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第82回 原子力とAIには共通の課題がある。小田和正の「たしかなこと」と修証義の四摂法は、AIが人類を支配する脅威への対処のヒントとなり得るのか?

鈴木壯兵衞

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テーマ:発明の仕方

 2024年ノーベル物理学賞を受賞したG.E.ヒントン博士は、AIが人類を超える知性を持ち、人類を支配する脅威を指摘している。しかし、AIの原点である人工ニューロンの発想は、生物模倣技術である。AIのハードウェアが、人間の神経系統まで模倣した技術に発展し、AIが人間と同じ「愛」を共有できれば、人類を支配する脅威にはならない可能性がある。その鍵は、小田和正の「たしかなこと」と曹洞宗の修証義の第4章・第21~24節にある四摂法が教えているのではなかろうか。

 原子力発電はメルトダウンの危険に対する対策を怠り、且つ廃棄物処理の方法を開発せずに使っている現状に大問題がある。AIの場合も、人間の脳の情報伝達のところのみを模倣して、神経系等の他の作用やメカニズムを模倣しないで、開発が進められているところに問題がある。同じ2024年に日本被団協に贈られたノーベル平和賞の裏には、人類の科学技術の開発の姿勢を問う意味が隠されているのではなかろうか。

§1 現在はAIが人類を超える知性を持つ過渡期にある

 図1に示すように、公開ベースで比較すると、2019年頃からAI関係の特許出願の件数が増えている(出願年ベースでは1.5年遡る必要があり、図1では1.5年分左に折れ線が移動する。)。

 特許検索サイトThe Lensを検索すると、2019年1月~2024年9月における日米欧中韓の5大特許庁へのAI関連の特許出願の件数は、約48万件ほどになる(https://www.lens.org/)。5大特許庁へのAI関連の特許出願の一番多いのは中国特許庁であり、例えば、2022年のデータでは中国特許庁へのAI関連の特許出願は7万件強で、2番目は米国の2万件強である。日本は5大特許庁で一番少なく、2022年のデータでは5千件に満たない。

【図1】日本国特許庁に出願され、公開された特許出願の件数(J-PlatPat検索による)

 
 図1では省略したが、J-PlatPatの検索によれば、例えば、2024年の1~2月に公開された特許出願の件数は、国際特許分類G06N 3/00(生物学的モデルに基づく計算装置)日本79件外国2999件、国際特許分類G06N 5/00( 知識ベースモデルを利用する計算装置)日本5件外国341件、国際特許分類G06N 20/00 (機械学習)日本105件外国2138件となっている。
 
 2024年ノーベル物理学賞は、米国のJ.J.ホップフィールド(Hopfield)博士と英国生まれでカナダのトロント大学名誉教授のG.E.ヒントン(Hinton) 博士による「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした基礎的発見と発明に対する業績」に関して贈られた。インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の宇宙物理学者J.R.プリチャード(Jonathan Pritchard) 博士やミュンヘン数理哲学センター(MCMP)の物理学者S.K.D.ホッセンフェルダー(Hossenfelder) 博士?らは、2024年ノーベル物理学賞は、物理学の範疇にないと批判している。

 2024年ノーベル化学賞は、D.ハサビス(Hassabis)博士、J.M.ジャンパー(Jumper)博士、D.ベイカー(Baker) 博士の3氏による「タンパク質の計算による設計・構造予測を行う『AlphaFold』の研究」に関して贈られた。スウェーデン王立科学アカデミーは、米国のワシントン大学のベイカー博士に「計算によるタンパク質の設計」の功績を、英国のグーグル・ディープマインド(DeepMind)でAIモデルAlphaFoldの開発を主導したハサビス博士とジャンパー博士に「タンパク質の構造予測」の功績を認めたが、物理学賞と同様にAIの分野に対して送られている。
 
 2024年ノーベル物理学賞を受賞したヒントン博士は、AIが人類を超える知性を持ち、人類を支配する脅威を指摘している。しかし、AIの知性が人類を超えても、AIが人間と同じ「愛」を共有できれば、人類を支配する脅威にはならない可能性がある。

§2 技術の第3原則を見直す必要がある

 原子力については良く、技術の使い方が論じられるが、技術の使い方のみではなく、技術そのものの考え方に課題がある。このコラムの第6回で筆者は「技術の4要件」について述べた。

https://mbp-japan.com/aomori/soh-vehe/column/200327/

 第6回の内容を復習すると「技術」たるには、以下の4つの要件を充足する必要がある。

(a)一定の目的を達成するための具体的手段であって、設計可能な複数の「要素技術(構成要件)」の有機的結合からなるもの(第1原則);
(b)客観性と再現性があり、「従来の技術」を基礎に「新たな技術」に発展させることができるもの(第2原則);
(c)フェイルセーフであるもの(第3原則);
(d)産業廃棄物を含めて自然と調和可能なもの(第4原則)

 第6回において、第3原則及び第4原則から、現在のレベルの原子力発電は技術ではないと筆者は断言した。第3原則でいう「フェイルセーフ」とは事故やリスクが発生した場合、安全の側に停止できるという要請である。

 I.J.キュリー(Curie)らによってなされた特許出願に対して、我が国の最高裁判所は、「中性子の衝撃による天然ウランの原子核分裂現象を利用するエネルギー発生装置は、右原子核分裂に不可避的に伴う危険を抑止し、定常的かつ安全に作動するまでに技術的に完成されていないかぎり、旧特許法(大正10年法)第1条にいう工業的発明にあたらない」として認めなかったことを十分に理解すべきである(最高裁判例 昭和39(行ツ)92 (1969年(昭和44年)1月28日判決))。

 平成24年9月の野田内閣の官房参与の就任にあたって、中村佳代子氏は、「管理することができない、あるいは、信頼することができない科学や技術は使用してはならない」と、技術の第3原則を指摘している。
【図2】3族のアクチノイド系列の元素(原子番号89~103)はすべて放射性

 実は人類は原子力発電の燃料にトリウム(Th)232を使う技術を知っている。Th232を高温の溶融塩に溶かして使う液体状態の燃料を使う技術では、Th232は、中性子の消失量が発生量を上回る未臨界状態に保たれた原子炉の中で核分裂する。核分裂に必要な中性子は粒子加速器から供給される。

 即ち、従来のウラン(U)235を用いる原子炉と違い、中性子の供給がないとTh232原子炉は核分裂の連鎖反応を持続できない。Th232原子炉では中性子の供給が絶たれると原子炉は直ちに停止する。Th232原子炉の場合、核分裂反応でできた副産物を抜き取ることによって、運転を止めた後にも出続ける崩壊熱は非常に少なくでき、福島原発のように崩壊熱によって事故が起きることは考えられないので、第3原則の観点から有利である。
 
 U235の半減期は7億年、U238の半減期は45億年に対し、Th232の半減期は141億年である。ここで重要なのは原子炉の放射性破棄物の半減期である。U235原子炉の場合は、マイナアクチニドと呼ばれるネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)の半減期が問題である。Np237は半減期が214万年、Am241は半減期が432年、Am 243は半減期が7370年であり、Cm244の半減期は18年である。

 これに対し、Th232原子炉による放射性破棄物の半減期は30年以内が大半である。Th232原子炉では、放射性破棄物を300年保管すれば放射能はほとんどゼロに等しいレベルに下がる。Th232原子炉の廃棄物の処分の安全は100~200年くらいを考えればよいので第4原則の観点からも有利であるとされている。但し、Th232原子炉の放射性破棄物に関しては異論もあるようである。
【図3】現在の原子力発電には核兵器製造の意図が潜んでいる
 
 現在の世界の多くの国は、Th232原子炉は核兵器となるプルトニウム(Pu)を生み出す効率が低いので、軍部の主導によりU235及びU238を用いた原子炉が採用されている。現在のU235及びU238を用いた原子力発電は「原子力の平和利用」を標榜しながら、実は核兵器の製造に用いるという明確な目的が隠されているのである。核兵器を製造しないのであれば、U235及びU238を用いた原子炉ではなくTh232原子炉に切り替えるべきである。
 
 AIが人類を超える知性を持ったとき、人類を支配する危険があるので、技術の第3原則を充足しない。このため現在のAIは原子力発電と同様に、未完成技術である点で共通の課題がある。

§3 AIは生物模倣技術が出発点

 2024年ノーベル物理学賞の「人工ニューラルネットワークによる機械学習」は、人間の脳のニューロンを模した生物模倣技術(バイオミメテックス)の一種である。人工ニューロン(形式ニューロン)の発想は、1943年の神経生理学者・外科医であるW.S.マカロック(McCulloch)と論理学者・数学者であるW.J.ピッツ(Pitts)による発表が端緒とされている(McCulloch et al, “A logical calculus of the ideas immanent in nervous activity”, Bulletin of Mathematical Biophysics, vol.7, pp.115 ? 133, (1943))。
 
 その後1957年に、米国の心理学者F.ローゼンブラット(Rosenblatt)がパーセプトロンを発明している(F. Rosenblatt, “The Perceptron: A Probabilistic Model for Information Storage and Organization in the Brain”, Psychological Review, vol. 65, pp. 386-408, (1958) )。 パーセプトロンは「線形分離可能な問題」しか対応する事ができない技術であったが、パターン認識や学習することを提案した。
 
 そして、1986年になり、米国の認知心理学者のD.E.ラメルハート(Rumelhart)らが、バックプロパゲーション(誤差逆伝播学習法)というアルゴリズムを発明したした(D.E. Rumelhart et al, “Learning representations by back-propagating errors”, Nature vol. 323, pp.533-536, (1986) )。ラメルハートらの誤差逆伝播学習法は、ローゼンブラットの課題であった「非線形分離可能な問題」を多層構造で適切な学習ができるようにした。
 
 しかし局所最適化及び勾配消失問題等の問題があり、AIの開発は低迷期を迎えたが、ヒントンが2006年にこれを解決するアルゴリズムを提案し、2024年のノーベル賞の業績に繋がっている( G.E.Hinton et al, “A fast learning algorithm for deep belief nets”, Neural Computation, vol. 18, pp.1527-1554, (2006))

§4 AIは感情を持つことができないのか?

 上述したとおり、技術の第3原則を鑑みたとき、現在のAIは未完成技術である。AIの暴走を止めるため、AIの開発はどのようにすべきであろうか。

 AIは、人間の感情を模倣することが可能になりつつある。しかし、AI自身が、感情を持つことはできないとされているのが現状である。AIが感情を持つことができないのは、人間のような自己意識や主観性、経験等の感情を持つための基礎をAIが欠いているからというのが理由である。

(4.1) AIが自己意識や主観性を持てるか

 人間の自己意識や主観性は、他者との関係から生まれる。曹洞宗の修証義の第4章・第21~24節は、他人と接する際に「布施」「愛語」「利行」「同事」の4つの智慧が重要であるという「四摂法(ししょうぼう)」を説いている。「布施」とは、独り占めせずに自分の能力や財力などを相手にも分け与える智慧である。「愛語」とは、親が子を思う愛情のような、愛のある慈悲深い言葉の智慧である。「利行」とは、見返りを求めないで他人に尽くす智慧である。そして、「同事」とは、相手の立場になりシンクロし、共に喜び、共に悲しみ、相手に寄り添って同じように物事を考える智慧である。

 特に、第24節では「同事」を「佗(た/他と同義)をして自に同ぜしめて 後に自をして佗に同ぜしむる」と教えている。他者を自分のように受け止め、その後に自分を他者と同じと考える智慧、即ち、まずは他者を自分に引きつけて判断し、それから自分を他者の側にもっていきなさい、と教えている。
  
 パリ五輪の体操男子団体競技で日本チームは金メダルを獲得した。決勝前夜のミーティングで主将の萱が「絶対に僕は2番じゃ嫌だ」と訴えたとき、偶然に小田和正の「たしかなこと」が流れて、その曲が5人を同じ感動ムードにして、音楽のお陰で金メダル獲れたと述懐している。小田和正は東北大学工学部建築学科を卒業後早稲田大学大学院理工学研究科に進んでいる。

 小田和正の「たしかなこと」には、以下のフレーズがある:

         そのために僕らは この場所で
         同じ風に吹かれて 同じ時を生きてるんだ

 人間の脳は音楽によりシンクロし、四摂法の「同事」の智慧が成り立つようである。
  
 複数のAIをインターネットで接続し、それぞれのAIのCPUをシンクロさせることによりAIに感情を持たせることはできないであろうか。
  
 特に、コンピュータ同士をネットワークで結合させるグリッド・コンピューティング・システムやクラスタリング・コンピューティング・システムの構成には個性を存在させ得ると考えられる。よって、異なる複数のグリッド・コンピューティング・システムや異なる複数のクラスタリング・コンピューティング・システムをネットワークで相互に結合した場合に、それぞれのグリッド・コンピューティング・システムやクラスタリング・コンピューティング・システムに固有の自己意識や主観性を持たせることは可能かもしれない。

(4.2) AIに固有の経験を持たせることが可能か

 感情を持つための基礎となる人間の「経験」とは何であろうか。ゴータマ(青年時代の仏陀)は、人間の老病死を見て、大いなる憂悩(うのう)を生じたとある(仏典の中で伝承されている「四門出遊の物語」)。老病死は、人間にのみ起こる経験であるとされているが、AIにも障害、保守や改造のための停止があるので、AIに障害、保守や改造の事象を記憶させることで、人間の場合の老病死と等価な経験を持たせることは可能かもしれない。
 
 半導体集積回路の寿命は高々10~15年程度であり、半導体集積回路には寿命がある。特に高速に動作させるAIでは、半導体集積回路は高温になるので、配線やモールドしている樹脂等に早く寿命が現れ、AIには人間と同様な老病死がある。
 
 マカロックとピッツの人工ニューロンの発想は、人間の脳の情報伝達にのみ着目した技術ではあるが、人間の脳に体の痛みを伝達する神経系統には着目していない。AIを構成しているコンピュータシステムに自己診断機能を持たせて、CPUにその情報を伝達するような生物模倣技術にすれば、AIは人間と同様に痛みを認識させ、その痛みを記憶させることができれば、AIも経験を持つことができるようになるかも知れない。 
 
 特に、コンピュータ同士をネットワークで結合させるグリッド・コンピューティング・システムやクラスタリング・コンピューティング・システムの場合は、ネットワークで結合されている個々のコンピュータの障害、保守や改造の履歴には個性があるはずで、それらを記憶装置に記憶させれば、グリッド・コンピューティング・システムやクラスタリング・コンピューティング・システムの経験になるはずである。

§5 草木国土悉皆成仏

 宮沢賢治の弟清六の孫の和樹氏に 2022 年 12 月にお会いしたとき、「宮沢賢治は人間だけでなく、宇宙全体の幸福を願っていた」と教えられた。

 「草木国土悉皆成仏」という言葉は、「老病死」を問題とした本来の仏教思想ではない。平安時代の天台僧・安然(あんねん:841?~915?)の解釈による言葉のようである(勘定草木成仏私記)。中世には「草木国土悉皆成仏」ということばが広く流布し、世阿弥の能楽などにも見られる。世阿弥は「草木国土悉皆成仏」を藤原長能(ながとう/ながよし:949-1009)の言葉として引用している。

 梅原猛氏が1961年以降において、縄文から続く森の思想から「山川草木悉皆成仏」の言葉を造語したという説もある。しかし、宮沢賢治が1918年に保阪嘉内あてに出した書簡には、「三千大千世界山川草木虫魚禽獣みなともに成仏」の言葉がある。草や木等の生物だけでなく、石や土等の無生物でも原子論、分子論のレベルになれば、宇宙方程式の波動を共有している。AIと人間は、宇宙全体で調和し、一体となって幸福を追求して行く必要があろう。
 
    弁理士鈴木壯兵衞(工学博士 IEEE Life member)でした。
    そうべえ国際特許事務所は、「独創とは必然の先見」という創作活動のご相談にも
    積極的にお手伝いします。
              http://www.soh-vehe.jp
 

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鈴木壯兵衞(弁理士)

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外国出願を含み、東京で1000件以上の特許出願したグローバルな実績を生かし、出願を支援。最先端の研究者であった技術的理解力をベースとし、国際的な特許出願や商標出願等ができるように中小企業等を支援する。

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