【発達障害の夫婦】コミュニケーション上の悩み

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:発達障害とは

【発達障害の夫婦】コミュニケーション上の悩み
夫が・妻が発達障害のときの悩みで一番多いのは、コミュニケーション上の問題だと思います。
友人、同僚などだとスルー出来る会話やシチュエーションも、夫婦はそれが出来ません。
どうしても相手の発達障害特性と向き合ってコミュニケーションを取らざるを得なくなります。

どんな悩みがあり、どんな対処方法があるのか、を考えてみました。

1.発達障害の人のコミュニケーション上の特徴

①非言語情報(ノンバーバル)を読み取るのが苦手

「非言語情報(ノンバーバル)」とは、日本語表記の通り、「言語」ではない情報のことです。
相手の表情、目線、口元、手の動き、沈黙の回数や時間、声の高低、話すスピードなど。
会話する時は、考えていることや思ったことを言葉にして相手に伝えます。
しかし人間は、他者とコミュニケーションをとっているとき、言語以外から多くの情報を取得します。
相手を理解する割合として、言語2:非言語8、と言われています。

発達障害の人はこの「8割」から情報を得ることが苦手です。
見ていないわけではないのですが、一般の人と見る場所が違ったり、情報の解釈の仕方が違ったりするため、行き違いが発生しやすいのです。

②言葉の意味をそのまま受け取る

いわゆる
・比喩
・冗談、ギャグ
・暗黙の了解

が苦手です。
例えば「人の命は地球より重い」のような比喩がすぐに理解できません。地球より人間のほうが重いはずはない、と、実際の質量で考えてしまいます。
ギャグや冗談も、その場のノリで出てくることが多い表現ですが、言葉の意味だけを真剣に考えて理解しようとするので、冗談が持つ面白みが理解しづらかったりします。
暗黙の了解も分りません。一般的には「Aという状況になったらBを試すものだ」という不文律を仕組みとして了解出来ないと、すぐに実行に移せなかったりします。

そうした特性のため、会話ががぎくしゃくしたり、お互いに意図が伝わらず疲れてしまいます。

③流れに合わせた雑談が苦手

「僕、雑談が出来ないんです」
という相談を受けます。
普通に会話出来るし、仕事も出来る。礼儀正しく真面目で、第三者から見るととても優秀なのに、本人は休憩時間などの他愛も無い雑談に入っていけない、または自分が口を挟むことで会話の流れが止まったように感じてしまうことに強く悩んでいました。

雑談って、よく考えると確かに難しいです。
暇つぶしにその場にいるメンバーに合わせて誰もが話に入ってこれそうな話題を選び、かつプライベートに踏み込み過ぎない程度に自己開示したり知識を披露したりする。
聞いている側も相槌を打つ程度には話題について知っている必要があります。

しかし発達障害の人は、なんの話をしているのか、を理解するまでに時間がかかります。
やっと理解できたと思った時には、他のメンバーは既に違う話題に移っていたりする。
間に入るタイミングを逃し、ずっと黙ったままになって終わってしまうことも少なくないでしょう。

2.発達障害の人は自分のコミュニケーションについてどう考えて

発達障害の特性がコミュニケーションを躓かせてしまう時、周囲から理解を示してもらえることはほとんどないでしょう。

ADHDの人は興味関心があちこちに飛ぶので、長い話を聴き続けられません。
ASDの人は逆に興味が限定されるので、自分が興味を持てない話題は「関係ない」と判断して参加しません。
LDの人は文字情報から状況を理解することが苦手なので、言葉だけのコミュニケーションが続くと疲れ果ててしまいます。

しかしそれに対して多くは
『自分勝手』
『空気が読めない』

などと言われて、長い期間の間に徐々に避けられるようになってしまいます。
なぜ避けられているのか、の理由は明示されないので、コミュニケーション方法が独特だから、と思わず、
「自分が駄目な人間だからだ」と自己評価を低下させてしまいます。
人と接することがいやになり、引きこもることが増えていってしまうかもしれません。

少し脱線しますが、こういう時に「療育」の大切さを実感します。
発達障害は先天性の脳機能異常による障害です。小学校低学年くらいまでには症状が出ています。
子どもの頃から自分の特性を理解して周囲の大人に接してもらうことで、出来ること・出来ないこと、苦手なこと・得意なことを自分で理解し、対処法を学びます。
そうすることで、大人になって社会に出た時に、周囲の反応に対して必要以上に自己評価を下げることがないのでは、と思います。
もちろん悩まないわけではないので、生きていくことが楽になるということではありませんが、少なくとも「自分を知っている」という土台が出来ているのです。

しかし大人になってから特性に気づいた場合、発達障害の診断に繋がるまでに色んなつらい体験をします。
その経験から発達障害より先にうつ病などへ繋がってしまうケースは少なくないと思います。

発達障害の人のコミュニケーション上の辛さは、自分の特性を知っているかどうか、によって異なってくるのでは、と思います。

3.夫婦で出来るコミュニケーションの工夫

①主語を明確にする

英語等と違って、日本語の会話には定型化した文型を使いません。
つい主語(何についてなのか)をすっとばして会話してしまいます。
発達障害の人はここですでに戸惑ってしまいます。
何についての話なのか、誰がしたことなのか、が分からないので、流れていく会話についていけなくなります。
夫婦の会話では、主語・テーマを明確にして話しましょう。

✕「カレーでいいよね?」
〇「今日の夕食の献立は、カレーでいいよね?」

②「察して」はNG

上述したように、非言語情報から、こちらが期待した通りの情報を読み取ることが苦手です。

例えば、本当は疲れて早く寝たいのに、相手(発達障害)の話が中々終わらない、とします。
ADHDには「不注意」と同時に「過集中」という特性もあり、興が乗ると止まらなくなります。
相手が退屈してスマホをいじり出しても、あくびを連発しても自分が満足して結論に至るまで止まりません。
話を中断させるのは申し訳ないと、眠い目をこすりながら深夜まで付き合う日が続くと、寝不足だけでなく「付き合ってやっている」というストレスも溜まっていきかねません。

察して欲しい、と思わず、「ごめんね、今日は疲れているから、続きは明日でもいい?」と言えば納得してくれます。

③会話の話題が変わるときは明示する

上述の雑談でも書きましたが、夫婦の他愛無い会話も同じですね。
食後ののんびりした時間に今日あったことなどをつらつら話す時、つい思い付いたことをそのまま口にしてしまいます。
話している人間の脳内では「連想ゲーム」状態になっているのできちんと話は繋がっているのですが、連想部分をすっ飛ばして違う話題にジャンプすると、相手はついて行けません。
それでも一般の人ならそれとなく「察して」違う話題に付き合ってくれますが、発達障害の人はそうはいきません。
さっきまでは今日のランチの話をしていたのに、突然昨日見たドラマの一場面について話始められたら混乱してしまいます。
ただでさえコミュニケーションに苦手意識がある人が多いので、「自分が理解出来ないのがいけない」自責思考に陥ることもあります。

「ラーメンと言えば、昨日見た〇〇のドラマの中でもラーメンを食べる場面があってね」
と、前の会話と新しい会話の流れが明確になるように話しましょう。

4.夫婦なら「理解するため」のケンカもアリ

夫婦喧嘩は、体への暴力、相手を傷つける暴言でないなら、それほど避ける必要はないと私は思います。
むしろ「相手を理解しよう」という意識が根底にあるなら、ケンカしてもいいのではないでしょうか。

発達障害の人は、脳内で情報を結び付けて、記憶の引き出しから必要なものを引っ張り出すのが苦手な人が多いです。
こちらの「理解しよう」という気持ちが強くなりすぎて、相手のペースに合わせられなくなり、勢いづきすぎてケンカ腰になることもあるでしょう。
でもその中で「あなたを理解したい」というメッセージを明確に伝えることが出来るなら、実りのあるケンカになるのではないでしょうか。

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