甘える力 -頼れない大人へー

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:心が辛くなったとき

甘える力 -頼れない大人へー
周囲を見渡すと、頑張っていない人のほうが少ないです。
妻として、夫として、親として、会社員として。老親を支える子として。他にももっとたくさん。
山ほどの「役割」を抱える中で、頑張らないわけにはいかない毎日ですよね。

そうした人は「甘える力」が弱い傾向があります。
甘える、とは何でしょうか。

1.「甘え」とは

甘える、とは

①かわいがってもらおうとして、まとわりついたり物をねだったりする。甘ったれる。「子供が親に―・える」
②相手の好意に遠慮なくよりかかる。また、なれ親しんでわがままに振る舞う。甘ったれる。「お言葉に―・えてお借りします」

のような意味があります。子どもなどが誰かに何かをやってもらったり、本当なら自分が出来ることを他人にお願いするような状況です。
悪いこと、とまでは言わないけれど、大人としてはあまり好ましい状態ではない、という印象ですね。

2.主体性のグラデーション

「甘える」⇔「甘えない」の状態には、「主体性」のグラデーションがあるのでは、と思います。
主体性のグラデーション
主体性20:依存する…自分でやろう、という気持ちがほとんどない状態ですね。ただ、「こうなったらいいなあ」くらいの意思はあります。

主体性50:頼る…こうなったらいいな、という希望はあるものの、自分は「従」です。出来ればあまり動きたくないけど、お手伝いならやるよ、くらい。

主体性100:甘える…方向性は自分でしっかり持っています。一人で全部やるには気力や体力が不十分な状態で、それでもやらなければいけないときに「手伝うよ」と言ってくれた人に対して自分の代理をお願いする状態です。
お願いしていますが、自分が出来ない行動を補ってもらうだけなので、責任を取るのは自分です。

主体性120:相談する…やる気は十分ありますが、一人で考えても答えが出ない・分からない・迷ってしまう時。第三者から意見をもらいたい状況です。

主体性150:独力…やる気も体力も知識も十分、やり方や手順もわかっているので一人で全てやり通します。他者の力は必要としていません。

多くの場で大人に求められるのは「相談する(主体性120)」レベルではないでしょうか。
組織や集団の中で動いているのに相談すらしないで一人でどんどん進められてしまうのも困ります。
相談したほうがいい場面でそれが出来ないと、本人も不安や重圧を感じてストレス化してしまいます。

3.大人が「甘える」とは

「甘え」については土居健郎先生の名著がありますので、ご興味があるかたは是非ご一読いただきたいですが、ここでは私が考える「大人が甘える必要性」について述べたいと思います。

小さな子供が大人に甘えるような「甘え方」は、大人には出来ません。
なぜなら、子どもにはスキルも知恵も経験もお金も権限も何もないから、大人に甘えざるを得ないのです。「~~したい」という欲求はあっても、それを実現する術がない。だから代わりに大人にお願いしたり我儘言って叶えてもらう。

大人には、スキルも知恵も経験もお金も権限もある。更にそれに伴って義務も責任もある。
何でもできる(はず、出来ると思われている)から、それに見合う「役割」がある。
周りがみんなそうで、辛い中必死で頑張ってる。もっともっと、と上(?)を目指す。
だから余裕が無くなる。余裕なんて言っていられないくらい頑張る。
そうした中で「甘える」なんて許されない。または甘えてくる人を許せないと考えるようになってしまいます。

実際に言葉や行動で拒絶された経験が無くても、何となく感じてしまう「甘えられない空気」がありますよね。
だからどんなに辛くても「一人で頑張る」ことを強制してしまいます。

結果として、ゆるくて「相談」レベルで、「甘える」のはごく親しい特別な関係だけの特別な行為になってしまいます。
それは、「甘える」とは、子どものそれと混同しているから、ではないでしょうか。

大人が甘えるのは、子どものように何もかもを他人にやってもらうことではないと思います。それは「依存」です。
大人の甘えとは、「少しだけ立ち止まって、背負った荷を下ろす」こと、ではないでしょうか。

4.大人が甘えるための条件

①心理的安全性がある場

心理的安全性とは

「イデア、質問、懸念、または間違いを率直に述べても、罰せられたり屈辱を与えられたりしないという信念」(wikipedia)

のことです。
何か意見を言った時に反論やネガティブ感情をぶつけられたり、責任ばかり求められるような場では思ったことを言えるはずがありません。
「自分が思ったこと、感じたことをそのまま言って大丈夫だ」という風土・空気を感じられる場、である必要があります。

②甘える相手との対等な関係性

ここで言う「対等」とは、役職や続柄は関係ありません。相手が上司だろうと部下だろうと、親でも子でも、人としては対等です。お互いに「人間として尊重しあえる」関係であることがポイントです。
相手との関係を上下でとらえてしまうと、見栄を張って辛さを正直に言えなくなったりします。甘えられる側になる時も同様です。

③自分の許容範囲を理解する

大人だから、リーダーだから、親だから何でもできなくてはいけない、一人でできなくてはいけない、と言うことはありません。
むしろ大人だからこそ、自分のキャパシティを超えた役割やタスクを抱え込んでしまう危険があります。
自分自身がどこまで出来て、それより先は誰かに頼る必要がある、という判断が出来ると、「何を」「誰に」「どれくらい」お願い出来るか、が具体的に見えてきます。
具体化することで、大人が恐れる「甘えすぎ」を回避できます。

5.まずは何から始める?

甘えることが出来ない大人が甘えられるようになるためには、何から始めれば良いでしょうか。

一つは「謙遜」「強がり」を止めることです。
「大丈夫?」「無理しないでね」と言う言葉を、毎日誰かから言われていませんか?
そして「大丈夫!」「無理してないよ」と返事していませんか?
それを止めてみましょう。
もちろん嘘をつくのではなく、その瞬間の本音を反映した返事をしましょう。
「ちょっと無理」「〇〇に困ってる」「ちょっと休みたい」など、その時の自分の心情に合う言葉があるはずです。

二つ目は「他人の真似をする」ことです。
周囲を観察すると、他者に上手に甘えられている人がいます。
重いものを運ばないといけないときに半分持ってもらうとか、一言二言弱音を吐いたり、交換条件を考えて誰かに頼みごとをしたり。
自分が「これくらいならいいかな」というやり方を真似してみましょう。

三つ目は「相談を増やす」ことです。
いつでも一人で頑張る人は、周囲からは全然困っていないように見えます。場合によっては「手助けされることを好まない人」とも思われているかもしれません。
でも本人は「こんなに頑張っているのに、誰も助けてくれない」と真逆な思いを抱えている場合があります。
いきなり甘えたり頼ったりするのはハードルが高いでしょう。
相談する回数を増やして、その中で、誰かに甘えることが出来る場面を見つけましょう。

6.まとめ

  1. 大人の甘えと子供の甘えはちがう
  2. 大人が甘えるためには「心理的安全性」と「相手との対等な関係」と「自分のキャパシティを知る」ことが必要
  3. 甘えられない人は強がりを止めて、甘え上手な人の真似をしてみたり、相談回数を増やす

子どもと違って大人は成長するのを待ってもらえません。それなのに求められる役割はどんどん重く大きくなります。
自分に出来る範囲役割ギャップに潰されないために、上手に他人に甘えられるようになりましょう。

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