ケアラーに役立つピグマリオン効果
周囲、特に家族や職場にメンタルが不調そうに見える人がいると、心配だし気になります。
しかし具体的に自分に何が出来るのかが分からず悩んでしまい、何も出来ないまま時間だけが経ってしまうことが多いでしょう。
メンタル不調を来たしている人は、周囲に何を期待しているのでしょうか。それを知ることで自分の役割が分かってきます。
メンタル不調の人との接し方、家族や職場関係者に出来ることについてまとめました。
1.メンタル不調当事者の要望
どんな症状か、元々どういう性格の人か、頼れる相手との関係性などから要望は百人百様だと思います。
その中から代表的なものを挙げてみます。
①「不調を受け入れてほしい、否定しないでほしい」
メンタル不調は基本的に他人の目には分かりません。傍から見てわかるほどであればそれだけ状態が良くない、と考えてもいいかもしれません。
目に見えない→実情が分かりづらい→もしかしたら気分が落ち込んでいるだけでは
と想像してしまうと、つい励ましたり「気のせいだよ」と言ってしまったりします。
しかし不調者にとっては「気のせい」ではありません。リアルに苦しい。
気のせいと言われると、励まされているというより否定された、と思って更に辛くなってしまいます。
②出来ていることを褒めてほしい
メンタル不調になるとあらゆることへのモチベーションが激減します。
仕事や勉強が出来ないなんて当たり前で、朝起きることも辛いし寝ることも辛い。食べたいものも思い浮かびません。
その状態でもなんとか頑張って普段通りの日常を送れているとしたら、それはすごいことなのです。
③好きに過ごさせてほしい
メンタル不調に陥る人は、何かしらの無理を重ねてきている人が多いです。したいことを我慢したり、言いたいことを堪えたり、やりたくないことを背負い込んだり。
したがって、頑張るのも休むのも自由にさせてほしい、と考える人が多いです。休養が必要だとしても、その休み方も強制されたくありません。
自由な過ごし方を見守りましょう。
④プレッシャーをかけないでほしい
早く元気になりたい、と考えているのは当事者が一番です。
しかし周囲から「早く元気になってね」と言われると、それが励ましの意味を込めたものであっても、当事者には「早く元気にならなければいけない」という期限付きのプレッシャーに聞こえます。
メンタル不調は、病名がつかないとしても何かしらそれに近い状態です。病気がいつ回復するかは誰にもわかりません。
2.家族が出来ること
メンタル不調者にとって家族は一番身近な存在です。そして一番リラックスできる場所「家」を共有する人たちです。家族がどういう接し方をするかが、不調者の状態に大きく影響します。
①「休んでいいんだよ」と伝える
家に居れば休んだりリラックスするのは当然ですが、あえて「休んでていいよ」と言葉にして伝えましょう。
元気になるまではのんびり本人のペースで過ごすことこそがその人の役割だと思っておきましょう。
②「話したくなったら声かけてね」
メンタル不調の原因に具体的な悩み事がある場合、それを誰かに話すだけでも良い効果が期待できます。
なぜなら、自分の気持ちや出来事、考えを誰かに聞いてもらえることで孤独感が解消され、話すことで思考と感情が整理でき、自分が本当は何に困っていたのか、に気づくことが出来るからです。
この時の家族の姿勢は「見守り」と「傾聴」です。
話してくれるのを待つ間は「見守り」、話を聞いている間は「傾聴」の姿勢を守りましょう。
③衣食住を整える
何よりも健康的に生活できることが一番大事です。
メンタル不調の人は、食べることも寝ることも身支度を整えることにも気を配る余裕やエネルギーが無くなりますので、最低限の衣食住の準備をすることは家族の役目になります。
3.職場関係者が出来ること
①「相談に乗るよ」
仕事によるストレスや悩みは、同じ環境を共有している職場関係者のほうが相談に乗りやすいです。話を聞くだけでなく、具体的に困っていることがあるときに本人に代わって必要な人や部署に働きかけることも可能です。
しかし無理やり聞き出そうとしても話してくれるとは限りません。
相談する準備(心づもり)が出来たら受け入れるよ、という意思を伝えておきましょう。
②勤怠の確認
仕事がメンタル不調の原因だった場合、勤怠に何か異常が出ている事が多いです。
- 残業が増えている
- 休日出勤が続いている
- 遅刻、欠勤が増えている
他にも異動直後だったり、上司が変わったばかりとか、年度替わりでノルマが急に増えた、本人が昇進したばかり、等も考えられますが、その場合もやはり勤怠に変化が起きている可能性があります。
③休職についての説明をする
メンタル不調者の上司に当たる場合は、もしもの場合に備えて自社の休職制度についても説明しておきましょう。大抵は就業規則の中に記載があります。
併せて傷病手当金の制度があることを伝え、収入面でも一定の補償がされていることを知っておいてもらいましょう。
4.周囲にメンタル不調を理解してもらうには
この章はメンタル不調当事者の方に知っておいていただきたい内容です。
メンタル不調はどうしても隠したり我慢したりしがちです。それは自分から訴えることで周囲の迷惑にならないか、要らぬ心配をさせてストレスにならないか、という配慮故であることが多いでしょう。
ですが身近な人に自分の不調を知ってもらうことは、早く回復するため必須です。
ではどのように伝えればいいでしょうか。
以下の3点を心がけてください。
①いつ・どこで・どんな時・何をすると不調になるのか、を伝える
ほぼいつでもずっと、という状態かもしれませんが、自分が特にメンタル不調を自覚しやすい条件はあるでしょうか。
例えば『会社で○○さんと二人で打合せをしようとすると動機がして頭が真っ白になる』という場合。○○さんが悪いかどうかは別として、それが不調回復のカギになるかもしれません。
②一人になる時間・一人でも出来るタスクを作ってもらう
メンタルが不調な時は他者の存在自体がプレッシャーだったりストレスになりがちです。
家でも外でも、一人になるための時間を作る相談をしましょう。
仕事であれば一人で出来る仕事=自分のペースで進められる作業がないかを相談しましょう。
③「死にたい」気持ちは隠さない
普通に健康的に生活していればほぼ感じることが無い「死にたい」という感情をもしも感じた時は、無理に否定しないようにしましょう。
すぐに命を絶ちたいと思っているわけではなくても、「自分は死にたいと思ってしまうほど辛いのだ」と自覚することは大事です。
そして出来れば家族に話しましょう。
死にたい、という願望を話された家族側は、慌てずに気持ちを聞いて、早急に専門医(心療内科、メンタルクリニック、精神科)を受診するよう手配してください。
5.周囲の人がまず最初にやること
メンタルヘルス不調者に対して最初に行う処置を「メンタルヘルス・ファーストエイド」と呼びます。一番近くにいる人がすぐできる対処をしたのち、専門家へつなぐまでの間のことです。
以下の3点を最初にお試しください。
- 批判や批評、アドバイスは不要。本人の話を聞くことに徹する
- 非言語情報(顔の表情、声のトーン、目線、体の動き、頷きなど)から不調者の状態を想像する。併せて不調者と向き合う時には、非言語情報からこちらの状態や心境を察するため、不安を抱かせるような仕草や動作は避ける(例:話を聞きながら違うことをする、言葉と表情が一致しない、など)
- 今出来ていることで十分であることを伝え、それ以上を求めない
メンタル不調者は、頑張って頑張って「現状維持」です。
6.NGワード・行動
以下の言動はメンタル不調者には禁忌ですので気をつけましょう。
①はげまし、説教
「そんなことじゃだめだよ」「気にしすぎだよ」「もっとポジティブに考えようよ」
こうした声かけは、する側は善意から出ているかもしれませんが、不調者にとっては追い打ちをかけられるようなものです。
不調者自身は言われるまでもなくわかっているのです。でも出来ないから苦しんでいる。
他者から言われることで「出来ない自分」に二重に苦しんでしまいます。
②無理やり活動を促す
体を動かしたり環境を変えることは、確かにメンタルに大きく作用します。
しかしそれが良い作用とは限りません。
メンタル不調者にとっては少ないエネルギーを浪費して必要なことが出来なくなって「死にたい」に繋がってしまう可能性すらある行為です。
骨折している人に「散歩して気分転換しようよ」という人はいないでしょう。
メンタル不調も同じです。
③他人と比べて否定する
「他の人だって同じ条件で頑張ってるんだよ」「周りだって辛いんだよ」
という言葉も、メンタル不調者には励ましにならないどころか追い打ちです。
Aさんが頑張っていることと、Bさんが辛くて頑張れないことは何の関係もありません。
安易に他人と比べることは百害あって一利なしです。
7.まとめ
他の人のメンタル不調に気づいてあげられることはとても貴重です。それだけその人のことをちゃんと見ているから気づけるのですから。
しかし接し方一つでその気遣いが違う意味に取られてしまうと、お互いの関係も変化してしまい、当事者の不調も悪化してしまいます。
メンタル不調には一次予防(メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組み)と二次予防(早期発見・早期対処)が重要です。本人が言い出す前に気づいてあげられた、ということは、一次と二次の間くらいですからとても良いタイミングのはずです。
その気付きを活かしましょう。
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