第15回 オープン&クローズ戦略と3P+P
青森県の特許出願件数が少ないのは問題であるが、それだけではなく特許出願の質の向上にも考慮が必要である。
§1特許は、単に出願すれば良いのではない
特許は形式(様式)さえ整えば、素人でも特許庁に出願するのは比較的簡単に可能である。しかし、図1に示すように、特許は出願された特許出願がすべて登録されるのではなく、特許出願された全出願件数の内で、実際に審査官の審査をパスして特許査定されて登録に至るのはその一部である。
特許庁の審査を経て審査に合格した特許出願のみが登録されるのである。よって、特許は単に出願すれば良いのではない。
図1は、特許庁が毎年発表しているデータを基礎として筆者が棒グラフに整理したものである。横軸に示した1999年~2015年までの各年に対し、縦軸に特許の出願件数と登録件数を示している。縦軸には、特許の出願件数が赤色の棒でプロットされ、特許の登録件数が緑色の棒にプロットされている。
【図1】
図1からわかるように、2000年~2005年では、特許出願された全出願件数の内で、実際に審査官の審査をパスして特許査定され登録された割合を示す「登録率」は28~29%であった。その後、登録率は次第に向上し、2013年の統計では登録率は84%のピーク値まで上昇し、その後再び減少している。
このような登録率の変動は、特許法の改正により2001年10月1日以降の出願から審査請求の期間がそれまでの7年から3年に変更された事情を考慮する必要がある。
§2 特許出願後特許査定されるには7年ぐらいかかる
以下に示すように10年前に比して、現在の特許庁の審査の処理は速くなっているが、それでも約80%が特許査定されるには7年ぐらいかかっているので登録率のデータを読むのには注意が必要である。図2の横軸は出願後の特許庁の審査に要している年数で、縦軸は特許査定された特許出願の内の、横軸で示された年数で特許査定された分の割合を示している。10年過ぎても特許査定されない特許出願が存在するということである。
【図2】
特許査定された審査請求の期間が3年になった分とそれまでの7年の分が特許庁の審査で重畳されるため、2006年以降の登録件数の見かけ上の増大は、登録される母数となる審査件数が増大しているという事情を考慮しないと誤った解釈になってしまう。
図1のデータは、特許出願件数が審査請求の制限期間が7年と3年の特許出願の件数が重複している効果に増減している。2013年に登録率がピークに達した後の2014年以降の減少は、審査請求の制限期間が7年の特許出願に対する審査の件数が減少したことと読むべきであろう。
特許庁で審査されている件数が審査請求の制限期間が7年と3年の特許出願が重複された状態が緩和され、審査対象となっている母数が減少したため、2014年以降は見かけ上の登録件数も減少してきている。
つまり、2013年の見かけ上の登録率が84%になっているが、これは2013年に出願した特許出願のすべてが2013年に登録されたと読むべきではなく、それよりも5年~10年くらい前の特許出願が2013年に遅れて登録されているということである。
以上のように考えれば、2014年の見かけ上の登録率が70%、2015年の見かけ上の登録率が59%と低下してきている理由も理解できるであろう。
§3 青森県の登録率が全国の登録率より低い
しかし、以下の図3に示すように、青色で示した青森県の登録率が、赤色で示した全国の登録率より低い現実は、その理由を含めて、直視する必要がある。
特許はその特許出願の明細書や図面等の内容によって登録率が変わるのである。青森県の特許出願は品質があまり良くないということである。
【図3】
平成28年度の特許出願チャレンジ講座では、
(a)特許庁でどのような審査がされるのか、
(b)特許出願の品質とは何か、
(c)特許出願した内容が、特許庁における審査で、確実に特許査定され、登録率を高くするためには、どのような戦略に沿って、明細書等を作成すべきか
等を勉強する。
特許出願チャレンジ講座は、青森県が、一般社団法人青森県発明協会に委託して毎年、開催しているが、講師はすべて弁理士鈴木壯兵衞が担当している。
平成28年度は以下の2会場で開催予定である。
弘前会場:第1-2回青森県立弘前高等技術専門校
第3回以降ひろさきビジネス支援センター
八戸会場;八戸工業大学
辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
そうべえ国際特許事務所ホームページ http://www.soh-vehe.jp