働き方:コロナ禍の今、コロナ後に備える:求められる人材になるために
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
日本経済新聞2021年3月15日付のイブニングスクープで『コロナ禍、経費7兆円減 テレワークで出張・交際費絞る』という記事が載りました。
私はこの経費削減がビジネスパーソンに与える影響は大きいと考えます。
また、数年間のコロナ禍の経験を踏まえ、出張に関するビジネスパーソンの意識も変化しているようです。
こうした変化を整理し、私の体験から今後どうなるのかを考え、どんな対策を打つべきなのかを提案します。
下記の3つの章で構成します。10分程度で読める量です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. コロナ禍による出張に関する変化
1.1. コスト面の変化
この節では、2021年3月15日の日本経済新聞イブニングスクープの記事『コロナ禍、経費7兆円減 テレワークで出張・交際費絞る』を整理します。
記事は、『新型コロナウイルスによる働き方の変化が企業収益を下支えしている。上場企業の2021年3月期は対面での営業や会議、イベントが減り、出張費や交際費などの関連経費が前期比で約7兆円減る見通しだ。』と始まります。
そして、『コマツは海外子会社の幹部を日本に集めていた会議をオンラインに切り替えて出張が減り、固定費が今期252億円減る。伊藤忠商事は今期、原則として海外出張を禁止していることもあり、出張旅費が減っている。NTTデータも海外を中心に出張費が50億円以上減る。「顧客を含めてオンラインが定着しており、今後も続く」(中村卓司財務部長)見通しだ。』としています。
整理すると、経費を削減し、削減した資金を成長分野や課題解決のために使うという流れが出てきているようです。
1.2. ビジネスパーソンの意識の変化
この節では、2022年7月21日に、株式会社 JTB ビジネストラベルソリューションズが出した『コロナ禍の「国内出張に対する意識調査」を公開!約半数が「出張=面倒なもの」へと意識が変化~出張周辺業務に要する時間は約90分~』を整理します。
この意識調査は『JTBグループで経費精算・出張管理ソリューション J’sNAVI NEO(ジェイズナビネオ)を提供する株式会社 JTB ビジネストラベルソリューションズ(本社:東京都江東区、代表取締役兼社長執行役員:渋谷 正光、以下「JTB-CWT」)は、2021年5月〜2022年4月の期間に3カ月に1回以上の頻度で宿泊を伴う国内出張に行った経営者・会社員500人を対象に「国内出張に関する意識調査」を実施いたしました。』というものだそうです。
調査の結果は下記の5点にまとめられています。
- 新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言発令時には、65.4%の方が出張・外出を制限されていたと回答
- 2022年現在と2021年の国内出張の頻度を比較すると「変わらない(49.2%)」、「増えた(29.2%)」となり、少しずつではあるが国内出張再開の流れがあることが明らかとなった
- 外出・出張の制限を通じて、「出張は面倒である(47.3%)」という意識が強くなっている。また、「面倒」と感じる部分については、手配やスケジュール調整が「約5割」、出張精算や立替精算が「約2割」と、出張前後の周辺業務に関する回答が多い
- 1件の出張において、「手配」「スケジュール調整」「出張精算」という周辺業務に、平均で「約92.3分」かかっている
- リモートワーク・オンライン商談が浸透する中でも、ビジネスにおいて「出張は重要」と67.8%が回答。直接対面でコミュニケーションがとれる、現場を確認できる点において、出張は重要なビジネスチャンスである
コロナ禍を通じた出張に対してポジティブな変化の上位3つは下記です。
- 直接関係者とコミュニケーションをとることで円滑に仕事が進んだ
- 直接現地の様子を見ることで有益な情報が得られた
- 旅行気分やその土地のグルメを味わうことができた
コロナ禍を通じた出張に対してネガティブな変化の上位3つは下記です。
- 新型コロナウイルスの感染リスクに不安を感じた
- 移動時間がもったいなく感じた
- 出張後の処理業務が面倒だった
整理すると、対面で会うことのメリットはあるものの、リモートで働くことが浸透しリモートでできることがわかった後では移動時間がもったいなく感じるなど、一つひとつの出張ごとにメリットとデメリットを考えて対面で会うのかリモートにするかを決めたいという気持ちが読めます。
2. 今後どうなるのか(私の予測)
この章では、私の体験から今後どうなるのかを考えます。
1章の出張経費削減について焦点を絞って考えます。
この記事を読んで私が思ったことは「ああ、分かっちゃったんだね。そりゃ、そうだよね。」ということです。
この流れは不可逆的なものだと思います。
例えば1週間の海外出張に行くと交通費、ホテル代、手当て、等々でひとり数十万円かかります。複数人なら、かける人数ですから、安い金額ではありません。
私は会社員時代はグローバルプロジェクトに長く携わっていたので、昔は海外出張することが多くありました。
直近はほぼゼロになりました。潮目が変わったのは、インターネットが高速になった時です。オフィスからでも自宅からでも不自由なくネットに接続できるようになったことが、働き方を大きく変えました。
そのような私の体験から、今後どうなるのか、いくつか予測してみようと思います。
原則出張はなくなる
出張って1日中カンズメになって会議をすることってあまりないと思います。会議して、日本のオフィスにいる時と同じように仕事をして、また会議して、こんな感じが多いのではないでしょうか。
そうだとしたら、オフィスや自宅からリモート参加のオンライン会議で問題ないはずです。
「問題だ」という場合は出張理由を求められるようになると思います。有体に言うと、「なぜ行かなくっちゃいけないの?オンラインじゃダメなの?」に答えられなくてはいけなくなる、と思います。
自宅からのオンライン会議が苦手という方はピンチです。
「行かなくては仕事ができない」ことを言えば言うほど、自分の能力の低さを訴えることになってしまうのです。
海外出張は経費がかかるけど、国内なら比較的安いから、出張して対面で会った方が良い。このような考えは依然としてあるかもしれません。一方、経費の締め付けは緩くなるとは考えにくいです。経費が削減できるとわかってしまったのですから。
社内の場合なら、出張は認められなくなると思います。何故か。オンライン会議で出来ることがわかってしまったからです。
お客様との商談は?そのお客様が対面を希望する場合のみ認められるかもしれません。お客様がオンラインでOKという場合は、オンライン一択でしょう。「いやいや、大切な商談なので、やはりお会いして...」というのは、「私は能力がないのです」と聞こえてしまうかもしれません。「その出張費などの経費、商品やサービスの価格に入れてくるよね」と考える人は多いでしょう。「うちはオンライン商談にしたのに、おたくは何故できないの?」とは聞いてこないでしょうが、そう思う人は多いでしょう。
お客様が対面を希望する場合でも、オンラインの手軽さなど利点を説明し理解してもらえた場合は、オンラインを試してみると良いかもしれません。「こんなやり方があったんだ」という気づきを得てもらえるかもしれません。もしそうなら、あなたの価値を訴求することにもつながるかもしれません。
例外は、ワークショップ形式で1週間毎日朝から夕方まで議論するような場合です。本当にそうすることが必要なのであれば、言い換えると投資対効果が見込まれるのであれば、出張すべきということになると思います。
複数人での出張はなくなる
複数の人が同じ役割で出張することはなくなると思います。「なぜ一人じゃダメなの?」に答えられなくてはいけなくなる、と思います。
シフトワークする時がある
海外とのオンライン会議の場合、時差を考慮する必要があります。日本の深夜にスタートして早朝に終わる、という場合もあるでしょう。
昼に仮眠したりしながら、睡眠時間をキープすることが大切になります。
例えば、オンライン会議が、日本の深夜にスタートして早朝に終わる。その会議で出た To Do を次の日のオンライン会議までに準備して、次の日の日本の深夜スタートに備える。こんな感じを1週間やる場合、睡眠時間を含めたワーク・ライフをしっかりバランスさせることは、とても大切です。
頑張りがちな方は、ここは本当に大切なことです。1週間無理をすると、もたないかもしれないし、もし、もったとしても次の週にダメージが出ます。
この章に書いたようにはならない、そうお考えの方はいらっしゃるかもしれませんね。そうかもしれません。
同時に私は思うのです。正常性バイアスかもしれないと。ウィキペディアによると、『正常性バイアス(せいじょうせいバイアス、英: Normalcy bias)とは、認知バイアスの一種。社会心理学、災害心理学などで使用されている心理学用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと。自然災害や火事、事故、事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる。「正常化の偏見」、「恒常性バイアス」とも言う。』とあります。
3. どのような対策を打つべきなのか〜提案〜
この章では、2章と、1章のビジネスパーソンの意識変化を受けて、どのような対策を打つべきなのかを提案します。
まず、オンライン会議ができるようになることが必要です。ここで言う「オンライン会議ができるようになる」とは、単純にオンライン会議ITツールが使えるということだけではありません。この章では、この辺りのことを説明しながら提案していきます。
コロナ禍が続いていますので、オンライン会議に参加したことのある方は多いのではないか、と私は考えます。
オンライン会議が苦手な人がいます。
少し乱暴かもしれませんが、オンライン◯◯に必要なITツールが使えない人、ハイコンテクストな人、このような人はオンライン会議は苦手のようです。
オンライン会議に参加したり、画面を共有して資料を説明することは難しくないですから、食わず嫌いはやめることが必要です。練習が必要です。自分でオンライン会議に参加して、資料を共有したり説明したりできなければ、リモートの同僚やお客様と協働することはできません。やるか、やらないか、です。
ハイコンテクストとローコンテクストって聞いたことありますか?言葉の説明から始めましょう。
コンテクスト(Context)
コミュニケーションの基盤である言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性など
ハイコンテクスト(High Context)
コンテクストの共有性が高い。
伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境。しかし、その環境が整わないと一転してコミュニケーションが滞ってしまう。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなってしまう。
ローコンテクスト(Low Context)
コンテクストの共有性が低い。
言語によりコミュニケーションを図ろうとする。(見方を変えればコンテクストに頼った意思疎通が不得意とも言える) そのため、言語に対し高い価値と積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する諸能力 (論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力) が重要視される。
日本は、ハイコンテクストの文化だと言われています。上の説明「伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境」、オンライン会議は「伝える努力やスキル」がない場合は成立しません。ですから、ハイコンテクストな人はオンライン会議が苦手になります。
「だから出張して対面で会わないとダメだ」という考え。これは2章で書いた通り、今後は受け付けられなくなる可能性が高い、と私は考えています。コロナの感染が拡大している時は、相手からオンラインを要求されることもあるでしょう。対面で会うか否かにかかわらず会議などができるようになっている必要がある、と私は考えています。
では、どうすれば良いのか。
ソフトスキルを身につけ、スキルレベルを向上させる解決策しか私には思いつきません。
ソフトスキルとは、ファシリテーション 、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディングなど対人系のスキルです。
出張せず、同じ会社の人とオンライン会議をするシーンを想定して、以降の話を進めます。
ここでは、あるプロジェクトが暗礁に乗り上げ、東京の人たちが大阪の人たちとオンライン会議で解決策を議論することになった、という想定で、ソフトスキルはどう役に立つのかを考えてみます。ここでは、東京の人たちと大阪の人たちをチームと呼ぶことにします。
この会議の議論プロセスを事前に決めることが必要です。議論プロセスを決めるのはファシリテーションの1つです。会議の開催までに問題をファクトベースでデータ分析し、議論のたたき台となる資料を用意することになりました。議論に耐える資料がないと議論ができませんので。
この資料は◯◯部の□□さんにお願いすることが最適ということになりました。◯◯部のA部長をとおして□□さんにお願いすることになりました。そこで、コミュニケーション戦略を考えます。A部長に何をどのように伝え、何を理解してもらい、どのように理解した内容を確認し、どんな協力をお願いするのか具体的に戦略を考えます。この辺りはソフトスキルのコミュニケーションですね。
コミュニケーション戦略が決まったら、それを具現化する資料を作成し、実際にA部長に会いに行きます。同じビルでなければオンラインで会います。プレゼンテーションすることになるわけです。オンラインの場合は言葉だけでやりとりするのではなくて、目に見える資料を作成して、理解してほしいことが理解してもらえているのかを確認しながら、丁寧に進めることが大切になります。一方的に伝えた気持ちになるだけではダメです。「言った」を「理解してもらった」にするためには、「何を理解したのか」を確認しなければなりません。コミュニケーション戦略を立てて、その戦略をプレゼンテーションで実施する。この辺りはソフトスキルのプレゼンテーションです。
□□さんが分析してくれて、議論に使える情報を整理してくれました。この情報をどう議論に活かすのか。具体的には何々のフレームワークを使って解決に向けたアイデアを引き出し、引出されたアイデアをどのようにかみ合わせていくのか、議論プロセスを会議の事前に決める必要があります。再びファシリテーションの登場場面です。もちろん、事前に設計した議論プロセス通りに議論が進まない場合もありますので、臨機応変に別のフレームワークや思考法を挟みながら、議論を進めていくことが必要になる場合もあります。ファシリテーターの腕の見せどころです。
解決に向けたアイデアがいくつか出てきました。これらを評価し優先順位をつけます。決定に向けての合意形成ですね。
ここでもファシリテーターは何々のフレームワークを使って優先順位を議論するのか、事前に考えておきます。そして議論し合意を形成します。この辺りはソフトスキルのファシリテーションです。
リーダーシップとは、チームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。
リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している一人ひとりに必要な力といえます。先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。
誰かひとりがリーダーシップを発揮しても良いですし、複数人リーダーシップを持っているチームはより強力です。リーダーシップは必須です。
この例の場合は、暗礁に乗り上げたプロジェクトの解決策を出し、具体的に実施計画(いわゆるTo Do)を作り、実際に実施することが目標ですね。ソフトスキルのリーダーシップです。
リーダーシップのあるチームで協働することはチームビルディング強化につながります。
チームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げるためには、楽しいとか面白いという要素が必要だと思います。楽しいとか面白いというのがモチベーション維持に必要だと思うのです。
この例の場合は上記のように、見える化された議論プロセスに則って議論を進め、合意を形成する、これを経験することで会議参加した人が「このやり方は良いかも」「自分でもこういう風にやってみたい」と思ってくれるならば、「楽しいとか面白い」という知的好奇心をくすぐり、それがチームビルディングにつながるかもしれませんね。
もし今までの対面での会議が、なんとなく集まり、会議の目的や会議終了時に到達したい目標を会議の冒頭で共有されずに、なんとなく始まり声の大きな人の意見で決まっていたとするならば、このやり方はオンライン会議では通用しないので、上記のようなソフトスキルを活用した形に変える必要があります。
出張に行かないと仕事ができない人は「本気で変えないと大変なことになるかも」と考え、対策としてソフトスキルを身につけスキルレベルを仕事で使えるレベルまで向上させる必要がある、と私は考えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。