夫婦関係が理由でうつになる?!

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアラー支援

夫婦関係がうつの原因

うつ病になった理由・きっかけは人それぞれ千差万別ですが、「夫婦関係」が理由、ということも、無くはない話です。

「病める時も、貧しき時も…」と誓ったとはいえ、実生活はその場にならなければ分からない難しさや課題があります。
なぜ、夫婦関係がうつの理由になってしまうのでしょうか。

1.夫婦になったばかりのころは問題山積

結婚は、人生の一大イベントであり、たくさんの人に祝ってもらえる慶事です。
しかしいざ一緒に生活を始めると、想定していなかった困難が立ち現れます。

①「夫」「妻」としての新しい役割取得

ジェンダー差が昔と比べると少なくなり、夫婦共働き、さらに専業主夫も増えてきた中で、それほど大きな違いはないかもしれませんが、それでも
・夫が果たす役割
・妻が果たす役割
というものがあります。
それは定型化されたものはなく、夫婦ごとに作り上げていくものだったり、それぞれの両親から「夫は・妻はこういうもの」というイメージを受け継いでいたりします。
今までの生活の中で、新たに受け持つ役割が増えるのです。

②新しい家族システムの形成

そうした「夫像」「妻像」を自分なりに作り上げても、相手が想像していた「夫像」「妻像」とはズレが起きることも十分ありえます。
ズレを感じた時、落ち着いて相談し合えればいいのですが、「どうして〇〇しないの?」「夫・妻は〇〇するべきだろう」という思い込みを押し付けると、衝突が生じます。
続けば確実にストレスが溜まっていきます。

③結婚後はライフイベントの連続

ライフイベントとは、人生の中で起きる大きな出来事のこと。
結婚、出産、子育て、進学、就職、転職、昇進、転居、退職、など。
一見結婚同様「慶事」ですが、めでたいことだからうつとは関係ない、ということはありません。
めでたいことであっても、それによって生活や環境が変化するなら、そこで小さくてもストレスを感じるのが人間だからです。

④価値観の衝突

「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言いますが、犬も食わないからどうでもいい、下らない、気にするようなことじゃない、というわけではありません。
ご経験者はお分かりだと思いますが、生活習慣の小さな違いは、お互いに受け容れ合うのに時間がかかります。
お風呂は浴槽につかる派か、シャワー派か。歯磨き粉の味、食事中の飲み物、洗濯物の畳み方。
恋人同士の時には気づかなかった違いが次々現れます。
どれも全部小さなものです。その場ではどちらかが折れて相手に合わせるでしょう。

それを繰り返してるうちに、もっと大きな価値観が衝突した時に、話し合うことが出来なくなっています。
双方の両親の介護、子どもについて、資産計画、お互いの仕事について(昇進、転属、転勤、転職)などは、どちらか一方が無条件に相手に合わせることは難しいし、合わせてしまうとのちのち問題が大きくなります。

でも、小さな衝突でどちらか一方だけが相手に合わせる習慣が出来てしまっていると、大きな衝突のときに「夫婦で話し合う」という文化が育っていないため、ここでもどちらかが合わせざるを得ない、という事態になってしまうのです。

2.誰よりも近いから難しい


ジェノグラム

ジェノグラム(家族図)をご覧になったことはあるでしょうか。
上下は「1親等」、きょうだいは「2親等」と呼びますが、夫婦はそもそも「親等」を数えません。配偶者というのは二人一組なのです。相続などの際も、配偶者への配分が一番大きいです。
私は授業でこれを聞いたとき、本当に驚きました。法律の世界でも、夫婦とは他の人間関係とは段違いの関係性なのだ、と。

しかし、だからこそ難しい。
「夫婦のことは夫婦にしか分からない」といいますが、夫婦にも分からなかったり、夫婦だからこそ見えないこともたくさんあるのに、「夫婦なのだから」とふたりだけで解決することを、半ば強要するような周囲の空気があることも否めません。

結果としてドメスティックバイオレンスのような、警察の介入が必要な問題まで膨れ上がってしまうケースもあります。

誰よりも近くて、法律上でも一心同体のような扱いの夫婦だからこそ、その間には問題が起こりやすく、他者が介入しづらいため、困難化しやすいとも言えます。

うつ病の原因が「夫婦間」にあったとしても、まったくおかしなことではないのです。

3.うつになった時の注意点

夫婦間にうつの原因があった場合、注意点が一つあります。

×…相手(夫/妻)が悪い
〇…文脈上のアクシデント

です。

①×:相手(夫/妻)が悪い

色んな夫婦がありますので全てが×なのではありませんが、話し合うまでもなく「相手が悪い」と決めてかかると、結論は離婚しかありません。
離婚が絶対ダメなわけではありませんが、それ以外の手段を模索することなく選択することは、これもあとで後悔する元になります。

②〇:文脈上のアクシデント

「文脈」とは、この場合結婚生活の過程を指します。
<1>で述べたように、結婚するといろんな出来事や問題が発生します。
そうした積み重ねのなかで溜まってきた疲労、ストレス、お相手への疑念、不満が、何かの拍子に「うつ病」という形を取ってしまった、ということが多いのではないでしょうか。

「その都度問題を解決していればうつ病には絶対にならないのか」
というと、それもまた難しいです。いつどこでどんなことが起きるか分からないのが人生ですし、同じ出来事も人によってとらえ方が違います。

4.夫婦だからこその回復方法

①相手を「鏡」にする

まず、一緒に住んでいるのですから、毎日会話を交わします。
会話するなかで、「一心同体」の相手に対して、自分の心を偽っていませんか?
まずは相手を「鏡」に見立て、自分の心をどんな風に偽っているのかに気づくことが出来ます。

②対等な関係性

次は関係性です。夫婦は一心同体、横並びです。会社のような上下関係はありません。
上でもなければ下でもない。「対等」な関係として、相手に敬意をもって接した時に、言動が変化します。どちらかの言動が変化すれば、相手も変化します。言動が変われば関係性にも影響が出ます。関係性が良いほうへ変われば、心の問題へも良い影響が出てくるでしょう。

③タブーがない

そして、夫婦にはタブーがありません。
例えば会社の上司や主治医であっても、夫婦の問題で話せないことがあるかもしれません。
例えば性の問題や、過去のトラウマや、相手のプライバシーにかかわることなどです。
でも夫婦なら、当事者同士ですから、見えない部分を作る必要がありません。
「実は……」という隠しネタがないのですから、根本的な対策を立てることが出来るはずなのです。

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スタート時は同じ位置に並んでいた夫婦も、時間が経つにつれて、それぞれが違う経験をして、気がつけば変化したり成長の度合いにズレが生じていても不思議ではありません。

夫婦間が原因でのうつは、そうしたズレを認識したり修正するための「節」として捉えることで、前向きに取り組んでいけるのではないでしょうか。

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