共感しすぎて辛い!家族のネガティブ感情への対処法と共感疲労防止のポイント
家族がうつになった時の家族の心の変化と、経験の先にある「心的外傷後成長」とは何か、について、考えてきました。
今回はそのまとめとして、
・心的外傷後成長に到達すると、どのような心境の変化があるのか
・その為に出来る取り組みは何か
について、お話したいと思います。
1.心的外傷後成長の「4つの成長領域」
心的外傷後成長で、どのように心が成長したか、を図る基準が5つあります。
①他者との関係
家族のうつ病を通じて、他者との関係にポジティブで前向きな変化が起きることがあります。
例えば
「他者との関係がより親密になった」
「他者を、共感的に捉えたり、接することが出来るようになった」
「他者とのコミュニケーションに、以前より努力するようになった」
などです。
家族のうつ病を支える経験を経て、コミュニケーションが表面的なものではなく、相手の気持ちに立って考えることが出来るようになるかもしれません。
か、を図る基準が5つあります。
②新たな可能性
家族のうつ病に対する「もがき」や「対処」を通して、人生に対して新たな可能性を見出すことがあります。
例えば
「新しい関心事をもつようになった」
「変化に必要なことについて、挑戦するようになった」
「自分の人生にとって良いと思う行動が出来るようになった」
などです。
家族がうつ病になれば、必然的にメンタルヘルスや心理学、社会福祉の情報と接するようになります。
そこから新しい関心事が生まれるのは自然な流れと言えるでしょう。
③人間としての強さ
家族のうつ病を通じて、自分の強さを自覚するようになるかもしれません。
例えば
「思っていた以上に、自分は強い人間であることが分かった」
「物事の結末を受け容れることが出来るようになった」
「私は困難に対処できる、ということを知っている」
などです。
うつ病からの回復途上で、社会復帰がスムーズに躓きなく進むことは少ないです。
中々うまくいかない社会復帰に最初はイライラしても、そのうち「三歩進んで二歩下がる」状況を受け容れることが出来るようになったりします。
④人生への感謝
人生において何が大切であるのか、その優先順位が変わることがあります。
例えば
「人生の価値について感謝が生まれた」
「一日一日に感謝するようになった」
「優先すべきものが以前と変わった」
などです。
家族のうつ病という一大事の前には、「普通=他の家庭と同じ」であることは大して重要じゃないことに気づいたりします。
それよりも家族が、自分が、自分なりに日々を大切に過ごしていることへの感謝が大きくなります。
2.心的外傷後成長へ向けて取り組めることは?
①マインドフルネス的活動
家族のうつ病という状況そのものは、やはり辛く苦しい体験です。
家族は勿論、本人は症状に苦しむ当事者です。
まずはその苦痛を和らげる必要があります。
前回の記事でもお伝えしましたが、苦痛のようなネガティブ感情への対処は「マインドフルネス」が最適です。
苦痛を否定・拒否するのではなく、苦痛に対して良い悪いの判断をせず、体験している感情や思考をそのまま受け入れることで、少しずつ不安が和らいでいきます。
②自己開示
これも前回の記事でお伝えしましたが、「自己開示」によってつらい体験を受け容れる体制が整います。
この時のポイントは、家族がうつ病になった、ということそのものではなく、その出来事の後に、自分の考えや感じ方がどう変わったか、について、語ることが有効です。
開示=表現することで、自分の体験が一貫した「ストーリー」になります。
ストーリーを自覚することの重要性だけでなく、開示した相手の反応も重要です。
相手から否定的な反応が返ってくると、自分でも「ストーリー」を肯定しづらくなります。
他者に話すのが怖かったら、日記に書くのもいいかもしれません。
③新しい活動領域へ
自分のストーリーを自分で肯定的(ポジティブ、前向き)に受け止めることが出来ると、その先の展望も肯定的に具体化していきます。
そこに繋がるような、新しい行動を増やしていきましょう。
例えば、家族のうつ病を体験したことで、うつ病とはどんな病気かを、知識としてだけでなく経験として知ることが出来ます。そうすると、家族以外の周囲の人で、似た状況にある人がいるかもしれません。
そうした人に声をかけたり、自分の体験をSNSなどで発信することで、「過去の自分」と同じ状況の人の助けになることが出来ます。
3.うつ病家族にとってのPTGの価値
生活が一変するような大きな出来事は、当事者にとっては辛く苦しいものであることに変わりはありません。
そして、内容や体験している間の環境によっては、また新たな問題が発生するリスクもあります。
しかし同じ体験をしてもそうならない人もいます。
運が良かった、恵まれていた、ということもあるのかもしれませんが、逆に考えれば恵まれていれば誰でもトラウマ化しないのか、と言うとそういうことでもない。
家族がうつ病という辛い時期を、元に戻ることだけを目指すのではなく、新しい自分との出会いのきっかけや、新しい価値観の獲得へのステップだと思うことで、能動的に向き合う気持ちを引き出してくれます。
「大は小を兼ねる」ではありませんが、うつ病以前の状態に戻ることだけをゴールとするよりも、その先に以前にはなかった将来や自分の成長が待っている、と気づくことで、今の適応や安定も、より盤石なものへ強化されていくと思います。
<参考文献>
「PTG 心的外傷後成長 トラウマを超えて」近藤卓、金子書房
「心的外傷後成長の考え方 ―人生の危機とポジティブな心理的変容―」飯村周平、中央大学大学院 文学研究科 日本学術振興会、January 2016
「Posttraumatic growth(PTG)介入プログラム」開浩一、地域総研紀要 20巻1号P87-96、2022
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