AI時代、若者はなぜ「現場の仕事」を選び始めたのか?――運送会社の採用・定着から考える中小企業の「人材戦略」
運送業専門社労士の吉元です。
今回は、2026年9月にナビタイムジャパンが公表した「ドライバー不足の実態と『採用・育成・現場効率化』に関する課題調査」を取り上げます。
この調査は、運送事業者260社とトラックドライバー1,116人を対象に実施されたものです。
調査では、運送事業者の91.2%がドライバー不足を感じていることが明らかになりました。
さらに、不足による影響として「配送案件の断り・機会損失」が58.2%で最も多く、管理者や既存ドライバーへの負担増加なども挙げられています。
つまり、ドライバー不足は、単なる「採用担当者の悩み」ではありません。
仕事を受けられない。
管理者の負担が増える。
既存ドライバーに負担が集中する。
そして、その先には「今いる人が辞めてしまう」という問題までつながっています。
ナビタイムジャパンの調査でも、採用だけでなく、育成・定着まで含めて課題を捉える必要性が示されています。
出典:ナビタイムジャパン「ドライバー不足の実態と『採用・育成・現場効率化』に関する課題調査」(2026年)
では、これほど人手不足が深刻なのに、なぜ「採用できない」のでしょうか。
私は、この調査結果を見て、もう一段深く考える必要があると感じました。
「応募者が集まらない」が77.3%
調査の「採用上の課題」では、
「応募者が集まらない」77.3%
が最も高い結果となっています。
これは、運送会社の採用活動を考えるうえで非常に重要な数字です。
「求人を出しているのに応募がない」
という状態です。
さらに、
・期待する能力・経験を持つ応募者が来ない 49.2%
・採用しても早期に離職してしまう 36.9%
・他社との条件競争に負ける、または条件が合わず辞退される 36.2%
という回答も続いています。
ここから見えてくるのは、
「人がいない」だけではなく、「採用できない」「採用しても定着しない」という問題が同時に起きている
ということです。
つまり、採用だけを切り離して考えることが難しくなっています。
「採用」より前に、「選ばれる理由」があるか
では、ドライバーは何を見て会社を選んでいるのでしょうか。
今回の調査には、非常に興味深い比較があります。
運送会社側に、
「ドライバーを採用する際、自社の魅力・強みとして強くアピールしている点はどこですか?」
と聞いたところ、上位は、
会社の安定性・将来性 55.8%
労働時間の調整しやすさ 38.5%
休日の多さ・安定性 35.4%
となっています。
一方、ドライバー側に、
「現在の勤務先を選んだ理由」
を聞くと、
自宅から近い 36.1%
給与水準が良い 29.6%
人間関係・社風が良い 23.8%
未経験でも採用があった 21.5%
などが上位となっています。
ここには、少し面白いズレがあります。
会社側が、
「うちは安定しています」
「将来性があります」
「働きやすいです」
と伝えていても、
求職者が実際に会社を選ぶときには、
「家から近い」
「給料がいい」
「人間関係がよさそう」
といった、より具体的で自分自身の生活に直結するポイントを見ている。
もちろん、「安定性・将来性」が重要ではないということではありません。
むしろ問題は、
会社が考える「自社の魅力」と、求職者が実際に感じる「働く理由」が一致しているか
ということではないでしょうか。
「給与を上げれば採用できる」は、本当にそれだけなのか
今回の調査では、ドライバー不足への対応策として、
「給与・待遇の改善」58.8%
が挙げられています。
これは設問7の結果です。
もちろん、給与・待遇は重要です。
運送業に限らず、働くうえで賃金は重要な条件です。
特に現在のように人材獲得競争が激しくなれば、賃金水準を無視して採用活動を行うことは難しいでしょう。
しかし、
「給与を上げれば、人が来る」
と単純化してしまうのも危険です。
なぜなら、給与を上げれば他社も上げる可能性があるからです。
給与だけで競争すれば、最終的には、
「もっと高い給与を出す会社へ移る」
ということにもなりかねません。
そこで重要になるのが、
「給与以外に、この会社で働く理由があるか」
という視点です。
「定着性」を重視する会社が50.8%
採用する側が応募者を見るとき、何を重視しているのでしょうか。
調査では、
「長く働いてくれそうか(定着性)」50.8%
が最も高い結果となっています。
これは、とても象徴的な数字だと思います。
会社は、
「せっかく採用するなら、長く働いてほしい」
と考えています。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
会社が、
「この人は長く働いてくれるだろうか」
と考えるのと同じように、
応募者も、
「この会社で長く働けるだろうか」
と考えているのではないでしょうか。
これは、採用の視点を180度変える話です。
「どうすれば人を採れるか」
だけではなく、
「どうすれば、この会社で長く働きたいと思ってもらえるか」
を考える。
採用と定着を、別々の問題として考えないことです。
「福利厚生」は、まだ24.2%
採用時に自社の魅力としてアピールしている項目を見ると、
福利厚生の充実度 24.2%
となっています。
もちろん、福利厚生だけで採用できるわけではありません。
しかし、私はここに運送会社が考えるべき余地があると思っています。
給与。
休日。
労働時間。
人間関係。
仕事内容。
これらは、求職者が会社を選ぶうえで非常に重要です。
一方で、
「この会社で働き続けることで、自分や家族の将来にどんな安心が得られるのか」
という視点もあります。
これは、目先の給与額とは少し違う「働く価値」です。
例えば、
・将来に向けた生活設計を会社が応援してくれる
・長く働くことにメリットを感じられる
・家族にも安心してもらえる
・万が一のときにも一定の支えがある
・仕事だけではなく、従業員の人生そのものを考えている
こうした要素も、会社の「人を大切にする姿勢」を伝える材料になります。
そして、それは採用だけでなく、定着にも関係してくるはずです。
満足度を上げるために、会社が考えていること
さらに興味深いのが、従業員満足度向上のために「検討したい」と考えている取り組みです。
最も多かったのは、
給与・手当の引き上げ 61.5%
でした。
続いて、
休日数の増加・有給の取りやすさ 42.3%
手積み・手降ろしの削減など、肉体的負担の軽減 31.2%
安全運転評価や明確な評価制度の導入 30.4%
福利厚生の充実 28.1%
となっています。
ここでも、
「給与」だけではありません。
休日、身体的負担、評価制度、福利厚生、教育制度、荷待ち時間、管理者とのコミュニケーションなど、さまざまな要素が並んでいます。
つまり、従業員満足度は、
「給与をいくら払うか」だけで決まるものではない
ということです。
「人を採る会社」から「人に選ばれる会社」へ
私は、今回の調査結果から、運送会社の採用戦略は少しずつ変わっていく必要があると感じています。
これまでは、
「求人を出す」
↓
「応募を待つ」
↓
「面接する」
↓
「採用する」
という発想が中心だったかもしれません。
しかし、人手不足がここまで深刻になると、それだけでは限界があります。
これから必要なのは、
「この会社で働きたい」と思ってもらえる会社をつくること。
つまり、
「人を採る会社」から「人に選ばれる会社」へ
という発想です。
そのためには、
給与を見直す。
休日を見直す。
労働時間を見直す。
身体的負担を減らす。
評価制度を整える。
教育制度を整える。
管理者とのコミュニケーションを改善する。
そして、
福利厚生や将来への安心まで含めて、「この会社で働く価値」を考える。
こうした取り組みを一つひとつ積み重ねる必要があります。
採用・定着は、「賃金制度」だけの問題ではない
私は社労士として、運送会社の賃金制度や労働時間制度、就業規則などの整備に関わっています。
その中で感じるのは、
「人が採れない」という問題の背景には、会社の制度そのものが関係しているケースが少なくない
ということです。
賃金制度が分かりにくい。
頑張っても評価される仕組みが見えない。
休日や労働時間について会社と従業員の認識が違う。
将来、どのように給与が上がるのか分からない。
会社として従業員をどう大切にしていくのかが伝わっていない。
こうした状態では、求人票に「アットホームな職場です」と書くだけでは、なかなか人には伝わりません。
逆に言えば、
制度そのものが、採用のメッセージになる
ということです。
「うちは従業員を大切にしています」と言葉で伝えるだけではなく、
賃金制度、労働時間、休日、評価制度、福利厚生などに、
「従業員を大切にする会社」という考え方が表れているか。
ここが重要なのだと思います。
「人手不足だから採用する」から、「人が働き続けたい会社をつくる」へ
今回のナビタイムジャパンの調査では、運送事業者の91.2%がドライバー不足を感じています。
そして、採用上の最大の課題は「応募者が集まらない」77.3%。
さらに、採用時には「定着性」を重視する会社が50.8%。
従業員満足度向上のためには、給与だけではなく、休日、身体的負担、評価制度、福利厚生など、さまざまな改善が検討されています。
これらを並べてみると、一つの方向が見えてきます。
それは、
採用と定着を別々に考えないこと。
そして、
「採用できる会社」ではなく、「選ばれ、働き続けてもらえる会社」をつくること。
ではないでしょうか。
人手不足だから、給与を上げる。
人手不足だから、求人広告を増やす。
人手不足だから、採用基準を下げる。
もちろん、こうした対応が必要な場面もあります。
しかし、それだけでは人材獲得競争から抜け出すことはできません。
「この会社で働くと、どんな未来があるのか」
「この会社は、自分の生活や将来をどう考えてくれているのか」
「長く働くことで、どんな安心やメリットがあるのか」
そこまで含めて会社の魅力を考える。
これからの運送会社には、そんな視点がより重要になってくるのではないでしょうか。
給与以外の「働く価値」をどうつくるか
今回の調査を見て、私が特に注目したのは「福利厚生」です。
福利厚生の充実度を採用時の魅力としてアピールしている会社は24.2%。
従業員満足度向上のために福利厚生の充実を検討している会社は28.1%でした。
もちろん、福利厚生を整えれば必ず採用できる、必ず定着する、という話ではありません。
しかし、
給与とは別の「働く価値」を会社としてどう設計するか。
これは、これからの人材確保を考えるうえで、避けて通れないテーマになると思います。
特に運送業では、ドライバーの高齢化や若年層の確保、未経験者の採用、長期定着など、さまざまな課題が同時に存在しています。
だからこそ、
「給与をいくら払うか」
だけではなく、
「この会社で働き続けることに、どんな価値があるのか」
を考えてみる。
そこに、採用・定着戦略の新しい可能性があるのではないでしょうか。
次回は、この「給与以外の働く価値」の中でも、特に福利厚生と将来への安心という視点から、運送会社の人材確保について、もう少し具体的に考えてみたいと思います。
出典
ナビタイムジャパン
「ドライバー不足の実態と『採用・育成・現場効率化』に関する課題調査」
調査期間:2026年7月
対象:運送事業者260回答、トラックドライバー1,116回答
ナビタイムジャパン公式・調査プレスリリース
最後までお読みいただきありがとうございます。


