うつ療養中の過ごし方 ③うつ療養の現実

テーマ:ケアラー支援

うつ療養中の過ごし方 ③うつ療養の現実
「うつ療養中の過ごし方」の第3回は、思うように進まないうつ療養の現実について、家族側の経験も含めてお話したいと思います。

うつ療養は、原則としては

ストレスが少ない環境で規則正しい生活を送り、適度な運動を取り入れながら通院・服薬を続けることで数カ月で回復していく

というものです。

こうした生活を続けることで、過度な疲労とストレスでぼろぼろになったメンタルは安定していくのは確かでしょう。
しかし、この通り出来れば苦労はないのが現実です。

1.セオリー通り進まない「うつ療養」

①ストレスが少ない環境

ストレスと一括りにしますが、要するに生きていく上で感じたり自分の中で生まれたりする各種の「刺激」の総称です。

朝起きたら部屋が冷え切っていたら「寒さ」によるストレスを感じます。
通勤電車が激混みなら、色んな人の体や荷物に押されて痛かったり不愉快だったりしてストレスです。
デスクワークに集中していたら突然上司に呼ばれて作業を中断しなければならないのもストレス。
やっと眠りに入ったと思ったら真夜中の地震で飛び起きてしまうのも、ストレスです。

個人の努力でコントロールしきれないのが「ストレス」で、うつ病になればそれ以前よりもストレスを感じる条件が激増します。
その中で「ストレスが少ない環境」をどのように構築し継続するか、が問題です。

②規則正しい生活

人間は「昼行型生物」です。つまり朝が来たら起床し、太陽が出ている日中に活動し、陽が落ちて夜になれば眠る、というサイクルを繰り返します。
体の中にある体内時計(概日リズム)はほぼ24時間なので、特別な事情がなければほとんどの人はこのサイクルで生活します。

このリズムが崩れて一番困るのが睡眠です。睡眠が不十分だと脳の疲労が蓄積される一方で、あっという間に社会生活や健康に影響が現れます。それがうつ病です。
ですから、うつ病の人にとって「規則正しい生活」は、生活上の最低条件ではなく、目標なのです。
これから療養しながら手に入れていく目標なのに、それが無いと回復できませんよ、みたいに言われてしまうと途方に暮れてしまいます……。

③適度な運動

家の中で腹筋とか腕立てとかルームランナーなどで運動できるような人は問題ないかな、と思いますが、そのような人はそもそもうつ病にはなりにくいのでは、とも思えます。

うつ病の人に一番推奨される運動が「散歩」です。
歩くことで体内の血液循環と酸素の循環が促進され、太陽の光を浴びることでセロトニンが生成されて不安感が弱まり、気持ちが安定します。
エネルギーを消費するので、その後に昼寝などしなければ夜の入眠もスムーズになります。運動するからお腹が空いて食事もとりやすくなるでしょう。

ですが一番のハードル「人の目」です。
今までなら平日日中は出勤していた人が、家の近所を歩き回っていると、ご近所から『あの人最近昼間家にいるみたい』などと言われているのでは、という妄想に近い不安を抱いてしまうため、それが怖くて昼間の散歩など楽しめません。
そもそも家から出ること自体が困難なほどメンタルバランスが崩れているのですから、「散歩が出来るようになる」というのも、最低条件というよりは回復の度合いを測る目安として考えたほうがいいのかもしれません。

④通院・服薬

通院については、通いやすい場所にあるクリニックであることと、何より主治医との信頼関係で左右されると思います。
そして主治医との相性は、ほとんど「運」のようなものです。
事前にホームページを見たり利用者の感想を聞いていても、自分にとっていい先生かどうか、は、会ってお話してみなければ分かりません。

更に、うつ病になるような人は生真面目なタイプが多いので、本当はとてもしんどいのに通院日には身なりを整えて頑張って「ちゃんとした人にみえる」ように振舞いながら病院へ向かいます。
終わった後は疲労困憊です。数回繰り返す中で、うつ病が良くなっていく実感が無ければ『もう行きたくない』と思ってしまいかねません。

服薬についても、処方された時に副作用や薬が効いてくるまでどれくらい期間がかかるか、等をしっかり説明してもらえればいいのですが、「とにかく飲めば大丈夫だ」と思っていると、効き始める前に副作用でダウンして自己判断で飲むのをやめてしまう人も少なくありません。
そうすると、言われた通り薬を飲んでいないことへの後ろめたさから、通院の足も遠のいてしまいます。
うつ療養に必要な4要素

2.うつ療養の現実にどう対処するか

①ストレスが少ない環境⇒ストレスに対する捉え方を変える

何に対してストレスを感じるのか、は、人それぞれですが、社会人の場合は仕事を休職・退職することで仕事関連のストレス(職場の人間関係、過重なノルマ、長時間労働、通勤ストレス)などからは解放されます。
しかし今度は、仕事を休んだり辞めたりしたことで、収入への不安が大きくなります。
要するに、ストレスとは「こちらを立てればあちらが立たず」な特徴を持っているのです。
ストレスを減らそう、とすると、終わりのない戦いが始まります。

ご提案したいのは「ストレス源(ストレッサー)」への捉え方・見方を変える、というものです。

例えば上述した「収入減」について。
確かに休職・退職によって収入は減ったかもしれません。しかしお金のために仕事を続けていたら、どうなっていたでしょうか。
帰りの電車が入ってくるときに線路に飛び込んでしまったり、翌日出社したくないために突然失踪したり、浴びるほどお酒を飲んで倒れたりしていたかもしれません。家族や職場の人と修復不可能なケンカをしてしまっていたかもしれません。

これらが現実となっていたら、お金の問題ではありません。お金では取り戻せないのです。
逆にお金はいくらでも替えがききます。節約生活で乗り切ったり、傷病手当金や障害年金で補填したり、家族が仕事を変えたり、実家から援助してもらったり、家の中で出来る副業的な仕事をしてもいいでしょう。
大切なものを守るための代償と捉えるのは如何でしょうか。

②規則正しい生活+③適度な運動⇒出来るところから手を付ける

「規則正しい生活」とは、おそらく1日3食食べて朝7時頃起きて活動し、入浴して夜10時頃眠る、というような感じでしょうか。
これが出来たら「うつ病卒業」です。おめでとうございます。
上述したように、これはうつ療養生活の目標です。最初から出来るはずはありません。

優先順位をつけて、一つずつスモールステップ(極小の目標)から手を付けていきましょう。

例えば「1日3食食べる」。
食事をすることで、エネルギー補充が出来るだけでなく、体内時計を調整する役割があるのでは、と言われています。

一汁三菜しっかり食べる必要はありません。おにぎり1個とか、茹で卵1個とか。それこそ本人が食べたいものでいいですね。リンゴやバナナなどは、糖分は高いですが腹持ちもいいですし栄養バランスも消化もいい食材です。
3食食べられない日があってもいいんです。記録をつけておくといいでしょう。少しずつ3食食べられた日が増えていくことで、成果が可視化されていきます。

3食食べるためにはある程度の運動が必要になるので、体を動かすようになるでしょう。
外へ出なくても、洗濯とか風呂掃除とか、体を大きく動かす家事を任せると、家族の負担も減って一石二鳥です。

④通院・服薬⇒副作用管理とセカンドオピニオン

抗うつ薬でハードルになるのは何と言っても副作用でしょう。
少しずつ副作用が出にくい薬が増えているようですが、どんな症状が出るかは人によって色々ですし、効き目のある薬ほど副作用が大きいものです。

医学・薬学は素人なので、あくまで患者家族目線となりますが、うつ病にとって薬は「病気を治すもの」ではなく、「日常生活を送るために最低限の機能を整えてくれるもの」だと思っています。

例えば睡眠障害で苦しんでいる人を放置していると、どんどん悪化して他の症状経もつながります。
家族と生活の時間帯が異なるのでコミュニケーションが取れなくなり、関係が希薄になって孤独が増していきます。家族側もそれは同じです。

なので、一切飲まないわけにはいかない。でも、副作用の出方が少ない・本人が耐えられるもので、効果を発揮してくれる薬は何か、を、根気強く一緒に考えてくれる先生が必要です。

また、どんな副作用が出ているか、を、自覚しておくことも必要です。
これは専門用語である必要はありません。例えば薬を飲み始めてからお腹がゆるくなった、喉が渇くようになった、以前よりぼーっとするようになった、食事の内容が変わった、等。
感じたことを出来るだけそのまま伝えることで、主治医と状況の共有がしやすくなります。

それでも医師と患者とはいえ「人対人」ですから、相性もあります。主治医が良かれと思った事がそのまま患者に伝わらないこともあります。逆もまた然りです。
セカンドオピニオン転院を「主治医への裏切り」と思って、合わない主治医と付き合い続ける人がいますが、それこそストレス源にならないでしょうか。
他の医師の意見を聞くことは「参考資料」です。不安なら事前に主治医と相談してもいいと思います。
外出すらままならない状態で新しい病院へ赴くのは気力も体力も要りますが、「悪いことではない」ことは覚えておいていただきたいと思います。

うつ療養生活でのハードル対策
次回は
・うつ療養生活の心得
・よくあるご質問 Q&A

をご紹介します。

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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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