ドライバー不足なのに、なぜ採用できないのか?――「人を採る会社」から「人に選ばれる会社」へ ナビタイム調査から考える、運送会社の「採用・定着」の本当の課題
運送業専門社労士の吉元です。
「若い人が来ない」は、運送業だけの問題なのか?
先日、あるトラック協会の支部事務局長とお話ししていたときのことです。
話題になったのは、やはり「若い人材の採用」。
その事務局長から、
「若い人が本当に来ないんですよ」
という話を聞きました。
過去には、ハローワークと一緒に合同の会社説明会を開催したこともあるそうです。
ところが、参加者は思ったほど集まらない。
しかも、せっかく参加してくれた人の中には、すでに運送業で働いている人も少なくなかったというのです。
つまり、
「運送業に興味を持っている若者を新しく呼び込む」
というところから、すでに難しくなっている。
運送会社の経営者の方からも、
「若い人が採れない」
「応募が来ない」
「入社しても長続きしない」
という話は、決して珍しくありません。
しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。
本当に若者は「現場の仕事」を選ばなくなったのでしょうか。
実は、最近の世界の潮流を見ると、少し違った景色が見えてきます。
「ブルーカラー・ルネッサンス」という世界的な潮流
2026年9月19日に放送されたNHKの「所さん!事件ですよ」では、
「エレベーター技師で億万長者!? ブルーカラーの逆襲」
という、非常に興味を引くテーマが取り上げられていました。
番組では、アメリカなどで、高学歴の若者が必ずしも大学を出てホワイトカラーの仕事に進むことだけを目指さず、技術職・技能職などの「現場の仕事」に目を向ける動きが紹介されていました。
NHK「所さん!事件ですよ」
そこで登場するのが、
「ブルーカラー・ルネッサンス」
あるいは、
「ブルーカラー・ビリオネア」
といった言葉です。
日本語にすれば、
「ブルーカラーの復権」
「現場の技能を持つ人が高い価値を持つ時代」
といったところでしょうか。
かつては、
「大学へ進学して、ホワイトカラーの仕事に就くことが成功」
という価値観が強くありました。
ところが今は、少しずつ変化しています。
高度な技能を身につける。
資格を取る。
経験を積む。
簡単には代替できない技術を持つ。
そうした「手に職」の価値が、改めて見直されているのです。
これは、運送業にとっても決して他人事ではありません。
ドライバーも、整備士も、運行管理者も、現場を知る管理職も、長年の経験によってしか身につかない知識や判断力を持っています。
しかし、ここで私はもう一歩踏み込んで考える必要があると思っています。
「ブルーカラーだからAI時代に強い」ではない
ここを誤解してはいけません。
AI時代になれば、
「ホワイトカラーの仕事はAIに奪われる」
「ブルーカラーの仕事はAIに奪われない」
という単純な話ではないからです。
私は、
業界、業種、職種に限らず、AIが人にとって代わるのではなく、AIを使いこなす人が、そうでない人にとって代わる
という方向に進んでいくのではないかと考えています。
もちろん、これは私自身の問題意識であり、将来を断定するものではありません。
しかし、少なくとも今後の仕事を考えるうえで、
「自分の仕事がAIに奪われるか?」
だけを考えるのは、少し違うのではないでしょうか。
むしろ重要なのは、
「自分の持っている専門性や経験に、AIをどう掛け合わせるか?」
ということです。
「経験×AI」という考え方
例えば、運送業を考えてみましょう。
ベテランドライバーには、単純に「運転技術」だけでは説明できない経験があります。
道路事情。
天候。
時間帯による交通状況。
荷主ごとの積み降ろしの特徴。
車両の癖。
危険箇所。
納品先での対応。
過去のトラブル。
「この条件なら、今日はこのルートを避けた方がいい」
という判断。
こうしたものは、長年の経験の積み重ねによって形成されます。
そこにAIやデジタル技術を組み合わせる。
例えば、
・運行データの分析
・配送ルートの最適化
・車両データの活用
・事故・ヒヤリハット情報の分析
・配車業務の効率化
・日報や報告書作成の効率化
・荷待ち時間などのデータ分析
などです。
そうすると、
「AIがドライバーの仕事を奪う」
という話だけではなく、
「ドライバーの経験をAIでさらに活かす」
という方向も見えてきます。
これはドライバーだけではありません。
運行管理者なら、
運行管理の専門知識 × AI
営業担当者なら、
顧客対応の経験 × AI
経理担当者なら、
経理の専門知識 × AI
管理職なら、
現場管理の経験 × AI
経営者なら、
経営判断 × AI
です。
つまり、これから価値が高まるのは、
「ブルーカラーかホワイトカラーか」
という分類そのものではないのです。
専門性、技能、経験を持ち、それを新しい技術と組み合わせられる人。
私は、そこに大きな価値があると考えています。
若者が見ているのは「今の給料」だけではない
ここからが、運送会社の採用・定着を考えるうえで重要なところです。
若い人が会社を選ぶとき、
「給料はいくらですか?」
だけを見ているわけではありません。
もちろん、給与は非常に重要です。
しかし、それだけではなく、
「この会社に入ったら、自分はどうなれるのか?」
ということも見ています。
例えば、
「10年後、この会社で自分は何をしているのだろう?」
「今よりできる仕事は増えているだろうか?」
「資格を取ることができるだろうか?」
「管理職になる道はあるのだろうか?」
「ドライバーから運行管理者になることはできるのだろうか?」
「自分の経験や技能は、将来も通用するのだろうか?」
こうした問いです。
言い換えれば、
「この会社で働くことで、自分の将来に何が残るのか?」
ということです。
ここは、採用だけではなく定着にも直結します。
「人を採る会社」から「人が育つ会社」へ
例えば、若いドライバーを採用したとします。
最初は当然、分からないことばかりです。
しかし、
入社
↓
運転技術を身につける
↓
安全運転の経験を積む
↓
資格を取得する
↓
より高度な仕事を担当する
↓
後輩を指導する
↓
運行管理など別の役割にも挑戦する
という道筋が見えていればどうでしょうか。
単なる「トラックを運転する仕事」ではありません。
そこには、
一人の人間が仕事を通じて成長していくキャリア
があります。
そして、そのキャリアの中にAIやデジタル技術を組み込んでいく。
例えば、
「将来は配車もできるようになろう」
「運行データを見ながら改善提案ができる人になろう」
「新人を教育できる人材になろう」
「AIやデジタルツールを使って現場改善ができる人になろう」
という道です。
こうなると、
「運送業で働く」
ということの意味そのものが変わってきます。
採用と定着は、別々の問題ではない
採用に困っている会社では、
「どうすれば応募者を増やせるか?」
を考えがちです。
求人広告を出す。
ハローワークに求人を出す。
合同説明会に参加する。
SNSを活用する。
もちろん、これらも必要です。
しかし、それだけでは限界があります。
なぜなら、
採用は「入口」の問題であり、定着は「中身」の問題だからです。
どれだけ求人広告を工夫しても、
入社してみたら、
「教育がない」
「将来のキャリアが見えない」
「休みが取りにくい」
「労働時間が長い」
「給与がどう上がるのか分からない」
「資格取得を支援してくれない」
「会社が自分の将来を考えてくれているように感じない」
という状態なら、長く働いてもらうことは難しくなります。
逆に、
「この会社に入れば成長できる」
「資格を取れる」
「仕事を覚えれば給与にも反映される」
「将来は別の仕事にも挑戦できる」
「会社が自分の将来を考えてくれている」
と思ってもらえれば、働く意味は大きく変わります。
だからこそ、
採用戦略と定着戦略は、本来セットで考えるべきなのです。
では、運送会社は何から始めればいいのか?
ここで、いきなり大規模な人事制度を作る必要はありません。
まずは、自社の社員について、
「この会社で5年、10年働いたら、何が身につくだろう?」
と考えてみることです。
そして、次のような項目を書き出してみる。
① 技能
どのような運転技術、現場技能が身につくのか。
② 資格
どのような資格を取得できるのか。
③ 仕事の幅
ドライバーだけでなく、どのような仕事に挑戦できるのか。
④ 役職
将来的に班長、主任、管理職などへの道があるのか。
⑤ 処遇
技能や役割が増えたとき、給与や手当にどう反映されるのか。
⑥ 働き方
長く働き続けるために、労働時間、休日、休暇などはどうなっているのか。
⑦ 将来への備え
働いている間だけでなく、その先の生活についても安心できる仕組みがあるのか。
この7つを考えていくだけでも、
「うちの会社は、人を採るために何を見せればいいのか」
がかなり明確になってきます。
「福利厚生」は、単なるおまけではない
もう一つ重要なのが、福利厚生です。
福利厚生というと、
「給与とは別のちょっとしたサービス」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、人材確保が難しくなっている現在では、福利厚生も会社が人材に提供する「価値」の一つです。
例えば、
「資格取得を会社が支援する」
「健康管理を支援する」
「休暇を取りやすくする」
「仕事と家庭を両立しやすくする」
「将来の生活に備える制度を用意する」
といった取り組みです。
これらは、求人票の中の一つの項目に過ぎないように見えるかもしれません。
しかし、働く側からすれば、
「会社が、自分を単なる労働力として見ているのか、それとも一人の人間として将来まで考えているのか」
という違いにつながります。
特に若い世代にとって、
「この会社で働き続けることで、将来どうなるのか」
という不安を少しでも減らせることには、大きな意味があります。
これは運送業だけの話ではない
ここまで運送業を中心に書いてきました。
しかし、実はこの問題は運送業だけのものではありません。
建設業。
製造業。
小売業。
介護・福祉。
飲食業。
サービス業。
そして、多くの中小企業。
人材確保に悩んでいる会社は少なくありません。
そして、どの業界でもAIやデジタル技術による仕事の変化が進んでいます。
だからこそ、
「うちの業界は人手不足だから仕方ない」
ではなく、
「これからの時代に、この会社で働く価値は何なのか?」
を考える必要があります。
給与だけではありません。
仕事を通じて身につく技能。
資格。
経験。
キャリア。
働き方。
職場環境。
そして将来への備え。
会社が社員に提供できる価値を、一つひとつ考えていく。
それが、これからの中小企業にとって重要な「人材戦略」になっていくのではないでしょうか。
「人を採る」から「人の将来を考える」へ
冒頭で、
「若い人が来ない」
というトラック協会の支部事務局長の話をご紹介しました。
これは、単純に若者の「運送業離れ」という言葉だけでは説明できない問題だと思います。
若者が仕事を選ぶ基準そのものが変化している。
そして、AIによって仕事の価値そのものも変化している。
そんな時代です。
だからこそ、会社側も、
「どうやって人を採るか?」
だけを考えるのではなく、
「この会社で働くことで、その人に何が残るのか?」
を考えてみる必要があります。
「ブルーカラー・ルネッサンス」
「ブルーカラー・ビリオネア」
という言葉は、とてもキャッチーです。
そして、確かに世界では、技能職や現場の仕事の価値が改めて注目される動きがあります。
しかし、本当に大切なのは、
「ブルーカラーだから将来安泰」
ということではありません。
大切なのは、
専門性・技能・経験に、新しい技術を掛け合わせること。
そして、
その人が会社で成長し、将来に希望を持てる環境をつくること。
これは、運送業でも、中小企業でも変わりません。
人材不足の時代だからこそ、
「人を採る会社」から、
「人が成長し、将来を描ける会社」へ。
採用と定着を考えるとき、会社が提供する「仕事」だけではなく、
その人の10年後、20年後まで見据えた会社の価値
を考えることが、これからますます重要になってくるのではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございます。


