嫌なことを忘れたい

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:心の保ち方


嫌なこと・苦しいこと・思い出したくないような出来事は、人それぞれたくさんあると思います。
忘れたくても忘れられない、忘れられず拘る自分が悪いんだろうか……、と自己評価にまで影響してしまう。

忘れられない嫌なことにはどう対処すればいい[/字]でしょうか。

1.なぜ「嫌だ」と感じるのか

毎日いろんな体験をしたり感情が湧いては消えていくと思います。
1日に何個経験したか数えろ、と言われても無理なくらい、本当にたくさん。

その全てを「忘れられない」ということはないはずです。
[太字]ある特定の体験
が、心と頭にこびりついて離れない。

また、同じ体験を一緒にしても、いつまでも考え続けてしまう人とそうでない人がいます。
その違いは、嫌なことの過去の経験と、その当時の状況(文脈)によって生まれます。

例えば駅の階段を上から下まで転げ落ちた経験があるAさんは、その時感じた痛みや恥ずかしさ、周囲からの目線(驚き、心配、嘲笑)などすべて覚えていて、階段を下りるときには殊の外慎重になるでしょう。
しかしそうした経験がないBさんは階段への警戒心が薄いため、スマホを操作しながらでも降りることが出来ます。
Aさん同様階段から転げ落ちた経験のあるCさんは、その時に両親と一緒にいたためすぐに駆け寄って心配し、周りを囲んでくれたおかげで周囲の目から庇ってもらったことで、Aさんほど辛い記憶としては残っていなかったりします。


自分がどうしても忘れられない嫌なことは、どんな時・どんな状況で・誰といて・何をしている時に起きたことなのでしょうか。

2.嫌なことは常に避けたくなる

忘れられないほど嫌な体験をしたら、もう二度と同じことは経験したくないと考えるのが普通です。
上記の階段の例では、階段自体を避けようとしたり、人に笑われたくない、と思ってしまい、結果として家から一歩も出られなくなってしまうかもしれません。家の中に階段があれば、2階に行けない・2階から降りれない、となる可能性もあるでしょう。

嫌な体験から、それに結び付く要素や条件を避けようとするのは「学習効果」によるものです。
太古の昔、人間が情報を得ようとすれば、それは自分の五感だけが頼りでした。だから一度でも大型獣に襲われかけたら、一人で茂みの奥深くに行くことは出来なくなるでしょう。五感と記憶が結びついて「一人で茂みの中に入っていくと恐ろしいことが起きる」という情報が脳に刻み込まれます。それは命を守るためにとても有効な能力と判断でした。

ですが現代では、五感に頼らなくても身を守る方法はいくらでもあります。しかし学習能力はそれほど衰えていません。衰えるどころか多様化した社会に対応するかのように、あらゆる体験を元に「過学習」していることすらあります。

嫌なことを忘れたい・二度と体験したくない、と感じるのは人間の基本的な仕組みから言えば当たり前のことなのです。

3.嫌なことは忘れられない

嫌なことを忘れられずずっと繰り返し思い出し続けるのは非常に苦痛です。
ですが特別嫌なことは、経験としての情報だけでなく、当時の感情と結びついて心と頭にこびりついています。そう簡単に消えてくれるものではありません。
それでも無理に忘れよう・考えないようにしよう、とすると、お酒やギャンブル、薬物、セックスなどに依存したり、引きこもってしまって外へ出られなくなるなど、自分にとって大きな損失を招く手段に頼ることになりかねません。

「嫌なことも忘れられる」と考えるから、必死になって忘れようとしてしまうのではないでしょうか。

いつまでも忘れられず苦しめられるような記憶は、もう忘れることは出来ない、と諦めましょう。
諦めて、その体験が持つ意味を変えることで「苦しみから解放される」と考えるほうが近道です。

4.嫌なことの意味を変える

嫌なことの意味を変える方法はいくつかあります。

まず1つ目は「言葉から意味を抜く」方法です。
言葉って、書くのも話すのも聞くのも記憶するのも全部「文字」ですよね。
文字そのものに、良いも悪いもありません。
意味を自分が与えてしまっているのです。
例えば私は牛乳が嫌いなので、「牛乳」という字を見ると「うわっ……」ってなります。
でも牛乳が好きな人は「あとで飲もう!」と楽しい気分になるでしょう。
例えば「階段から落ちた」ことで恥ずかしい思いをしたことに苦しめられているなら、「階段から落ちた」という言葉を歌にしてみるのはどうでしょう。
例えばサザエさんの主題歌。
『お魚くわえたドラ猫 おっかけて』⇒『階段上から下まで 落ちちゃった』みたいに。
一度ではなく何度も繰り返してみましょう。

また、嫌なことを思い出す場面の色を変えて想像してみるのもいいでしょう。
嫌なこととは大抵暗く重くどんよりとしたイメージで脳内再生されると思います。黒、茶、グレーとか。それをピンク・黄色・パステルカラーで思い出してみてはどうでしょうか。

または嫌なことから生まれた新しい知識や習慣を高く評価するのも効果があります。
階段から転げ落ちた経験から、『階段を使うときは足元に注意する、絶対によそ見しない、考え事をしたりしない』という教訓が生まれたとします。
そのおかげで、今問題になっている歩きスマホをすることも無く、他の人が不注意な動きをしていても避けることが出来、階段を使うときだけはマインドフルになれる、ともいえますよね。
または他の人が自分と同じような事故に遭っていたら、その人の負担にならない形で救護することが出来るかもしれません。

忘れたいほど嫌なことは、忘れようとするよりも、意味を変えてしまうほうが近道なのです。

5.まとめ

  1. 特定の体験を「嫌なこと」と分類するのは人それぞれ違う
  2. 嫌なことを避けよう・忘れようと考えるのは当然の仕組み
  3. 嫌なことを忘れようとするのは逆にデメリットが大きい
  4. 嫌なことは意味を変える努力をするほうが近道

そして一番大事なのは、嫌な過去の経験を思い出している自分の苦しみを労わることです。理由はなんであれ、苦しい気持ちを自分自身まで否定したり卑下してしまっては、苦しみは強く重くなるばかりです。

嫌なことは、それを思い出すことで苦しむ自分を労わって慰める、そして落ち着いたら意味を変えるための工夫をしてみましょう。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

精神障害者とケアする人を支えるライフカウンセラー

西岡惠美子プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼