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鈴木壯兵衞

青森の新産業創出を支援し知的財産を守るプロ

鈴木壯兵衞(すずきそうべえ) / 弁理士

そうべえ国際特許事務所

コラム

第69回 敬老の日:地球温暖化の時代に生かしたい満98歳(白寿)の発明家の特許発明

2020年9月17日 公開 / 2020年9月19日更新

テーマ:発明の仕方

コラムカテゴリ:法律関連

 白寿のご高齢になっても頭脳明晰な方はおられる。特許庁は2020年5月25日に東京都稲城市に住む満98歳の天野喜一さんに特許証を付与した。満98歳は数え年99歳の白寿である。

 天野さんの特許第6707787号は、河川の氾濫等による洪水時に排水ポンプを駆動するディーゼルエンジンを、完全電源フリーで動作させる技術に関する発明である。
 
  §1 1964年東京オリンピックの治水事業での天野さん
  §2 70年間ディーゼル機関の研究を続けた天野さん
  §3 天野さんの発明した完全電源フリーな排水システム
  §4 95歳で1つ96歳で2つ発明し権利化に成功した天野さん

 §1 1964年東京オリンピックの治水事業での天野さん

 1960年頃からの高度経済成長期に東京都は大量の地下水をくみ上げ、東京都の地盤沈下現象が問題となり、地下水から河川水への水源転換が図られていた。

 又、東京の水道はしばしば渇水の危機に直面していた経緯もあり、1961年に水資源開発促進法・水資源開発公団法が成立した。そして、1963年11月より武蔵水路による利根川から荒川水系へ導水する利根川導水路建設事業の工事が着手されていた。
 
 1964年の東京の水道の渇水は「東京砂漠」と呼ばれるほど危機であり、8月25日には東京都水道用水緊急援助要請があり、荒川から朝霞浄水場に導水する朝霞水路の通水が開始された。1964年10月10日の東京オリンピックは、利根川導水路建設事業の一環となる朝霞水路の通水により、渇水の危機が救われた。このときの治水事業に天野さんは責任的立場で関与していたという。

§2 70年間ディーゼル機関の研究を続けた天野さん

 2015年に国連本部における「国連持続可能な開発サミット」で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」=SDGsの17の目標が採択された。SDGsの「目標13」は、「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」というものであるが、地球温暖化に伴い、我が国でも河川の氾濫等による浸水の被害が多発している。この洪水時には、ディーゼル機関で駆動される排水ポンプが威力を発揮する。
 
 排水ポンプを駆動する原動機としては、かつて電動モータが主力として用いられていたが、1959年の伊勢湾台風の際の水害による停電以後、自己点火の必要がないディーゼル機関が多用されはじめた。しかし、陸用ディーゼル機関は、本体や潤滑油等を冷却する必要があるので、冷却水の系統に電源が必要になる。船舶用ディーゼル機関は海水の導入による冷却が可能なため完全電源フリーで動作できる。

【図1】従来の陸用ディーゼル機関は完全電源フリーではなかった

 例えば、図1に示す2次冷却水を用いる従来の陸用ディーゼル機関4を用いた排水システムの場合、外部の井戸等から取水ポンプ18で汲み上げた水を冷却水として1次冷却水槽21に貯水し、貯水した1次冷却水を第1揚水ポンプ12によって汲み上げる必要がある。

 このため、第1揚水ポンプ12用の電源が必要になるので、従来の陸用ディーゼル機関4は、完全電源フリーではない。1次冷却水は、給水管7zを介して陸用ディーゼル機関4の位置まで上昇させる。そして冷却水を機付ポンプ5を介して陸用ディーゼル機関4の内部に流し、陸用ディーゼル機関4の出口から排水管8を通して熱交換器10に到達させ、熱交換器10で2次冷却水を用いて1次冷却水を冷却する。
 
 冷却された1次冷却水は、1次冷却水槽21に再度戻される。一方、2次冷却水は、排水ポンプ11が位置する被排水槽20と連通する2次冷却水槽22に蓄えられており、第2揚水ポンプ13によって汲み上げる必要があり、第2揚水ポンプ13用の電源が必要になる。2次冷却水は、熱交換器10に送り込まれて1次冷却水の冷却に使用された後、廃棄される。
 
 陸用ディーゼル機関4は電源フリーで動作可能であるのが特徴であるのに関わらず、実際は第1揚水ポンプ12及び第2揚水ポンプ13用の電源が必要になるという不合理性がある。このような陸用ディーゼル機関4の本来の電源フリー動作の利点が生かされていないという問題点を、70年間の長きにわたりディーゼル機関の研究を続けていた天野さんは、常に気にかけていた。

 即ち、図1に示す2次冷却方式を用いる従来の陸用ディーゼル機関4は、排水機場に一定の補機や電源設備等を附帯させる必要性があり、排水機場が複雑化し、故障の発生頻度の高まりや保守作業の煩雑さ等の問題が生じる。

 さらに、2次冷却方式では1次冷却方式で排出する量の2倍程度にも及ぶ2次冷却水が必要となる場合があるため、地下水を無制限に大量に汲み上げて利用すると、地盤の浅層地下水のみずみちが枯渇して空洞化し、地盤沈下の可能性が高まってしまう。すなわち地下水を安定的な水源として用いることは実際上困難である。

§3 天野さんの発明した完全電源フリーな排水システム

 ディーゼル機関の内部構造を熟知している天野さんは、完全電源フリーな排水システムを実現するために、陸用ディーゼル機関をどのように冷却したらよいかを検討してきた。
 
 完全電源フリーな排水システムにおいて先ず問題(第1の具体的課題)となるのは、ディーゼル機関の始動時の冷却水の問題である。ディーゼル機関に内蔵される冷却水用の機付ポンプはディーゼル機関が始動を開始しない限り作動しないので、始動時にディーゼル機関が焼き付く恐れがある。
 
 このため、図2に示すように、電源フリーで雨水を蓄える機関用給水槽1を設け、機関用給水槽1よりも重力方向に低い位置にディーゼル機関4を配置している。
 
 【図2】天野さんが発明した完全電源フリーな排水システム

 そして、機関用給水槽1に蓄えられた水を少なくとも初期運転のタイミングにおいて、冷却水として重力で機付ポンプ5に送り込むように、機関用給水槽1と機付ポンプ5の間に給水管9が設けられている。機付ポンプ5はディーゼル機関4によって駆動され、ディーゼル機関4の内部に冷却水を送り込むポンプである。
 【図3】天野さんの発明した冷却系統を構成する3ポンプシステムの電気回路的説明

 即ち、図3に示す電気的な等価回路で表現したように、天野さんの発明では、重力のエネルギに対応する定電圧源E1の始動用ポンプを、ディーゼル機関の動作状態とは無関係に有する。機付ポンプE2とは独立した始動用ポンプE1を有するので、天野さんの発明の構成では、始動時の冷却水I1は、ディーゼル機関が起動していなくても、重力のエネルギE1で機付ポンプE2に押し込むことができる。
 
 図3に示した電気的な等価回路表現における定電圧源E1は、流体回路では重力のエネルギE1で冷却水I1を駆動して押し込む独立したポンプに相当する。しかし、雨水を蓄える機関用給水槽に蓄えることのできる冷却水I1の貯水量は有限である。

 このため、初期運転のタイミングを経過した後において、引き続き長期間に渡りディーゼル機関を、限られた量である機関用給水槽の水I1のみで運転し続けることは困難である(第2の具体的課題)。
 
 この第2の具体的課題を解決するために、天野さんの発明では、図2に示した熱交換器10と機付ポンプE2の間に設けられた還流管の機付ポンプE2側の端部を、機付ポンプE2より高い位置にある給水管にバイパス接続している。熱交換器10によって降温した冷却水I2は、ディーゼル機関によって駆動されるラインポンプ26(図2参照)によって送水される。

 機付ポンプE2の送水圧を高くしすぎると、ディーゼル機関の内部で漏水が発生するので、ディーゼル機関の冷却系統の出口側を吸引するラインポンプ26を配置して、ディーゼル機関の内部の水圧の上昇を防いでいる。
 
 そして、初期運転のタイミングを経過した後において、熱交換器10によって降温した冷却水I2を、機関用給水槽から供給された冷却水I1と合流(I1+I2)させて機付ポンプに還流し、電源フリーで雨水を蓄える機関用給水槽の水の使用量を大幅に低減させている。
 
 この結果、初期運転のタイミングを経過後には、還流管を流れる冷却水I2を用いることより、機関用給水槽から重力エネルギE1のポンプから供給される冷却水の水量I1を補完している。したがって、電源フリーで雨水を蓄える機関用給水槽に蓄えることのできる冷却水の貯水量が有限であっても、長期間に渡り、ディーゼル機関を安全に運転し続けることができる。
 
 このように、天野さんは1次冷却方式による完全電源フリーなディーゼル機関の利点を生かした排水システムを発明したのである。70年間の長きにわたりディーゼル機関の研究を続け、ディーゼル機関の内部構造を熟知している天野さんの発明の発明者であるからこそ到達しえた発明である。

§4 95歳で1つ96歳で2つ発明し権利化に成功した天野さん

 今回紹介した天野さんの特許第6707787号は2019年1月の出願であるので、実際には5月生まれの天野さんが96歳の時の発明である。図4に示すように、天野さんは今回紹介した特許第6707787号の他に、95歳の時出願した特許第6528021号と96歳の時に出願した特許第6533889号の2つの特許も権利化している。
 
 【図4】天野さんの取得した特許のリスト

 特許第6528021号及び特許第6533889号は、いずれも「貯水設備及び貯水設備の循環濾過方法」という発明の名称であるが、学校等の循環型プールの設計を変えるべきであるとの提案をしている発明である。
 
 即ち、循環型プールで児童が底面に設けられた排水口(循環水取入口)に脚を吸い付いたことによる死亡事故の報道を受けて、天野さんが、現在の循環型プールの設計が悪いと憤慨して提案した発明である。ポンプの設計回路に詳しい天野さんの発明によれば、循環型プールの底面に児童が脚を吸い付い設けられるような事故は起きない。
 
 天野さんは約40年前にも特許第1210643号と特許第1215560号を取得しているが、その40年後の95歳を超える高齢になって特許出願をして、権利化に成功したことは脅威である。この超高齢者の特許の叡智を是非活用したいものである。
 
 なお、2012年10月に他界された埼玉大学名誉教授の廣瀬健吾先生も96歳のとき特許第5116119号を取得されており、95歳以上の超高齢者による特許取得の例は未だあるようである。敬老の日の話題でした。 

 弁理士鈴木壯兵衞(工学博士 IEEE Life member)でした。
 そうべえ国際特許事務所は、「独創とは必然の先見」という創作活動のご相談にも積極的にお手伝いします。
              http://www.soh-vehe.jp











 
   

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