ニューロダイバシティ
認知の歪みとは「思い込み」「思考の癖」「バイアス」等と言い換えることが出来ます。無意識にやってしまっている自分の考え方の中で、特に偏ってしまっているために自分のストレス源になっているような物の見方です。
ほとんどは10通りに分けることが出来ます。
その中で特に「ケアラーを悩ませやすい認知の歪み」と、その対処方法を考えました。
≪認知の歪み 10パターン≫
全か無か思想
一般化のしすぎ
心のフィルター
マイナス化思考
結論の飛躍
拡大解釈&過小評価
感情的決めつけ
すべき思考
レッテル貼り
個人化
(コグラボ)
1.一般化のし過ぎ
「一度自分に起こった失敗や良くない出来事が、この先もずっと繰り返すように思い込んでしまうこと」(コグラボ)
です。
メンタルの病気の症状が表面化するときは、慣れていない人がびっくりしてしまうような状況が起きます。
- 突然「会社に行けない」と言って動けなくなる
- 「死にたい」と口にする
- 見たことが無いような怒り方をする
これらに直接接した人はショックが大きすぎるため強く記憶に残ります。
そして過剰に心配するようになり、「また次も同じことが起きる」と思い込んでしまいます。
2.結論の飛躍
「事実とは異なる悲観的な結論に飛躍してしまう思考」(コグラボ)
です。
家族の気持ちを深読みしすぎたり、不安回避のために先回りしようとして、思考そのものが現実から離れてしまうのです。
家族がうつ病になって自宅療養しているとき、久しぶりに友人から旅行に誘われた。行きたいけれど「きっと行かないで欲しいっていうはずだ」と思い込んで相談せずに断ってしまう。
本人がリハビリ的に動き出そうとした時、その後の疲労とうつ症状悪化を心配して止めてしまう。
どちらもケアラーあるあるですね。
3.拡大解釈&過小評価
「ものごとの悪い面を必要以上に過大にとらえ、良い面を実際より小さくとらえてしまう」(コグラボ)
病気の症状そのものの辛さを体験しているのは本人ですが、同居しているケアラーは二次的に体験しています。
うつ病のせいで気持ちが塞ぐ、食欲もない、毎日が楽しくない。だから生きているのが辛い。
気の毒だと思うし何とかしてあげたい。けれどその状態の人と24時間一緒にいる疲労は経験してみないと分からないくらい重いものです。
そんな生活が続いていれば、悪いことはほんの少しでも重く、良いことは両手に余るほどでなければ「ある」事すら認められなくなります。
うつ病と言ってもたまには調子が良い時があるでしょう。けれどそれまでの悪い状況に慣れ過ぎて、良い状態すら「異常事態」と捉えてしまいかねません。
4.べき思考
「「〜すべき」「〜をしなければならない」と考えてしまう思考パターン」(コグラボ)
これはケアラーだけでなく病気本人のほうが強く持っている認知の歪みかもしれません。
「~すべき」という考え方そのものは、自分の行動を律することが出来る指標です。だから悪いものではない。
しかし過度に自分を縛るようになると、メンタルヘルスにとって害になります。
ケアラーにとって害になる「べき思考」の最たるものは「私が一人で何とかしなければならない」ではないでしょうか。
病気の人にとって家族が一番頼りになるし、主治医その他関係者より自分を分かってくれる存在でもあります。
そして周囲からも大きな期待を寄せられる。
家族を大事に思い、責任感が強い人ほど「自分が」と思い込み過ぎてしまう。
「自分が」は悪くありません。「自分一人が」と思ってしまうことで、ケアラーへの負担が強まって、共倒れの危険を招いてしまうのです。
5.認知の歪みへの対処法
①一般化のし過ぎは記録で対処する
一度起きたことが二度と起こらない、とは言えませんが、絶対必ず何があってもまた繰り返される、という保証もありません。
何度か似たようなことは繰り返すでしょう。
しかしよく見れば微妙に違っていたり、別の結果のほうが多い可能性もあります。
それに気づくためには記録をつけておくと便利です。
日記がいいと思います。あったことを書くだけでなく、自分のその時の気持ちも書いておけると、後から読み返した時に得るものもあります。
②結論の飛躍は対話でカバー
うつ病などは相手が家族でも会話の回数が減ってしまいます。減るだけでなく、言葉に過剰反応してしまうこともあり、本人もケアラーも会話自体に身構えてしまいがちです。
そのような状況で、普段と違うこと(突発的な外出、予定変更、新奇なこと)を提案すれば、本人がポジティブな反応を返してくれないだろう、と予想してしまうのは仕方がないかもしれません。
しかしその予想自体が過度の思い込みによるものである可能性も否定できません。
伝え方やタイミングに工夫が必要かもしれませんが、まずは対話しましょう。
相手の反応を見ながら、お互いの妥協点を模索しましょう。
それこそ家族にしか出来ない繊細なコミュニケーションです。
③拡大解釈&過小評価は知識で予防
まず正しい知識を身につけることが、必要以上の拡大解釈や過小評価を防ぐためには有効です。
うつ病、発達障害、不安障害、依存症、ひきこもり、統合失調症、双極性障害。
自分の家族がなってみて、初めてどんな病気かを体感するでしょう。
病名ありきで自分の家族を見る必要はありませんが、医学的な情報は膨大な研究結果によって生み出されたものです。そこにはヒントがたくさんあります。
どんな経緯で病気になって、どんな治療法があって、どんな過程を経て回復するか、再発予防には何をするといいのか。
または他の人たちの体験談なども大いに役に立ちます。
④べき思考はソーシャルサポートで抜け出す
ソーシャルサポートとは「社会的支援」のことです。具体的には第三者の手助けです。
上述したようにケアラーが陥りやすい一番の「べき」は「自分一人でなんとかしなければ」です。
しかしケアラー一人で対処しきれるほど、精神疾患・精神障害は簡単なものではありません。
主治医はもちろん、他の同居・別居家族、友人知人、会社の関係者、市町村や福祉の担当者、カウンセラー、トレーナー。
更に家族会などの集まりや、SNS上の繋がり、書籍。
自分以外の視点や考え方、感想、経験談は「べき思考」の強度を下げてくれます。
より身近なご縁がある人からは手伝いを申し出てもらえるかもしれない。
それでどれくらい楽になるか、というより、そうしてくれる人がいる、という気づきが「私一人で」を和らげてくれます。
6.ケアラーも一緒に治っていく
家族がメンタルな問題を抱えてしまうのは辛いことですが、ケアからは逃れられません。
自分がどうにかしなければ、とか、自分のせいで悪化するのでは、と考えすぎるのはどちらも歪んでしまった認知によって生まれた思考です。
本人と一緒に苦しんでいるなら、ケアラーも一緒に治っていくことを目指しましょう。
ケアラーもケアを必要とする存在なのです。
認知の歪みがケアラー生活によるものならば、歪みを和らげることでケアラーとしてのストレスも軽減していくでしょう。