですね。
新たな視点を得るということは、視野が広がる、ということです。
視野が広がると違うものが目に入ります。
違う要素が見えると感じ方が変わってきます。
感じ方が変わることで、選択肢を増やすことが出来ます。
選択肢が増えると自由度が上がります。
②セルフコンパッションで苦しんでいる自分を労わる
忘れたいけど忘れられない過去は強いネガティブ感情とセットです。
ネガティブ感情へのケアをしないまま記憶だけ消そうとしても難しいです。
記憶を消すことが難しいなら、ネガティブな感情をケアしましょう。
その時役に立つのが「セルフコンパッション」です。
セルフコンパッションとは、自分自身に対する優しさ・思いやりのことです。
例えば大事な家族、パートナー、友人を労わるように自分に優しくし、辛い気持ちに寄り添い、傷がいえるのを見守る作業です。
自分自身を受け入れ、理解し、自分の弱点や失敗に対して批判や非難を向けません。
どんなネガティブ感情であれ、そう感じてしまわざるを得なかった、自分にしか分からない事情や理由があるはずです。
その状況にある自分に理解を示し、苦しんでいる状態を認めてあげましょう。
③メタ認知で自分の思考パターンを知り、今後に役立てる
出来事が起きた時に、それに対して自分が何を感じ、どう考え、それによってどんな行動へつながるのか、には、いくつかパターンがあります。
自分の考え方を知り、理解のプロセスを知ること、つまり「自分が何を知っているか、どう学習して解決するか」を自分で認識することです。
忘れたい過去を振り返り、リフレーミングで新しい視点を得て、セルフコンパッションでネガティブ感情に寄り添う中で、どんなことに対して、どんな状況だと自分のどんな感情や思考が呼び起こされるか、を知ることが出来ます。
最初は「○○な状態、○○さんと一緒の作業、○○な場所は避けたほうがいい」というような回避行動に現れるかもしれません。
しかし全ての条件を回避することは難しいですし、忘れられない記憶を忘れようと藻掻くののと同じくらいデメリットが大きいです。
すると、回避する以外の対処方法を考えるようになります。
この時に、自然と自分の強みや得意を活かす対処方法を考えるようになります。
避けがたい苦手な状況に対し、自分の強みを使って対処できるようになります。
3.【事例】友人との会話の中で笑われたことにキレてしまった過去に囚われ続けている
事例を使って「忘れたいのに忘れられない過去を乗り越える」過程を見ていきましょう。
①過去の事実を辿り直す
まずは「何が起きていたか」を出来るだけ事実ベースで辿り直しましょう。
○月○日(土) ○時から、友人A・B・Cと私の4人でランチを取っていた
■私は仕事が忙しかった時期で、この日も少し朝寝坊して慌てて出かけた
■疲れていたから正直家に居たかったが、3人とは久しぶりに会うのでキャンセルもしたくなかった
■3人の楽しそうな会話を、自分も最初のうちは楽しく聞いていた
■しばらくすると3人との会話より仕事のことを考えるようになっていた
■途中で学生時代の思い出話に話題が変わった
■Aが「そういえば」と私が昔言った言葉を思い出した
■自分が言ったことに興味がなかったので話半分で聞いていた
■BとCがはじけるように笑って私を見た
■よく分からないけれど、自分が笑われたことは分かった
■先日会社でミスをして同僚に笑われたことを思い出して、咄嗟に怒りがわいてきた
■友人たちに「笑うことないでしょ!」と怒鳴って、そのまま帰ってきてしまった
■その後メールで謝罪し和解したが、今でも気まずくて3人には会いづらいままでいる
②リフレーミングする
振り返りをした内容から、自分が見落としていた要素が無いか見返してみましょう。
例えば
■しばらくすると3人との会話より仕事のことを考えるようになっていた
⇒話の流れを把握できていなかった可能性があります。
■自分が言ったことに興味がなかったので話半分で聞いていた
⇒自分の言ったこととそれまでの会話にどういう繋がりがあるのか分かっていなかった。
■よく分からないけれど、自分が笑われたことは分かった
⇒友人の言った言葉ではなく、「笑った」ということだけにフォーカスしている
■先日会社でミスをして同僚に笑われたことを思い出して、咄嗟に怒りがわいてきた
⇒会社での出来事と友人たちは無関係なのに、混同してしまった
のようにピックアップすることが出来ます。
③セルフコンパッションで自分を労わる
同様に、自分のネガティブ感情に寄り添うために活用出来る要素をピックアップしましょう。
■疲れていたから正直家に居たかったが、3人とは久しぶりに会うのでキャンセルもしたくなかった
⇒親しい友人との久しぶりのランチすら億劫に感じるほど、この時の自分は疲れていた
■しばらくすると3人との会話より仕事のことを考えるようになっていた
⇒楽しい会話が上の空になるくらい、この時の自分は仕事のことで頭がいっぱいだった
■その後メールで謝罪し和解したが、今でも気まずくて3人には会いづらいままでいる
⇒友人たちに申し訳ないのも当然あるし、3人に会えなくなって自分も寂しい、辛い、出来ればまた前みたいに会って一緒に過ごしたい
ネガティブ感情に寄り添うことで、自分だけを非難・否定する気持ちが和らいでいきます。
そして問題の本質は違うところ(過労、仕事のプレッシャー)にあったことに気づくことが出来ます。
④メタ認知で自分のパターンを知る
自分がどんな反応をしたのか、をピックアップします。
■先日会社でミスをして同僚に笑われたことを思い出して、咄嗟に怒りがわいてきた
⇒会社でのことも併せて考えると「笑われる」という状況が「怒り」のトリガーになるらしい
■友人たちに「笑うことないでしょ!」と怒鳴って、そのまま帰ってきてしまった
⇒「笑わないで欲しい」というのは、本当は友人達ではなく会社の同僚に言いたかったことかもしれない(気安さもあってつい友人に向かって言ってしまった?)
4.過去の捉え直しの結果、得られるもの3つ
①忘れたかった過去への執着が弱まる
この場合の執着とは「忘れなければいけない、思い出してはいけない、考えてはいけない」という自分に対する強制です。
忘れようと頑張ることと、忘れないようにしようと頑張ることは同じ行為です。
なぜなら「何を?」を考えた時、その記憶が必ず呼び起こされるからです。
忘れなければ、と思うのは、そこに傷ついてこだわっている自分がいるからです。
そのこだわりが弱まれば、「忘れられたらラッキーだけど、別にどっちでもいいや」というレベルにまで格下げされます。
すると、気が付けば思い出すことが減っていきます。
②自分の認識だけが全てではないと気づく
主にリフレーミングの効果ですが、新しい視点を得られることで、自分が感じたり考えたりしたことだけが絶対唯一ではないことに気が付けます。
事例で考えると、「■BとCがはじけるように笑って私を見た」が、この時の自分は「馬鹿にされた」と感じて怒ってしまいましたが、友人たちは4人で共有している楽しい思い出、特に自分がメインとなっている思い出について話していたのかもしれません。
それは「自分を馬鹿にしている」とは反対の「自分との思い出を大事にしてくれている」ことによる笑いかもしれません。
③本当はどうしたいのか、に気づく契機になる
ネガティブ感情や、それを引き起こす要素を避けたいと考えるのは人として当然の反応です。
しかし避けたいもの以上に「得たいもの」「目指したいもの」を持っていることがあります。
忘れてしまいたいほど辛い過去とあえて向き合うことでネガティブ感情を受け容れるプロセスを経てでもなお手に入れたいものは何でしょうか。
事例で考えれば「友人達との楽しい時間」です。もっと言えば友人達との関係そのものです。
疲れ切っていたとはいえ自分が短気を起こして楽しい時間を壊してしまった。また改めて会うためにはもう一度その時のことを謝って、何故そんな対応をしてしまったのかを説明しなければいけません。非常にストレスを感じる作業です。
それでもなお守りたいと思う友人たちがいることは、忘れたい過去があること以上に幸せな状況ですよね。
5.過去の捉え直しでの注意点
①「どちらもOK」である
リフレーミングとは「ひっくり返すこと」と言われることもありますが、ひっくり返してしまうと、それまで表だった(正しいと思っていた)ものが裏(間違い)になってしまう可能性があります。
リフレーミングの効果は、正誤をひっくり返すことではありません。視野と価値観を広げることです。
過去を捉え直したことで得た新しい価値観だけが正しいのではありません。今まで感じていたものもまた一つの選択肢です。
②無理に「良い経験だった」と思う必要はない
失敗は学びの母、となる場合だけではありません。ただ辛いだけで何の役にも立たない経験も、実はかなりたくさんあります。
役に立たない経験から無理に学びを得ようとしても、何も得られず、逆に疲れるだけです。
学びは後から勝手に得られます。学びだと思えるものが無ければ乗り越えられないわけではありません。
③PTSD(心的外傷後ストレス障害)は医師の指導に従う
忘れたいけど忘れられないほど辛い体験の中に、PTSDを発症するほどの甚大な体験もあります。
震災、犯罪、事件など、何かしらの被害を受けたことにより1ヶ月以上フラッシュバックや過覚醒、過剰な回避行動が続く場合は速やかに専門医を受診してください。
6.過去の捉え直しに「ジャーナリング」を活用しよう
①ジャーナリングのやり方
ジャーナリングとは、思ったことに「良い・悪い」の判断を一切せず、そのまま書き続ける作業で、「書く瞑想」とも呼ばれています。
考えずに手を動かし続けることで、無自覚な自分の感情や考えに気づくことが出来、習慣化することで自己認知が変化し、レジリエンス(回復力)を育てることができます。
やり方は以下の通りです
1.集中・リラックスできる場所へ行きましょう
2.ノート、ペンを目の前に置きましょう
3.ジャーナリングのテーマ(何でもOK)を決めましょう
4.タイマーをセットします。(10分~20分程度で好みで決めましょう)
5.スタート! ひたすらペンを走らせます
6.時間終了、お疲れ様でした。
②ジャーナリングのルール
ジャーナリングにはいくつかルールがあります。効果を高めるために必ず守ってください。
1.決められた時間はずっと書き続ける
2.終わった後、他人に見せない
3.感じたことをそのまま書く。文法も構成も順序も気にしない
4.誤字脱字も直さない
③ジャーナリングの効果
以下のような効果が期待できます。
1.気分がすっきりする
2.自分に自信を持てる
3.心身が健康になる
4.問題点が見つかる
5.目標が見つかる
6.レジリエンス(回復力)が高まる
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7.まとめ
■過去は捉え直しで変わる
■捉え直しのステップは、リフレーミング→セルフコンパッション→メタ認知
■事例で見る「過去の捉え直し」
■過去の捉え直しで得られるもの3点
■過去の捉え直しを行う時の注意点3つ
■ジャーナリングをやってみよう
過去に起きたことは変えられません。むしろ時間が経つと自分の中での解釈が変わり、事実が歪んでしまうこともあります。
また、自分自身が成長したことで当時の自分の拙さを責めてしまうことすらあります。
過去の事実を変えよう・忘れようとするのではなく、その時の事実をおさらいし、当時の自分がその時出来ることをやり切ったことを思い出しましょう。
振り返ることで自分の解釈が変化すれば「忘れたいのに忘れられない」というほどの重みが無くなっていきます。
「どっちでもいいか」と思えた時が「乗り越えられた瞬間」です。
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