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鈴木壯兵衞

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鈴木壯兵衞(すずきそうべえ)

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コラム

第42回 不常識を非まじめに考えた小学生の特許(その2)

発明の仕方

2018年4月17日 / 2018年4月18日更新

 「デザイン」の語源をラテン語から読み解くと「de+signare」になり、「……から印を付ける」という意味になるらしい。しかし、英語の「design」で読み解くと「de=否定 + Sign=記号」となり、「記号的なものからの離脱」、「既存のモノを破壊すること」になる。即ち、デザインは、「不常識」を意味する。
 
 今回はシリコンバレーで発祥したデザイン思考のプロセスと共に、小学校4年生(9歳)の石黒紀行君が発明した特許(特許第4356903号)を考えてみる。 
 
    §1 デザイン思考の5ステップ
    §2 小学校4年生の石黒紀行君の特許
    §3 スピード審査された石黒君が最年少権利者
    §4 特許庁の進歩性の審査はどうなっているのか
    §5 山本良太君の意見書の目的、構成、効果

§1 デザイン思考の5ステップ

  「デザイン思考((Design Thinking)」という言葉は1980年代から使われているようであるが、この思考法のビジネスへの応用は、米国シリコンバレーに拠点を有するデザイン会社IDEOの創業者デビッド・ケリー(David Kelley)によって1991年に提唱されたとされる(T. Brown, “The Making of a Design Thinker”, Metropolis Oct., pp.60 (2009).)。

 デザイン思考で用いられるプロセスは,実践者や研究者によって異なるが、基本的には「試行錯誤型アプローチ」である。図1は、一例としての、スタンフォード大学d.schoolが提唱する「観察・共感」,「問題定義(課題設定)」,「創造(アイデア出し)」,「プロトタイプ」,「テスト」から構成される5ステップである。

【図1】スタンフォード大学のデザイン思考の5ステップ

 図1に示す第1ステップの「観察・共感」は、対象者(多くは顧客)を観察する。実際に目で見たり(オブザベーション)、自分自身もコミュニティに属して一緒に生活をする(エスノグラフィ)。そうした中で得られた「共感」を得ることが最初のステップである。第1ステップの内容は、特許明細書の【背景技術】の欄に記載される内容に対応する。

 第2ステップの「問題定義(課題設定)」は、第1ステップのオブザベーションやエスノグラフィで得られた共感をもとに、何を困っているのか、どんなことが不便なのかといった「課題設定」を行う。第2ステップの内容は、特許明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄に記載される内容に対応する。

 第3ステップの「創造(アイデア出し)」は、第2ステップの「課題設定」に対して、どんな解決手段があるか、アイデア出しを行う。「ブレインストーミング」「親和図法」「KJ法」「ワールドカフェ」など様々な手法がある。第3ステップの内容は、特許明細書の【課題を解決するための手段】の欄に記載される内容に対応する。

 第4ステップの「プロトタイプ」は、第3ステップの「創造(アイデア出し)」で出たアイデアをもとに実際にプロトタイプを作る。第4ステップの内容は、特許明細書の【発明を実施するための形態】の欄に記載される内容に対応する。

 第5ステップのテストは、第4ステップのプロトタイプを元にテストを行い、そこで得た課題を元に、また第3ステップの「創造(アイデア出し)」以降のプロセスを繰り返す。「プロトタイプ」で形にした技術的思想(アイディア)をテストし,本当に目的を達成できそうかどうかを評価する。
 
 第5ステップの内容は、特許明細書の【発明の効果】の欄に記載される内容に対応する。第5ステップにおいて、必要な場合は第2ステップに戻って課題の再定義を行い,一連の流れを素早く繰り返し,最終的に定義した課題を解決する価値を提供するソリューションにまとめる。

 図1に示すようなプロセスを経ることで,人の気持ちに共感し,潜在欲求に寄り添ったソリューションの提案を行うことができるようになるため,従来では出てこなかった不常識な視点の提案が生み出される。

§2 小学校4年生の石黒紀行君の特許

 デザイン思考では、図1に示した第3ステップの「創造(アイデア出し)」で答え(Problem Solving)を出すことよりも、第2ステップの問題を定義すること(Problem Finding)の方が大切とされる。発明の場合も同様であり、本来、発明の解決しようとする課題の抽出が最も重要なはずである。

 図2は石黒紀行君が富山市東部小学校4年(9歳)の夏休みの自由研究が特許になった特許(特許第4356903号)の特許公報の第1頁の一部である。
 
 【図2】

 2008年4月1日から富山県全域の主要スーパーマーケット及びクリーニング店で一斉にレジ袋の有料化がスタートした。スーパーマーケット等で商品を購入する際に、有料のレジ袋(ビニール袋)を購入したくない消費者は、ショッピング用携帯バックを持参することになる。
 
 従来のショッピング用携帯バックでは、携帯バックを収納するポケット形袋がそれと不離一体である。従来のショッピング用携帯バックのポケット形袋に携帯バックを収納することができるが、そのときには携帯バックを袋に入るように縦横に小さく折り畳む必要があるためにその操作が面倒であった。
 
 小学校4年(9歳)の石黒君は、日頃から「お母さんが買い物のたびに、携帯バックをたたむのが大変」というグチを聞いていた。この日頃からグチを聞いていたというデザイン思考の「観察・共感」のプロセスが石黒君の発明の背景にある。
 
 石黒君は、「なんとかお母さんを助けたい」との想いから、一々、その都度折り畳むことなくポケット形袋に代わる筒形袋にワンアクションでコンパクトに収納することのできるショッピング用の携帯バックはないかと考え始める。これが、デザイン思考の第2ステップである「問題定義(課題設定)」である。
 
 石黒君は、折りたたみ傘に着目し、骨組みを取り除いた傘を携帯バックに作り替え、傘の袋をそのまま携帯バックの収納袋として使用することを思いつき、2008年の夏休みの自由研究として試行錯誤を繰り返す。これが、デザイン思考の第3ステップの「創造(アイデア出し)」と第4ステップの「プロトタイプ」である。
 
 試行錯誤の結果、完成したのが図3に示す『ショッピング用携帯バック』の発明である。
 
 【図3】特許第4356903号公報に記載されたショッピング用携帯バックの図面の一部

 図3に示すように、石黒君のショッピング用携帯バックは、手提げ紐付きのバック1と、そのバック1を引き込んで収納する筒形袋2と、バック1を筒形袋2に引き込み可能に双方を連係する一対の引き紐3とを備える。筒形袋2は、バック1の袋底に設けられている。
 
 バック1の内面には、それぞれの引き紐の通し帯13を幅中央に沿って縫い付けられている。通し帯13の上端から引き出された引き紐3の基端もバックの上端部に縫い付けてある。そして、通し帯13の下端から引き出された両引き紐3が、筒形袋2に筒口18から挿入され袋底から外へ引き出されている。
 
 図3に示したバック1の袋底の筒形袋2には引出口25が設けられている。この引出口25から引き紐3が筒形袋2を介して引き出し可能になっている。筒形袋2の筒口18が持ち手となるように筒口18には、プラスチックがリング状の口輪として縫い込まれている。
 
 図4に示すように、バック1を裏返しにしたとき、引き紐3を引っ張るだけで、筒口18びよって絞り込まれ、バック1がひだ状になる。ひだ状に圧縮されたバッグ1は、筒形袋2の中に、ワンタッチで一瞬にして引き込まれる。
 
 【図4】特許第4356903号公報の図面の他の一部

 母親の志帆さんは、使い勝手がいいと、もっぱら、石黒君の発明したショッピング用携帯バックを愛用しているとのことである。これが第5ステップのテストであり、特許明細書では発明の効果になる。この石黒君のショッピング用携帯バックは、2008年の富山県発明協会長奨励賞や富山県知事賞も受賞している。
 
 地球温暖化を防ぐために「富山県レジ袋削減推進協議会」が、2008年4月1日に全国のトップを切ってレジ袋の無料配布の取止めを実施した。即ち、特許第4356903号が特許庁での審査をパスできた理由の一つに、「買い物の際に携帯するマイバックを、ワンタッチで収納袋に収納でしたい」という技術的課題に、全国のトップを切って石黒君がいち早く到達できたというところがある。
 
 即ち、バッグを小さく折り畳み、小さく収納する発想は古くからあった。しかし、ワンタッチで一瞬にして収納袋にバッグを引き込むという技術的課題には石黒君がいち早く辿りついたと言える。特許発明には、不常識な内容を非まじめに考えることが重要であるが、その際、課題に誰よりも早く到達するというのが、ポイントの一つである。

§3 スピード審査された石黒君が最年少権利者

 今回紹介したショッピング用携帯バックの発明は、小学5年生の特許取得として、特許登録の時点で比較すると、史上最年少であり、前回(第41回)で説明した小学6年生での特許取得となった、山本良太君の記録を塗り替えるものである。
 
 山本君は小学3年生で『忘れ物防止装置』を特許出願しているので、特許出願をした発明者としては史上最年少であるが、登録は3年後の小学6年生のときになるので、石黒君に負けてしまった。これには理由がある。

 石黒君は2008年9月10 日に特許庁に特許願を提出した後、2009年6月3日に出願審査請求書を提出しているが、この審査請求と同時に「早期審査に関する事情説明書」というスピード審査を特許庁にお願いする書類を提出している。この結果、「早期審査に関する事情説明書」の提出の約1月後の2009年7月7日に特許査定されている。
 
 即ち、石黒君が小学5年生で特許取得できたのは、特許出願から特許査定まで1年以内のスピード審査がされているからである。石黒君の特許の登録は8月14日である。
 
 一方、山本君の場合は、2003年11月11日に特許願を特許庁に提出して、 2004年5月21日に出願審査請求書 を提出しているが、石黒君のように「早期審査に関する事情説明書」を提出していない。そして、2006年8月8日に特許庁から、拒絶理由通知書を受けている。この後、2006年9月1日に意見書を提出し、審査官に再審査をしてもらい2006年9月26日に特許査定されているので、特許出願から特許査定まで約3年を要している。
 
 中小企業、個人、大学、公的研究機関等からの特許出願は、早期審査の対象になるので、スピード審査をして欲しい出願は是非利用すべきである。その他実施関連出願や外国関連出願等も早期審査の対象になる。
 
 石黒君の例のように、早期審査の対象になると、通常の審査に比べて、審査結果を早く得ることができる。2015年実績では、早期審査を申請した出願の平均審査順番待ち期間は、早期審査の申請から平均3か月以下となっている。

§4 特許庁の進歩性の審査はどうなっているのか

 現行の審査基準には、「請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである場合は、請求項に係る発明と主引用発明とは、解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る」と記載されている。
 
 1993年(平成 5 年)6月の「統一的特許審査基準(改訂審査基準)」では、進歩性の判断は「引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけにより行う」となっている。「統一的特許審査基準」の規定は、進歩性の判断は従来例を起点としてクレーム発明の構成に到る道程が容易であったことを「解決課題を道標としつつ演繹的に論理づけすること」によって立証すべきという趣旨を述べていると読めるであろう。
 
 発明の課題そのものが新規である場合は,かかる課題の発見が無ければ,発明は想到されなかったわけである。このため、新規な課題の場合の容易想到性の評価の「論理づけ」は、解決手段の難易の評価を抜きにした「論理づけ」が可能であるが、現行の審査基準は、そこまでは明示していない。新規な発明の課題の発見が重要であることは理解できるであろう。

 石黒君の場合、「早期審査に関する事情説明書」の提出の約1月後の2009年7月7日に特許査定されており、拒絶理由通知を受けていない。「買い物の際に携帯するマイバックを、ワンタッチで収納袋に収納でしたい」という、発明の課題そのものが新規である場合の利点であろう。

§5 山本良太君の意見書の目的、構成、効果

 一方、第41回で説明した山本良太君の発明の場合、「傘の置き忘れを防止する」という課題は、新規ではない。この結果、山本君の発明は不運にも進歩性がないという理由で拒絶されてしまった。山本君の場合は、「課題」以外の「課題の解決手段」や「発明の効果」を含めた発明の全体の容易想到性を評価するという、複雑なプロセスが要求されることになる。
 
 1994年(平成6年)の特許法改正で、それ以前の特許法の第36条第4項中の「発明の目的、構成及び効果を明細書中に記載することを義務付ける」規定が削除された。また,平成6 年改正前の第36 条第5 項中の「特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみを記載することを義務付ける」規定も削除された。

 拒絶理由通知に反駁するために2006年9月1日に特許庁へ提出された山本良太の意見書には、「目的」「構成」「効果」の用語が用いられていたが、第41回のコラムでは「目的」「構造(=構成)」「効果」と記載した。1994年改正の現行法である特許法施行規則第 24 条の 2に記載された委任省令要件の用語に置き換えると、「目的」「構成」「効果」はそれぞれ、「課題」「解決手段」「効果」になる。
 
 山本良太君の意見書の内容の要部を現行法の委任省令要件の用語で表現して説明すると以下のようになる:

(発明が解決しようとする課題の対比と相異点)
 山本君の発明の解決しようとする課題は、不特定多数の人が利用する様々な施設において、利用者の携帯品である傘の置き忘れを防止することである。すなわち、山本君の発明はイベント会場、百貨店等の施設が使用の主体となることを前提とし、置き忘れられた傘がイベント会場等の美観を損ね、イベント会場等において、その処理に手間がかかるという技術的課題を有する。
 
 一方、引用文献1、2に記載された発明の技術的課題は、携帯品が身体から離れたとき、離反を自動的に検知して警告することであり、審査官が引用された発明は個人が使用の主体となる。引用文献1、2に記載された発明は、個人が自身の携帯品を置き忘れることを防ぐ発明である。イベント会場等の施設を利用する不特定多数人を対象とする山本君の発明と引用文献1、2に記載された発明は、その解決しようとする課題が全く異なる。

 山本君の発明の「傘の置き忘れを防止する」という課題そのものは新規ではないが、引用文献1、2に記載された発明とは、その解決しようとする課題が異なるというのが重要な点である。

(課題の解決手段の対比と相異点)
 山本君の発明は、開閉可能な傘部と、傘部を開閉する開閉手段と、開閉手段を駆動させるセンサ部を備える。センサ部が施設等から退出する人が近づくのを検知すると、突然、傘部を開閉して近づいてきた退出者を驚かし、傘を思いださせるというものである。これに対し、引用文献1、2に記載された発明は、携帯品に装着される発信機と、携帯品の所有者が所持する送受信機からなり、両者の解決手段は全く異なる。

 さらに、審査官が引用した発明には、送受信機が音や光を発したり、送受信機自体が振動したりすることで忘れ物を警告することを解決手段とする。一方、山本君の発明は、傘の開閉という動きによって人の注意力を喚起し、傘を携帯していたという過去の記憶を呼び起こし、傘の忘れ物を防止することを解決手段とする。

 特に、傘を開閉する機構について、引用文献3には、具体的にどのように雨除け傘を開くのかが把握できない。山本君の発明においては開閉機構に剛体のクランク機構を用いており、柔軟なリール状板鋼を用いる審査官が引用した発明の開閉機構とは全く異なる解決手段である。つまり、山本君の発明と審査官が引用した発明とは全く異なる解決手段を用いており、傘の開閉機構についても審査官が引用した発明から容易には想到できるものではない。

(発明の効果の対比と相異点)
 山本君の発明は、不特定多数の人が利用する施設等の出入口に一台設置するだけで、すべての施設等からの退出者に対して効果を発揮する。一方、引用文献1、2に記載された発明は、個人が自身の携帯品に発信機を装着して用いるもので、発明を利用する本人にのみ効果を発揮する。

 個人が自分の忘れ物を防止したい場合には審査官が引用した発明を用いればよい。一方、イベント会場等の施設が利用者の忘れ物を防止したい場合には、山本君の発明によらなければならない。審査官が引用した発明では、利用者全員に発信機や送受信機を配布すれば不可能ではないが、現実的ではない。よって、山本君の発明と審査官が引用した発明とは、発明の効果が全く異なる。

 技術的課題が新規でない場合は、進歩性がないという理由で拒絶される可能性が高い。そして、拒絶された場合は、山本君の意見書のように、「課題」以外の「課題の解決手段」や「発明の効果」を含めて発明の全体の内容で反論する必要が発生することになる。
 
 特許発明には、特定の技術的課題に誰よりも早く到達するということが重要であり、この点でデザイン思考における「観察・共感」及び「問題定義(課題設定)」が重要であることが理解できるであろう(図1参照。)。
 

   辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
         そうべえ国際特許事務所は非まじめな発明の段階を支援します。
              http://www.soh-vehe.jp






 

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